SUPER GT――熱狂の市販車バトル (2005年)
よくわかる自動車歴史館 第119話
3大メーカーがサーキットで技術力を競う
トヨタ、日産、ホンダが激烈な戦いを繰り広げる。販売台数のことではない。日本の3大自動車メーカーは、サーキットでも激しい競争を展開しているのだ。日本で最も人気が高いとされるSUPER GTは、各メーカーが技術力を競うステージとなっている。
2016年はGT500クラスに、レクサスのRC F、日産のGT-R、ホンダのNSX CONCEPT-GTの3車が参戦した。どれも市販されているクルマの名前である。ただし、中身はまったくの別物だ。エンジンもシャシーも、レース専用のものが使われている。それでも、形を見れば街で見かけるクルマを思わせる。自分の愛車にそっくりなクルマがレースをしていれば、応援したくなるだろう。フォーミュラカーレースよりも感情移入がしやすいのだ。
- ツインリンクもてぎで開催されたSUPER GTの2016シーズン最終戦の様子。参戦車両は、いずれも市販モデルをベースとしたデザインとなっている。
日本で初めて行われた本格的な自動車レースは、1963年の第1回日本グランプリである。フェラーリ、ポルシェ、ロータスといったスポーツカーが、完成したばかりの鈴鹿サーキットを走った。そのスピードに観客は驚嘆する。低く構えたフォルムも、これまでに見たことのないものだった。ヨーロッパの最新スポーツカーの走りを目の当たりにし、日本人はモータースポーツの魅力に目覚めたのである。
同時に行われたツーリングカーレースも鮮烈な印象を残した。国産乗用車がクラス分けされ、トヨペット・クラウン、日産セドリック、スバル360といったモデルがサーキットを走った。市販車そのままで参戦するマシンが多く、初めてレースをするアマチュアドライバーがほとんどである。運営側も経験がなくて現場は混乱したが、レースは大成功だったと言っていい。
サーキットを走っていたのは、もしかしたら自分が購入して乗ることになるクルマかもしれない。ヨーロッパのスポーツカーとは違い、手の届くところにあるということが人々を熱狂させた。レースが絶大な広告効果を持つことに気づき、自動車メーカーはモータースポーツに取り組む体制を整えていく。
- 1963年に鈴鹿サーキットで開催された、第1回日本グランプリ。レースでの勝利がもたらす広告効果に気づき、自動車メーカーはモータースポーツに力を注ぐこととなる。
ウェイトハンディキャップで白熱したレースを演出
SUPER GTに出走するマシンは、GT500とGT300の2クラスに分けられている。このうち、トップカテゴリーのGT500の車両はほぼレース専用車と言っていい。大幅な改造が認められていて、各メーカーがモンスターマシンを仕立てている。
GT300にはJAF-GTとFIA-GTという2つの規格が併存している。GT500に比べると出力が抑えられており、改造範囲も狭い。3大メーカーが激突するGT500とは違って車両価格が低く、比較的参加しやすいカテゴリーだ。トヨタ・プリウスからランボルギーニまで、バラエティーに富んだマシンが並ぶ。
- 2017年シーズンのGT500クラスに投入される、レクサスLC500。レース専用のシャシーやエンジン、空力性能に特化したボディーカウルを持つ、生粋のレーシングカーである。
SUPER GTがスタートしたのは2005年。歴史をたどると、前身の全日本GT選手権(JGTC)は1993年に始まっている。タイミングとしては前年に終了した全日本プロトタイプカー耐久選手権(JSPC)に取って代わった形だ。しかし、スタートが順調だったとは言いがたい。1993年シーズンは参加車両が集まらず、わずか3戦しかレースが成立しなかった。JGTCのために開発されたマシンはスカイラインGT-Rだけで、他のクラスの車両と混走することでようやくレースの体を保っていた。公式には、JGTCの開始は翌年の1994年とされている。
- 1993年の鈴鹿1000kmを走るスカイラインGT-R。この年のJGTCは全4戦で行われたが、うち1戦は参戦車両が集まらずに不成立となってしまった。
多くの車両の参加を促すべく、規定の見直しが行われた。ヨーロッパのGTレースにならい、GT1、GT2という2つのクラスが設定される。1996年からはGT500とGT300に名称変更され、今に至っている。この数字は、約500psと約300psという最高出力が想定されていることを意味するものだ。
決勝レースは2クラス同時に行われる。性能差は明らかで、GT500のマシンは圧倒的なスピードでGT300のマシンを追い抜いていく。GT500のドライバーには、遅いクルマを利用してバトルを有利に展開するテクニックも求められる。抜かれる側も細心の注意が必要だ。結果として、サーキットのいたるところでエキサイティングなシーンが見られることになる。
