スマホでもOK。初めてでも絶景写真をモノにするポイントを達人2人に教わる
風景写真家とデジタルカメラマガジン編集長にレクチャーしてもらおう
スマートフォンに搭載されるカメラの性能は、ここ数年で大幅に向上していて、写真を撮影する機会も増えてきています。新たな趣味として、これから写真撮影を楽しんでみようと考えている人も多いのではないでしょうか。
今回は富士五湖のひとつ精進湖のほとりで、風景写真家として活躍する「今浦友喜」さんと、デジタルカメラマガジン編集長の「福島晃」さんを迎えて、風景写真、もとより写真を趣味としてはじめたいときに、どうすればいいのか、どういったところで写真を撮るといいのか、何を揃えていけばいいのかなどなどをうかがいました。お勧め撮影ポイントや撮影の視点など含めてレクチャーしてもらったので、すでに風景写真を撮りはじめている方にも参考になると思います。
精進湖は、湖面越しに富士山を望む絶景写真が撮りやすいスポットです。湖畔の公園のそばに広めの駐車場もあるのでマイカーでのアクセスも良好です。
今回訪れた精進湖は、富士山の北西に位置する富士五湖最小の湖
最初の1枚までに知っておきたいこと
- 最低予算:カメラは安価でもOK。まずは手持ちのスマートフォンでもOK
- 最低限必要な用品:むしろ三脚はしっかりと安定するもの(3万円~くらい)
- 時期:一年中いつでも
- 地域:関東なら日光(特に奥日光)。季節感のある植物園など
- 撮影地の選び方:年間通じて繰り返し通えるところ。好きな写真家が撮影した場所と構図を真似ることもお勧め
今浦カメラマン
「確かに精進湖は、誰でも絶景写真が撮りやすいスポットなんですが、実はちょっと玄人向けなんですよ」
それは意外です。どういうことでしょうか。
今浦カメラマン
「湖面越しの富士山のアングルなら、四季を通じて美しい写真が簡単に撮れちゃいますが、その1カットが完成されすぎているがゆえに、それ以外のバリエーション撮影が意外と難しいんです。定番として有名な場所は自分なりの視点が見つけにくい玄人向けのスポットでもあるんです。ここに通い詰めてバリエーションも攻略できるようになれば、かなりエキスパートになれると思います」
なるほど、風景写真って絵ハガキみたいな絶景カットが撮れればいいってワケでもないんですね。これは、なかなか奥が深そうな趣味です。
今浦カメラマン撮影の作例
「冬と春の音」
「湖上の星たち」
高価なカメラより自然に入ることの方が重要
やはり、先に高価なカメラを用意しないと、いい写真は撮影できないものでしょうか。趣味としてとらえると、まずカメラが欲しいと考えてしまいますが、やはりミラーレス一眼は、いきなり購入するにはちょっと高価ですよね。
今浦カメラマン
「高価なカメラが必要なワケでもないですよ。みんなスマホのカメラを持っていると思うので、まずはこれではじめてみていいと思います。撮影を続けていくにつれ、レンズ交換式カメラ(ミラーレス一眼など)の広角や望遠といった、特定焦点距離のレンズでしか撮影できないカットも出てくるので、その必要を自分自身で感じてから揃えるということでムダがないかと思います」
実際の撮影には、自然のなかに行く必要があるので、ある程度の登山やトレッキングといったことができる装備も必要になってきます。クルマもそうですが、現場に行くことができるようにすることの方がカメラよりも重要だとのこと。まずは、そちらに注力して、写真機材は二の次と考えるのがいいようです。
デジタルカメラマガジン福島編集長
「カメラばかり注目しがちですが、風景写真ではしっかりとした三脚を用意することもとても重要なんです。2~3万程度で、カメラとレンズが安定して保持できるものを選んでください。自然のなかで、カメラと一緒に倒れちゃうと大変です。最近は、安価ながら高品質な商品も出てきていて、お勧めですよ」
今浦カメラマン
