わたしの自動車史(後編) ― 河村康彦 ―
そんなトヨタ・スターレット(KP61型)では、当時は夜間開放されていた奥多摩有料道路(現在の奥多摩周遊道路)をひとり夜な夜な走り回り、サーキットライセンスを取って“どノーマル”のまま、タイヤの溝とガソリンがなくなるまで筑波サーキットを走り回ったものである。もちろんそれが、自分のドライビングスキルの原点でもあったはず。仲間を募って走ることはまず皆無で、出掛ける時は決まって単独行だったのは、「事故ればそのまま帰れなくなる」というプレッシャーが、無理をしないためのひとつの秘訣(ひけつ)でもあると考えたからだ。
その後、なぜかとある自動車雑誌の出版社へと入社し、収入が(今よりも……)安定したことから早々に新車を物色。で、取材で広報車両を試しての好印象から決定したのが、こちらも最後のFRとなる、通称「ヒラメ・セリカ」のGT-T=ツインカム・ターボ車だった。
ただし、そんなセリカは1年を待たずして売却に。その顛末(てんまつ)は当時の誌面に「長期テスト・レポート」として連載したが、結局その代替としてやって来たのは、初代のMR2とまたもトヨタ車だった。
そんなMR2から乗り換え、今へと続く“ポルシェ・ライフ”の発端となったのは、やはり取材で乗ってそれまでに経験したことのないフラットライド感に仰天して手に入れた944S。ところが、困ったことにこのモデルが「カーペット下でブレーキランプへの配線がショート」したり、「コグド・タイミングベルトを掛けている樹脂製のプーリーが割れて、あわやエンジンが全損寸前」となったりと、まさに80年代後半のこのブランドの品質問題を象徴するような不具合を頻発。たびたびの入退院を繰り返している時に、突如彗星(すいせい)のごとくマツダから現れたキュートな存在が、ユーノス・ロードスターだった。
ところが、この時点ではすでにフリーランスとなっていたため、やはり早々に手に入れた同業者が乗る、同じブルーのユーノスとたびたび遭遇するという事態に困惑。かくして決断した“全塗装”では、「ジャガーにある色ならば何でも似合うから!」という当時のチーフデザイナー氏の言葉に押され、淡い「シルバーブルー」色へと大変身。これが、誰に見せても「いい色だね」「何だか高級そうに見える」と好評だったことにも気をよくして、結局その後6年ほども共に過ごすことになったのも良き思い出だ。
一方で、当初は購入資金の一部へと充てるつもりでいたそんなユーノスが“温存”されることとなり、金策に苦労をしながらも結局長期ローンを組んで手にしたのが、やはり取材で試乗した結果、あまりの高性能ぶりにほれ込んでしまった964型の初代ポルシェ911カレラ4。「カローラサイズなのに走ればすごい!」というのは、今の911からは失われてしまった貴重なキャラクター。最後は、エンジンオイルのにじみやパワステフルード漏れなど、やはり“品質問題”とそれに伴うメンテナンス費用がネックになって手放してしまったものの、「あの性能を、メンテフリーの状態で何年も味わうことが保証される」なら、あらためて手に入れたいモデルの最右翼が、実はこのモデルであったりもする。
最近毎月のように「業績絶好調!」の声が聞かれるポルシェのすごいところは、そんな苦しい時代の出来事を糧とし、トヨタ流儀の生産管理方式を取り入れて、今では世界の量産車メーカーの中でもトップレベルの信頼性を勝ち取ったところにもあるように思う。
それを象徴するのが、ボクスター/ケイマンというミドシップモデルの、前後に大容量のラゲッジスペースを備えるパッケージング。初代ボクスターに初代ケイマンS、そして現在の2代目ケイマンSと、自身でも歴代のポルシェ・ミドシップモデルを愛車としてきた一因には、信頼性の高さを前提に「エンジンルームを封印する」という大胆なパッケージングを採用し、恐らく世の中のあらゆる2シータ-モデルの中でも最大級のラゲッジスペースを実現させたという“実用性の高さ”も、大いに関係しているのだ。
で、もう一台。実はそんなケイマンSと共に現在も手元に置いているのが、“四輪の原付き自転車”のノリで手に入れた2002年式のスマートクーペ。
そんな2台体制は、「これぞ自身にとって最強のコンビネーション!」と自負しているもの……なのだが、ようやく走行1万kmを超えたばかり(!)のスマートに“旧車増税”の危機が迫るのが、実は現在の悩みの種であったりもするのである。
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[ガズ―編集部]
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