- 2016年シーズンの第4戦SUGOにて、GT500クラスのレクサスRC F(手前)とGT300クラスのトヨタ・プリウス。スピード差のある2つのクラスの混走によって競われるのも、SUPER GTの特徴である。
ウェイトハンディキャップ制もこのレースを特徴づける規定である。上位入賞車は次のレースで一定の重量のウェイトを載せることが義務づけられる。速いマシンほどハンディが増す仕組みで、戦力を平準化して白熱したレースを演出することが目的だ。
シーズン当初はマシンの製作が間に合わず、GT1ではグループA仕様のGT-Rを改造したマシンが主役となった。ほかにも、N3やN1耐久など、さまざまなカテゴリーからの転用マシンが参戦している。ランボルギーニ・カウンタック、フェラーリF40も走り、スーパーカーファンを喜ばせた。観客が驚いたのは、ポルシェ962Cの登場である。プロトタイプレーシングカーではあるが、ヨーロッパでロードゴーイングカーとして登録されているという理由で参加が認められた。規定に合わせるために350kgものウェイトを載せたが、それでもポールポジションを獲得している。
1995年からはR33のGT-Rが加わり、トヨタ・スープラも本格的に参戦する。参加台数は大幅に増え、レースによっては30台以上がエントリーした。1996年になるとホンダNSXもデビューする。これでGT500クラスにおけるトヨタ、日産、ホンダのワークス対決の構図が定まったわけである。
- JGTCのGT500クラスにトヨタが投入したスープラ(左)と、ホンダが投入したNSX(右)。両モデルの参戦により、今日に続く3大メーカーによる戦いの構図が出来上がった。
海外レース開催で国際化を模索
エンジンには、リストリクターと呼ばれるパーツを装着することが義務づけられている。吸気量や燃料流量を制限することによって、出力の上限を定めているのだ。排気量や車両重量などにより、リストリクターは異なるサイズが設定される。性能が低いと判断されたマシンには、1ランク上のリストリクターが許容される規定もあった。戦力の均衡を保つために、毎年レギュレーションの見直しが行われている。
イコールコンディションを追求する努力の結果、JGTCでは常に複数の車種が競い合う状況が生み出された。特定のモデルだけが勝利を独占することはなく、シーズン終盤まで観客の興味は薄れない。勝利の可能性は平等に与えられるので、GT500クラスでは3大メーカーのいずれも欠けることなく、激しい競争が続けられてきた。
- 1997年のドライバーズタイトルとチームタイトルを独占したカストロール トムス スープラ。トヨタ勢が年間タイトルを獲得したのはこれが初のことである。2000年にはホンダも初の年間タイトルを奪取し、トヨタ、ホンダ、日産によるタイトル争いが本格化した。
エンジン出力では勝負が決まらないわけで、勝つためにはマシンの総合的なポテンシャルを上げる必要がある。外形にベース車の特徴を残すという条件をクリアしながら、レースに最適な条件を満たしたマシンを作り上げていく。サスペンション形式やエンジン搭載位置もベース車が基準になるが、次第に規制が緩められてレースに特化したパーツを使用することができるようになっていった。
ボディーには大きな空力パーツが取り付けられ、フェンダーは太いタイヤを収められる形状になった。重量物の搭載位置を見直し、低重心化とマスの集中化が図られる。ボディー下面の空気の流れをコントロールし、ダウンフォースを得る研究も進んだ。技術の進化でスピードが上がりすぎると、危険を回避するためにレギュレーションが変えられる。それに対応して各チームはまた別な手法を開発し、競い合いながらマシンが熟成されていく。
レースは鈴鹿サーキットや富士スピードウェイなど全国のコースで行われ、順位によって得られたポイントの合計で年間チャンピオンが決定する。2000年にはマレーシアのセパンサーキットでノンタイトルのスペシャルラウンドが行われ、2002年からは正式にシリーズに組み込まれた。モータースポーツへの関心が高まるアジアに目を向け、国内レースの枠から一歩を踏み出したのだ
- 2002年のJGTC第4戦セパンの様子。セパンでの初のタイトル戦となった同レースでは、松田次生とラルフ・ファーマンがドライブするモービル1 NSXが優勝した。
中国でもレースを行うことが検討され、3カ国以上で開催されると国内選手権とみなされないというFIAの規定に触れる可能性が高まった。2005年からはJAFの管轄を離れ、レース名も改めることになる。今日に続く、SUPER GTの誕生である。実際にはその後も2カ国での開催にとどまっているが、現在もSUPER GTはFIA公認の国際シリーズである。