「意外と写真で水平を出すのは難しいんです。単に水準器で地面と水平にするのではなく、写真として見たときに水平に見えるようにフレーミングするんですが、富士山は特に難しい被写体です。三脚を使うと、フレーミングを考えながら客観的に見ることができるようになります」
デジタルカメラマガジン福島編集長
「三脚があると長時間露光(スローシャッター)ができるので、ぜひ試してみてください。水面や川、滝の流れの動きは定番ですが、なにげない風景を撮ったとしても雲の流れがあるので、動きのある風景になります」
明るい日中にシャッターを長時間あけられるようにするには、濃いサングラスのように暗くするためのNDフィルターを付けて撮影します。今浦さんは、このNDフィルターを1/16、1/64、1/500という濃度で揃えていて、すぐに取り出せるように身につけていました。濃度を可変できるタイプは、便利なのですが、濃度ムラが出るので使わないそうです。持っているレンズの最大径77mmで揃えていて、小さな径は可変式ステップアップリング(H&Y Filters REVORING)にて使うという工夫をしていました。
また、ポートレート撮影でよく使われる明るいレンズで背景を大きくぼかす撮影方法がありますが、これは近年、風景写真でもおおいに使われるようになっているそうです。こうしたテクニックには、開放絞り値が明るいレンズが必要になるのですが、そういったレンズは高価です。風景の撮影に凝り出すと、こまごまとした用品を含め、機材に予算が必要になってきます。必要を感じたら揃えていくと、さまざまなテクニックが使えるようになり、お金がかかりますが楽しみでもあります。
風景写真の撮影ポイントはどうやって探せばいい?
先ほど、ここ精進湖はどちらかといえば撮影に慣れている玄人向けという話がでましたが、撮影地で初心者にお勧めのスポットはありますか?
今浦カメラマン
「日光周辺、特に奥日光から下るルートの風景をお勧めします。一年の四季を通じて、山や湖、川、湿原、野生動物や昆虫もいっぱいです。春の桜はあまりないので、強いていえば春の桜以外の季節になりますかね。冬は通れませんが金精峠を超えたあたりでもバリエーション豊富です。アクセスしやすく、いろいろな被写体を撮れるので、通ってみる価値がありますよ。ある程度、風景写真に慣れてきたら志賀高原に行ってみてください。こちらも四季を通じて楽しめます」
デジタルカメラマガジン福島編集長
「まさにそうですね。道路が整備されているのでマイカーで行きやすいです。いろいろなエリアの駐車場に止めて散策がしやすいというのもお勧できるポイントです。日光の戦場ヶ原全体を歩こうとしたら距離はありますが、そこまで歩かなくても、ちょっと歩いただけでいろいろと狙えます。星景写真もとてもきれいに撮れます」
今浦カメラマン
「もうひとつ、年間通じて確実に何かの花が咲いていて、きれいな風景が撮れるのは新宿御苑です(※)。入園料が一般で500円要りますが、ほかの植物園より、圧倒的にいい写真が撮りやすいので、ぜひ訪れてみてください。一般2000円の年間パスポートもあって、こちらの方が圧倒的にお得なので、ぜひ年間通じて通ってみてください」
※新宿御苑での写真撮影には、ルールがあるのでご注意ください。商用目的撮影は禁止されています。個人などの趣味で行なう撮影であっても、レフ板(32cm角以上のサイズ)、モデルを使用する撮影には届け出が必要です。温室内や通路を遮る場所での三脚使用は禁止されています。新型コロナウイルスの影響で入場者数を制限している場合があります。
植物園や自然公園なら、とてもトライしやすいですね。全国各地にありますから、まずは撮影を楽しんでみてほしいところ。
デジタルカメラマガジン福島編集長
「自宅の徒歩圏内で、自分なりの撮影ポイントを探してみて、足繁く通ってみるという手法もお勧めです。光線や四季で違った表情が撮影できるはずです」(福島編集長)
今浦カメラマン
