[密着!S耐TV Vol.1]10時間の生放送もなんのその。S耐らしさにこだわる無料レース中継番組
2021年11月14日、岡山県にある岡山国際サーキットでスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook(S耐)の最終戦(第6戦)が行われ、16時33分58秒のチェッカーをもって、2021年シーズンの幕が降りた。
2020年シーズンは新型コロナウイルスの影響で日程が大幅に変更され、最終戦の鈴鹿は感染拡大の影響で開催を中止せざるを得ない状況に。2021年シーズンは昨年に引き続き、厳重な感染対策を行ないながらの開催となった。
S耐では2021年シーズンから新たにST-Qクラスを設置し、全9クラスに。ST-Qには第3戦の富士24時間レースから水素を燃料とするエンジンを搭載したトヨタ カローラスポーツが参戦。
今回の岡山ではバイオディーゼル燃料を使用するマツダ デミオも参戦。モータースポーツの新たな可能性を感じさせるトピックだった。
GAZOOは2021年もS耐を徹底レポートしたので、興味ある人はぜひご覧いただきたい。
ここで、S耐がどういうカテゴリーかをあらためて紹介しておこう。
S耐は市販されている、もしくはそれをベースとした四輪車両による国内最高峰の耐久レースで、2012年以降は毎年全6戦開催されている。
レースは排気量や駆動方式によりクラス分けされたマシンが混走。スピード差のあるマシンが混走するため、コースのあらゆるところでオーバーテイクシーンが観られる熱いレースだ。
提供:スーパー耐久機構(STO)
コースにより全マシンが混走する5時間耐久レースと、グループ1・グループ2に分かれて行う3時間耐久レースがある。第3戦の富士は国内唯一の24時間耐久レースだ。
最終戦には56台のマシンがエントリーし、2グループに分かれて各クラスの激しいトップ争いが繰り広げられた。
レースには国内のトップドライバーだけでなく、アマチュアドライバーも参戦。下位カテゴリーのレースに参戦するドライバーはいつかスーパー耐久に参戦することを目標に戦いに挑んでいる人も多い。
S耐ならではのレース中継が持つ強いこだわり
そんなS耐では毎レース、決勝の模様をインターネット中継している。それがスーパー耐久シリーズの公式番組『S耐TV(エスタイテレビ)』だ。
放送時間の制限に縛られないというYou Tube LIVEの特性を活かし、番組は朝から表彰式終了後まで生中継。今回取材した最終戦は2グループに分かれ、それぞれレースが行われるため、放送時間は10時間以上に及ぶのだ。
しかし、これで驚くなかれ。S耐には24時間レースがあるため、その際は26時間くらいの
連続配信となるわけであり、出演者、制作スタッフの苦労は計り知れない。
S耐TVの放送は2017年からスタート。岡山の最終戦で、番組は丸5シーズン放送されたことになる。この間、番組は徐々に構成を変えながら進化してきた。一方で放送開始時からブレずに守り続けているものもある。
ひとつは無料放送であること。昨今はレース番組の視聴者が減った影響で、テレビの地上波でレース番組を放送するのは難しい。レース中継は有料のCSデジタル放送やケーブルTV、インターネット動画配信サービスで視聴するのが一般的だ。
そんな中、S耐TVは、スーパー耐久シリーズを運営するスーパー耐久機構(STO)がみずから制作の中核を担い、You Tubeという無料プラットフォームを使って放送している。これにより誰もが気軽にレースを観ることができるとともに、レースを通じてSTOが人々に伝えたいことを番組制作に盛り込みやすくなっているのだ。
遠方で行われるレースを余すところなく観られるのはファンとしてもちろん嬉しいこと。それに加え、2020年、そして2021年シーズンは世界的なパンデミックで多くのレースファンがサーキットに足を運ぶことすらままならない状況になった。そんな中で全戦を無料放送し続けたS耐TVの存在はどれほどありがたい存在だっただろうか。
もうひとつ守り続けているのは、S耐に参戦するすべてのチームにスポットを当てるということ。
前述したように、S耐は多くのプロドライバーが参戦するトップカテゴリーであると同時に、アマチュアドライバーが参戦する草の根レースの最高峰でもある。
『スーパー耐久シリーズは1991年より市販量販車をベースとした日本発祥、日本最大級の参加型レースとして歴史を重ね、今日までプロドライバーとレースをライフスタイルの一部とするアマチュアドライバーが共に協力し合い、覇を競いつつ継承してきたチームスポーツである』
これは毎年発行されるレギュレーションブックに記載されるスーパー耐久シリーズの理念の序文だ。
多くのアマチュアドライバーが腕を磨き、いつか国内最高峰の草の根レースに出場することを夢見ている。だからこそこの舞台に立ったドライバーを称え、その勇姿を多くの人に見てもらいたい。S耐TVにはこんな意図があるのだ。
前戦の第5戦が開催されたオートポリスでは、スーパー耐久機構の桑山晴美事務局長にインタビューさせていただいた。その中で、モータースポーツの固定概念に捕らわれず、最も熱心なS耐のファン代表としてその発展に尽力している様子をお届けした。
もちろん、S耐の主役はサーキットで活躍するドライバーや関係者、そしてS耐をこよなく愛するファンではあるのだが、サーキットとチーム、ファンの架け橋として、さらにS耐の魅力を一人でも多くの方に届けるべく、桑山事務局長が肝いりで行っているメディア戦略が「S耐TV」なのだ。
その熱き思いを受け、出演者、そして配信スタッフの方々が、S耐、S耐TVに対しどのような想いを抱き、時には桑山事務局長からの難題にいかに応えようとしているのかということに強く興味を持ち、今回密着取材させていただくことにした。