- 岡山国際サーキットで開催された、2005年シーズンの開幕戦の様子。10年にわたって続いてきたJGTCは2004年をもって終了し、同年よりSUPER GTとして再スタートすることとなった。
2014年にはドイツツーリングカー選手権(DTM)と車両規則が統一され、レギュレーションが大幅に改定された。GT500クラスのマシンに搭載されるエンジンは、2リッター直4直噴ターボのNRE(Nippon Race Engine)である。モノコックやプロペラシャフトなども共通部品化されている。
イコールコンディションによって激しいバトルが約束され、ファンは自分の乗るクルマと同じ形のマシンを応援する。あたかも自分がレースを戦っているような気持ちになれるのだ。1963年に行われた日本グランプリの熱狂は、形を変えて今も続いている。
関連トピックス
topics 1
全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権
1980年代はル・マン24時間レースの人気が高かった時代である。ポルシェが破竹の7連勝を記録する中、ジャガーが肉薄する展開を観客は息をのんで見つめた。日本の自動車メーカーも果敢にチャレンジし、期待が高まっていった。
1982年、日本でも世界選手権のかかった耐久レースが行われる。富士スピードウェイでWEC-JAPANが開催されたのだ。この年FIA車両規則変更で導入されたグループC規格の車両で争われる世界耐久選手権(WEC)の1戦という位置づけである。
1983年からはWEC-JAPAN以外のレースも加え、全日本耐久選手権がスタートする。圧倒的な強さを誇るポルシェ956に対し、トヨタと日産のワークスが挑むという構図が人気を呼んだ。
1987年に全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権に名称変更された。ポルシェの牙城はなかなか崩せなかったが、1990年に日産がR90CPで初のチャンピオンシップを獲得した。
- 1990年の全日本富士500マイルレースを走る、日産のR90CP。JSPCにおいて、日本勢初の年間タイトルに輝いた。
topics 2
セパン・インターナショナル・サーキット
F1が初めてアジアで開催されたのは、1976年のF1イン・ジャパンだった。1987年からは日本GPがカレンダーに組み込まれ、継続して開催されるようになる。日本以外でのアジア初開催となったのが、1999年のマレーシアGPだった。
1981年にマレーシア首相に就任したマハティールは、ルック・イースト政策を進めた。日本や韓国の成功に学び、近代化を加速しようとしたのだ。本格的なレースを開催できるサーキットの建設もその一環として構想された。
首都クアラルンプール郊外に建設されたセパンサーキットで、1999年からF1が開催されるようになった。ヘアピンで結ばれた長いストレート2本と連続する中速コーナーで構成されるテクニカルなコースは、F1ドライバーから高い評価を受けた。
翌年からはJGTCも開催されるようになる。赤道直下に位置することからドライバーとマシンは暑さとの戦いを強いられた。突然襲ってくるスコールへの対応も勝負を分ける重要な要素だった。
- 2001年にセパンサーキットで行われたJGTCのノンタイトル戦の様子。セパンでは2002年から2013年にかけて、JGTCおよびSUPER GTのタイトル戦が開催された。
topics 3
NRE
2014年からSUPER GTのGT500クラスで使用されるエンジンはNRE に統一された。Nippon Racing Engineの略称で、トヨタ、日産、ホンダが共同で基礎開発を行った。
市販車へのフィードバックの容易さを考慮し、2リッター直列4気筒というフォーマットが選ばれた。直噴ターボエンジンとなったのも、ダウンサイジングターボ技術のトレンドに沿っている。
NREではリストリクターを使って燃料流量を厳格にコントロールする。より少ない燃料で効率的にパワーを生み出す技術が競われることになった。過給圧制限はないので、各社は独自の設定で効率を追求する。
スーパーフォーミュラでも、基本的に同じエンジンが使われている。フォーミュラとツーリングカーのトップカテゴリーで競い合うことで、日本全体のエンジン技術向上が図られているのだ。
- SUPER GTのGT500車両に搭載されるNREの2リッター直噴ターボエンジンは、スーパーフォーミュラのレーシングカーにも搭載されている。
【編集協力・素材提供】
(株)webCG http://www.webcg.net/
[ガズー編集部]
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