「通えるポイントを探すのは、ホントにお勧めですね。自分の撮りたい絶景のイメージがあるなら、調べてその場所に行けばいいんです。そのひとつはこの精進湖です。桜を撮りたければ、桜の名所に行けばOKです」
デジタルカメラマガジン福島編集長
「デジタルカメラマガジンの人気特集として、絶景写真ポイント特集があります。これを見て実際に行ってみてほしいですね。こうした特集を組む際、風景写真家に声をかけると3000点ほどの作品が集まるのですが、それをまず都道府県別に分類し、撮影した写真家名は隠した状態で写真をセレクトし、その撮影地を紹介するという手法をとっています。写真家の努力もあり、どんどん新しい絶景スポットが開拓されていっていて尽きない状況です。クルマでのアクセス情報も掲載しています。絶景特集は定期的にやっていますので、今後もご期待ください」
確かに写真雑誌は、ネットには載ってない厳選された写真が掲載されているので、見応えがありますよね。今浦さんもアマチュア時代は、写真雑誌を大量に買って読みあさってインスピレーションを受けていたとのことです。ほかにミシュラン・グリーンガイド・ジャポンという、観光スポットのミシュラン版ガイドブックなんかも参考になるんじゃないかと思います。
風景写真の撮影を想像すると、一人で孤高なイメージがありますが、仲間を増やす方法はあるのでしょうか。
デジタルカメラマガジン福島編集長
「デジタルカメラマガジン(インプレス)が主体になって運営する写真投稿と写真共有サイトの「GANREF」に投稿して、仲間と交流するのはとても勉強になると思います。またGANREF主催で開催することがありますが、カメラ関連メーカーの撮影会やセミナー、アウトドアメーカー主催のイベントやツアーに参加すると、撮影ポイントやカメラ機材の知識を得られて、仲間との交流も深まるんじゃないかと思います」
今浦カメラマン
「実は仲間を誘って、一緒に撮影旅行をすることもあるんです。お互いから影響を受けるし、なんといっても楽しいんですよ」
これは、意外なことですね。仲間を誘って撮影旅行をしてみるのは、確かに楽しそうです。
今浦カメラマン撮影の作例
「冬の友達」
「Smoke」
自然が好きで大胆にも風景写真の道に飛び込んだ
さて、今浦さんが風景写真撮影に目覚めたのは、どういった経緯からだったのでしょう。今浦さんは、写真家になる前にギター製作学校講師をしていたという、ちょっと変わった経歴を持っています。
今浦カメラマン
「エレキギターが好きがこうじて、ESPのギター製作学校に入学しました。卒業後、同校で講師として6年間教鞭をとりました。」
筆者も学生時代は御茶ノ水にいてバンドをやっていたので、こちらの話題でもとても気が合いそう。ESPに行って、よくギターのピックアップ交換や修理を頼んでいました。
「ESP GUITARS」は、オリジナルのカスタムギター制作なども手がける楽器メーカー。THE ALFEEの高見沢俊彦さんやLUNA SEAのSUGIZOさんのカスタムギターで有名です。現在楽器製造だけだけなく音楽関連事業、音楽教育事業など幅広く展開しています。そのなかで「ESPギタークラフト・アカデミー」はギター製作者を育てる学校です。
今浦カメラマン
「講師をしながら、学校のパンフレット作成で製作過程などの写真を撮影する機会が多くなっていったんです。ここが本格的に写真を撮り始めたタイミングです。そのため実は、最初はポートレート撮影やブツ撮りから写真撮影をスタートさせたんです。そのうち、休日に趣味で自然を撮影するようになっていったのです」
デジタルカメラマガジン福島編集長
「写真家って楽器もやっている割合が、高いと感じますね。感性が鋭くなにか通じるものがあるのかもしれません。著名カメラマンはもとより、カメラ・レンズメーカーの方にも、音楽好きな人がいますよ」
数値化ができない感覚が必要な仕事ですから、趣味をいろいろと楽しむことで、感性が磨かれるという側面もありそうです。
