【ミュージアム探訪】スズキ歴史館(後編)

「実行」ゾーンの主役である「わが家のフロンテ」のコーナー。ブロック塀には当時の様子とここで撮影した来館者の写真を合成した映像が表示され、なにやら古きよき時代にタイムスリップしたような気分になれる。
高度経済成長期に入ると、スズキは多様化する時代に合わせて数多くの車種を展開。ここではジウジアーロが基本デザインを手がけたフロンテクーペや、今や世界中で活躍するジムニーの初代モデルなども見ることができる。
1979年に発売された初代アルト。47万円という販売価格がどれほど驚異的なものだったかが分かるよう、当時の家電や生活用品などとともに展示されている。
デザイナーのアイデアスケッチを具現するための、クレイモデルを紹介するコーナー。題材となっているのはコンパクトカーのスプラッシュのようだ。
静岡県浜松市周辺の文化や産業、歴史などを紹介する遠州コーナー。鈴木道雄や、豊田佐吉、本田宗一郎など、多くの偉人が遠州から輩出されたことに驚かされる。

スズキの創業から四輪&二輪事業の始まりまでの展示を見学しつつ、3階のさらに奥へと進む。すでに高度成長期に入っていた1964年から1977年までの同社の歴史がわかるのが「実行」というゾーンだ。ここでは「わが家のフロンテ」と題し、当時の家屋を模したスペースに1967年に発売されたフロンテ360(2代目、LC10型)を展示。本格的なマイカー時代の訪れを感じることができる。
何やら映画『ALWAYS 三丁目の夕日』や『サザエさん』を連想させる平屋(1階建て)の前に置かれたフロンテ360は、空冷2サイクル3気筒エンジンを搭載し25psを発生。価格は37万7000円だった。解説パネルを読んでいると、一般家庭でも手に入れられる魅力的な価格と、家族4人そろってのドライブを可能にしたこのクルマの登場が、モータリゼーションの発展に寄与したことがわかる。

隣に移動するとそこは「革新・貢献」のゾーン。ここでは「アルト47万円」のコピーで大ヒットとなった軽自動車、アルトの誕生について解説されている。この歴史館では、各時代の生活水準がわかるよう、至るところで当時の大卒初任給や電車の運賃、1カ月の新聞代などが紹介されており、それを見ると、クルマというものがいかに高級品であったかが感じられる。そんな中で、47万円のアルトは驚異的な低価格だったのだ。

そしてこのフロア最後の展示となるのは、1986年から現在に至る「挑戦」というブースだ。ここでは軽トールワゴンの礎となった初代ワゴンR(1993年)や、世界戦略車のスイフトなどといった今日に続く主力商品とともに、ハイブリッドや燃料電池といった新技術に関する、文字通り挑戦の歴史が紹介されている。

このように、3階では主に四輪&二輪事業の歴史を中心に濃密な展示がされていたが、それに負けず劣らず、現在のクルマづくりのプロセスを紹介する2階のフロアも興味深い。
普通、工場見学などではクルマの生産ラインなどを見るのが定番だが、ここではクルマを作る前段階の「開発」のプロセスを紹介するコーナーがユニークだ。例えば車両が企画される会議やデザイナーのスケッチを描くデザインルームの様子、デザインの工程で制作される実寸サイズのクレイ(粘土)モデルなどが、映像も交えて非常にわかりやすく展示されている。

その隣にあるのが「生産」のゾーン。ここでまず体験できるのが「ファクトリーアドベンチャー」と呼ばれる3Dシアターで、専用のメガネをかけることにより、目の前で溶接機やプレス機が動くさまを立体的に見ることができる。また上映中にいすが振動したり、霧が噴射されたりと、ちょっとしたアトラクション的な演出もあって面白い。さらに、実物大の組み立てラインの展示も行われており実際の工場見学さながらの雰囲気を味わうことができる。

そんな見応え十分の見学の後は、隣のコーナーで少し頭をトレーニング。ここではグローバル企業として世界でビジネスを展開しているスズキの生産や販売の概況を、大型の地球型ディスプレイで知ることができる。同時に、スズキが拠点を構える世界各地の産業や文化を、クイズ形式で紹介。ネタバレだが、海外拠点の「パックスズキモーター社」があるパキスタンでは、世界で使われる手縫いのサッカーボールの80%近くが生産されているそうだ。

最後となるのが、スズキ本社のある静岡県浜松市周辺、通称「遠州地方」について学ぶことができるゾーンだ。入って驚くのが床一面に広がるこの地域の航空写真で、思わず座り込んで見入ってしまうほどの出来栄えだ。このほかにも、毎年5月に開催される「浜松まつり」のジオラマや、クルマ好きなら遠州地方が産んだ「ものづくりの偉人」の紹介パネルにも注目したい。3階でも紹介した鈴木道雄(スズキ)や、豊田佐吉(トヨタ)、本田宗一郎(ホンダ)が、山葉寅楠(ヤマハ)、河合小市(河合楽器)、高柳健次郎(テレビの父と呼ばれた日本ビクター元技術最高顧問)とともに紹介されているのだ。

正直言って、外からはどの位の規模か予想できなかったが、実際はかなり内容が濃いのがこの歴史館の特徴。浜松市という地元を重視しつつ、グローバル展開している拠点への敬意をはらう姿勢。そして何よりもこの歴史館が「ものづくり」というテーマに特化し、過去から未来へ情報を発信している点が、社会科見学などでも好評の理由なのだろう。

(文=高山正寛)

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[ガズ―編集部]

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