アットホーム感漂う無料レース中継番組「S耐TV」
You TubeにアップされているS耐TVのアーカイブを観ると、番組がとても緩い雰囲気で進行していることに気づくはずだ。
緩いというのは、“適当”という意味ではない。
S耐を一度でもサーキットで観たことがある人ならわかるはずだ。S耐は長丁場のレースなので、サーキットではスタンドで応援する人はもちろん、コーナー脇の芝生でゴロンと横になりながらのんびり観戦している人も多い。中には多くのマシンがデッドヒートを繰り広げるコースサイドで昼寝をしている人もいる。そして少し休むとムクッと起きて、またスタンドに戻って声援を送る。
そんな雰囲気が番組からにじみ出ているのだ。
レースは1/1000秒を争う熾烈な世界。多くのレース番組は白熱したバトルを届けるために緊迫感のある中継を行う。もちろんS耐TVの放送にも緊迫感はあるが、それだけではない、レースに参加することの楽しさや、和気あいあいとしたお祭り感も自然に盛り込まれている。だからこそ視聴者も長丁場の番組を最期まで楽しめるのだろう。
番組がスタートした頃はごくわずかだった視聴者も、リアルで観る人、アーカイブを楽しむ人ともに大きく増加しているというのも頷ける。
そんなS耐TVのアットホームの雰囲気を感じられるのがYou Tube LIVEのチャット。レースの実況に視聴者同士でやり取りしたり、ときには実況の間違いを正したり。実況が「このこと、教えて」とレース中に投げかけると多くの人が「こうだよ」と返してくれたりする。とても和気あいあいとした空気に溢れているのだ。
S耐TVを盛り上げる出演者たち
ここで、そんなS耐TVを盛り上げる出演者を紹介しよう。
■福山英朗さん(解説)
1978年に入門フォーミュラのFL-500でレースデビューし、以来さまざまなカテゴリーのレースに参戦。40年のキャリアで5回の年間チャンピオンを獲得している。中でも耐久レースでは大きな功績を残している。
また、ル・マン24時間レースに4回出場してすべて完走。2000年にはGTクラスで優勝を果たした。
■数野祐子さん(MC)
日産のショールームレディである日産ミスフェアレディ出身で、現在はフリーアナウンサーとして番組MC、リポーター、イベントMC、ナレーターなどマルチに活動。
S耐TVでは番組全体の進行、実況を担当している。
■MC平田さん(ピットレポーター)
関西を中心にサーキット実況やモーターイベントMCとして活動している。S耐TVでは持ち前のフットワークの良さ、レースに対する知識と情熱を活かしてピットレポートを担当。いつも張り切って中継している
2019年には富士24時間レースにドライバーとして参戦。
レース開催ウイークは誰よりも早くサーキット入りし、ピットを駆けずり回って生の情報を集めている。
S耐TVは長年この3人で放送していたが、2021年の富士24時間から新しい出演者が2名加わった。
■中嶋絵美さん(MC)
数野さんと同じく日産ミスフェアレディ出身。その後、テレビユー福島のアナウンサーになり、現在はフリーアナウンサーとして活動中。
S耐TVでは数野さんのMCのサポートや、グリッドレポートなどを担当。
■RIKIさん(英語レポーター)
世界中のファンが注目するS耐で英語ダイジェストレポートを担当。また、MC平田さんとともにピットをまわり、レース中のピットの様子を英語で世界に向けて伝えている。
今回、決勝がスタートする前に、新しい仲間である中嶋さんとRIKIさんに、3人の印象を聞いてみた。そのコメントを紹介しよう。
中嶋:数野さんは私が富士の24時間でS耐TVに参加する前、プライベートな時間を割いてS耐についていろいろ教えてくれました。昔から私にとって頼れる先輩です。そしてすごくかわいい先輩ですね。
RIKI:僕はまだまだレースやチーム、ドライバーのことについて知らないことも多いのですが、そんな時に平田さんは僕をサポートしてくれるので本当にありがたく思っています。ピットレポートについていく時も、ピットまで向かう途中の時間がない中で「こういうふうに聞くといいよ」と教えてもらい、現場でそれを実践している姿を見せてくれる。すごく感謝しています。
中嶋:平田さんはチームやドライバーさんとの親交も深いですからね。一緒にいて安心感があります。
RIKI:ただ、平田さんはものすごくスピード感があって、少しでも早く生の声を届けるためにピットに向かう時はものすごく速歩きなんですよ。それでおいていかれてしまうこともあります。どんな時でもついていけるようにしなきゃって思っています。
中嶋:平田さんは誰からも愛されるキャラクターなのがすごいですよね。私たちも話しかけやすいし、取材されているチームの方々も平田さんは話しやすいのだと思います。
RIKI:福山さんは僕らにとっては雲の上の存在なのですが、とても気さくで一緒に話していて楽しい。我々のような新人にも気遣いをしてくれるので、慣れない現場でも緊張せずにやれている気がしますね。
中嶋:時々おちゃめなことを話して場を和ましてくれたりしますし、私たちと一緒にいてくださるだけでチーム全体がまとまっていける感じがしています。
中嶋さんとRIKIさんが参加するようになり、数野さんとMC平田さんは「よく今まで3人で番組をやっていたよね。二人が参加してくれて本当に助かっている」と話す。
レースを観ているファンはもちろん、レースの模様を我々に届けてくれるS耐TVの出演者やスタッフもアットホームな雰囲気に溢れたS耐。次回からは、出演者のインタビューや番組の舞台裏をレポートしていこう。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影:堤晋一)
[ガズー編集部]
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