その後、今浦さんはフリーカメラマンになりたい思いが強くなり、講師を退職。そして、故・竹内敏信氏のアシスタントを経て風景写真家として活躍する福田健太郎氏の門を叩きます。
ただ福田氏はアシスタントをとっておらず、その代わりに雑誌「風景写真」を出版する風景写真出版を紹介されたことで、業界とつながるきっかけになったそうです。
今浦カメラマン
「セミナーなどで出会った写真家でもいいですし、好みの写真を撮影したカメラマンを探してみることもお勧めです。その写真と同じアングルを撮るにはどうすればいいか、撮影ポイントを含めいろいろと考えることになります。自分も萩原史郎さんが好きで、よくマネをした撮影をたくさん重ねていました。これがいい練習になりました」
萩原さんは、風景写真出版で雑誌「風景写真」の創刊にたずさわった写真家です。今浦さんが風景写真出版で仕事をするようになったのも必然のような感じもします。
今浦さんは小学生の頃の趣味が観光地の絵ハガキ収集だったそうで、もともと風景写真が好きだったそうです。大自然と戯れて遊ぶことが大好きで、気がついたら自然の写真を撮ていたということでした。そして、好きなコトを仕事にしていきたいという思いが、風景写真家への道を歩む原点になっているようです。
写真は長く楽しめる趣味。クルマで自然に飛び込もう
デジタルカメラマガジン福島編集長
「趣味としても、楽器なんかは弾けるようになるには、かなりの練習量が必要ですが、写真はカメラをはじめて持った人でも、めちゃくちゃイイ作品が生まれたりします。その半面、絶対的な価値基準がないので、自分の立ち位置が分かりにくいんです。雑誌のコンテストに出してみたり、SNSでもいいですので、評価を受けるとやりがいも出てくると思います。デジタルカメラマガジンのコンテストでも、風景写真部門を萩原史郎氏が選者になって始めましたので、ぜひ腕試ししてみてください。今、出合えた風景っていうのは、一期一会で、今後もう出合えないかもしれません。むしろ風景写真というのはそういった貴重な体験や景色ばかりだったりするんです。じっくり見つめ、作品として記録して残してみてください」
今浦カメラマン
「風景写真撮影では、自然のなかにいる気持ちよさというのが、原点にあります。都会で生活していると、見ることができない風景が自然のなかにはたくさんあります。自然を好きになって、その場にいることが気持ちいい。言ってしまえば撮影が一番目の目的でなくてもいいんです。カメラが大好きというよりも、まずはクルマに乗って自然に飛び込んでいって、いろいろな景色を見てほしいですね。その楽しい感覚をカメラで記録している、というくらいのスタンスで気軽に撮影するのもいいと思います」
風景写真は奥が深く、年齢関係なく長く楽しめる趣味だと感じました。撮影した作品は、自分のなかで完結してしまわずに、発表して評価してもらってほしいと、2人とも口を揃えて言っていたのが印象的です。
その1枚の作品の評価から、新たな出合いがうまれるかもしれませんよ。まずはスマホのカメラからで構いませんので、絶景スポットで自分の感性のまま撮影を楽しんでみてください。
風景写真家 今浦友喜さん
2016年からフリーランスのカメラマンとして風景写真撮影の活動を本格的にはじめ、富士フイルムのカメラスクール「アカデミーX」の講師としても活躍する。Instagram「yukima_photograph」
Twitter 「@yukimaphoto」
Facebook
GANREF
インプレス デジタルカメラマガジン 編集長 福島晃さん
デジカメ Watchの編集長であり、「デジタルカメラマガジン」の編集長であるが、クルマ好きでもある。以前は、ソフトバンクでデジタルフォト(現在は廃刊)を創刊し編集長であった。
(文:村上俊一)
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