映画とクルマ ~アウトローの不文律~

ハリウッド映画では、クルマが登場人物の性格描写に利用されることが多い。“こういうクルマに乗っているのはこんな人”というパターンが決まっているのだ。マッチョな男はピックアップトラックに乗っていて、嫌みなインテリはハイブリッドカーで現れる。中古のボルボで買い物に出掛ける奥さんは家庭的でしっかり者だ。驚くほどステレオタイプだが、アメリカ人にとってはこれが常識らしい。

一昔前まではギャングや殺し屋のクルマはメルセデス・ベンツが定番だったが、昨今ではアウディにその座を奪われつつある。ブラックのQ7が隊列を組んで走ってくれば、中からマシンガンで武装したワルモノが現れて激しい銃撃戦になることが予想される。

このように、ギャングの好みには変化があっても、一貫して変わらないのがアウトローのクルマである。社会に反逆するアンチヒーローは、ダッジで爆走しなければならない。これは、鉄則なのだ。

日本では聞きなれない名前かもしれないが、ダッジというのはクライスラーの大衆車ブランドである。GMでいえばシボレーの位置にある存在なのだが、シボレーよりはるかにマイナーだ。それでもアウトローたちは、ダッジを愛してやまない。

カーチェイスの古典ともいうべき1968年の『ブリット』では、フォード・マスタングに乗るスティーブ・マックィーンが悪役のダッジ・チャージャーと死闘を繰り広げる。追いつめられたチャージャーは、クラッシュして爆発炎上するのだ。ダッジが派手に散るというイメージは、この映画で決まってしまった。

1968年式ダッジ・チャージャーR/T。『ブリット』では黒いチャージャーが登場し、主人公のドライブするフォード・マスタングと映画史に残るカーチェイスを繰り広げた。

1971年に公開された『バニシング・ポイント』では、陸送を請け負うはぐれ者の男が、1970年型ダッジ・チャレンジャーをデンバーからサンフランシスコまで15時間で届ける賭けをする。法定速度を守っていたのでは到底間に合わないので、警察から追いかけられるハメになった。その様子をラジオの人気DJが実況中継し、全米から応援を受けながら走り続ける。警察が厳しい検問態勢を整えて待ち構える中、主人公と白いチャレンジャーは壮絶な最期を迎える。

1970年式ダッジ・チャレンジャー。『デス・プルーフ』に登場する白いチャレンジャーは『バニシング・ポイント』の劇中車をオマージュしたものだ。劇中では登場人物が、『バニシング・ポイント』がいかに衝撃的な映画だったかを語るシーンも。

続くのが1974年の『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』だ。15万ドルの現金を盗んだラリーとディークに不良娘のメリーが加わり、ダッジ・チャージャーで逃走する。ドライビングテクニックを駆使してパトカーを次々に蹴散らし、逃げおおせたかと思ったところで悲惨な運命に見舞われる。ダッジに乗ったアウトローは、爆発炎上しなければならない。

ダッジ=アウトローの不文律は、現在でも受け継がれている。2007年の『デス・プルーフ』では、ラストがチャージャーとチャレンジャーによるカーチェイスだ。どちらに乗っているのもまっとうとはいえない面々で、2台とも走っているのが不思議なほど破壊しつくされる。クエンティン・タランティーノが、このクルマの位置づけをわかって映画に登場させているのは間違いない。

大バジェットのメガヒット映画に成長した『ワイルド・スピード』シリーズでは、最初からダッジ・チャージャーが重要な役どころを担っていた。ヴィン・ディーゼルが演じる主人公ドミニクの愛車が、1970年型のダッジ・チャージャーなのだ。彼は最新作では警察と協力して世界の危機を救っているが、第1作ではトラック強盗の親玉で、ストリートレースの主催者でもあった。シボレーやフォードではなく、ダッジを選ぶに決まっている。彼のチャージャーは爆発炎上していないが、最後に必ず見せ場を作ってくれると期待している。

爆発炎上はしていないものの、『ワイルド・スピード』の第1作で愛車のダッジ・チャージャーを横転、大破させてしまった主人公のドミニク。6作目の『ワイルド・スピード EURO MISSION』では、やはりダッジの1969年式チャージャーデイトナをドライブしている。

(文=鈴木真人)

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[ガズ―編集部]