【2022スーパー耐久第1戦鈴鹿】カーボンニュートラル燃料でガソリンと同程度の出力を確保! スバルにBRZの開発状況をインタビュー
3月18日、SUBARUはカーボンニュートラルな燃料を使用し参戦するとしていた「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook」への参戦体制とその意図、そして注目のカーボンニュートラル燃料の詳細を発表した。
SUBARUはリリースの中で、その参戦の意図を「モータースポーツで求められる短いサイクルで仮説と検証を繰り返すというアジャイルな開発を通じてエンジニアを育成し、『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』を進めるとともに、カーボンニュートラル社会の実現を目指します」としている。
また、注目のカーボンニュートラル燃料の詳細も公表した。二酸化炭素と水素、その他一部非食用のバイオマスなどを由来とした成分を、ガソリンのJIS規格にマッチさせるように合成して製造された燃料で、燃焼時の二酸化炭素の排出量はプラスマイナスゼロとなることから、カーボンニュートラル実現のための手段の一つとなりうる燃料であるという。
将来的には原料の各成分を再生可能エネルギー由来に、製造、輸送過程でのCO2排出量をゼロにすることで、完全なカーボンニュートラルな燃料を目指すという。
3月19日、20日に開催される2022年のスーパー耐久シリーズの開幕戦となる「SUZUKA 5時間耐久レース」。その予選、決勝に向けた最後の練習の機会となる専有走行が、前日の3月18日に鈴鹿サーキットで開催された。
あいにくの雨のセッションとなってはしまったが、「SUBARUエンジニアの情熱を象徴するブルーの炎と、カーボンニュートラル燃料を象徴するグリーンの炎をモチーフ」にしたという爽やかなカラーリングをまとったSUBARU BRZも、精力的に走行を重ねていた。
その走行後のピットに伺い、チームの監督を務め、開発拠点であるスバル研究実験センターのセンター長でもある本井雅人監督に、参戦までの経緯や開発において苦労した点などを伺った。
実際にマシンの開発を始めたのは、昨年11月になってからで「ものすっごく忙しかった!」という。
「SUBARUとしてのモータースポーツ参戦は、これまでSTI(スバルテクニカインターナショナル)さんだったり、R&Dスポーツさんだったり社外でマシンを組み立てていました。ですが、今回はどうしても社内でできない作業以外は、社内でしかも社員が実際にマシンを組み立てました。これは今までに経験のないことです」
時間のない中、社内の体制作りから始めたわけだが、SUBARUのOBであり、SUBARUのモータースポーツの顔の一人でもあるSTIの辰己英治総監督にも「絶対に無理だ!」と言われるほどのチャレンジだったという。
本井監督がセンター長を務めるスバル研究実験センターで開発を進め、同施設内のテストコースで1月下旬にテスト走行を行ったという。そして2月23日に行われた公式テストを経て、わずか4か月半という短い開発期間で、スーパー耐久の開幕戦を迎えることとなったわけだが、マシンの開発状況はいかがだろうか。
今回の大きなトピックスである、カーボンニュートラル燃料について伺ってみると、「ドライバー目線で言うとほぼ違いはないです」という。
「新しい燃料の成分から、どうすれば通常のガソリンと同じような性能を得られるかということは分かっています。具体的にいうと、通常のガソリンよりも酸素の含有率が5%くらい少ないのですが、その分噴射時間を長くすることで出力を同等にすることができています」
「高回転の燃焼が遅めではあるものの、燃焼が強いとフリクション(エンジン内の摩擦による損失)も強く出てしまうため、いってこいとなって量産並の性能を出すことができています」
量産車の開発の経験から、新たな燃料に関しての性能については、早い段階から把握できていたという。
そして、レース特有の排気の調整や、量産の吸気を制限するデバイスや耐久性に関する制御などを外すことで出力を向上させるとともに、レスポンスやアクセルを抜いた際に姿勢をコントロールをしやすいようなスムーズな減速といった調整も“きっちり”行ってきていて、「エンジンに関しては想像以上にうまくいっている」と本井監督は自信をみせてくれた。
もちろんまだ課題はあるようだが、エンジンベンチで5時間のレースを走破できる検証はしてきているという。
エンジンに関しては量産の技術を生かすことができたわけだが、これまで社内で行ったことがないという車体の開発についても伺った。
「運動性能の観点では、スリックタイヤのため、量産車ではありえないような横Gも発生しますし、サスペンションはレース用のものを使用していますが、入力とストローク量の調整などはまだまだ課題があり、プロドライバーにもアドバイスをもらいながら開発を進めているところです」と、まだ課題は多いという。
実際にマシンの開発を進める中で、「簡単だったところは何もない」とはいうが、特にロールバーや計測器を入れていることで配線の取り回しを大幅に見直したことや、燃料タンクや燃料の配管の引き回しのフィッティングなどは、量産車の開発とは異なることもあり特に苦労した点だという。
ただ、本井監督は次のようにも語り充実感を感じさせるような表情も見せてくれた。
「いろいろ大変だったけど、過ぎてしまえばこれが特別大変だったというものは思い出せないですね。あえて言えば、時間がなかったことが一番大変でした」
そして、この開幕戦の目標を伺った。
「まずは耐久レースですから確実に走り切ることを大前提として、一発のタイムよりも淡々と走って、しかもドライバーが疲れず、楽しく走ってくれて、ゴールしてみたら前の方にいる、ということに尽きるかなと思います」
参戦チーム名である「Team SDA Engineering」のSDAは「スバル ドライビング アカデミー(エンジニアの運転スキルと評価能力を高める人材育成の取り組み)」の略であり、チーム名からもエンジニアの育成を進める意図を感じ取ることができる。
実際に若手を中心に、さまざまな部署から100人以上が参加しているというが、本井監督もその効果を感じているという。
車両の開発で苦労した点の一つである配線の取り回しについて、「3年目の若手のエンジニアが担当してくれたのですが、いつもは制御の業務をしていてクルマに触れることがないので、『初めてきちんとクルマに触れることができて、自動車会社の社員だということを実感しました』と言っていたんです。会社の規模が大きくなる中で分業化も進んでいますが、このような機会でさまざまな業務に触れることは、必ずSUBARUにとって力になることだと思います」と語っていたのも印象的だった。
ホンダの創業者である故 本田宗一郎氏が語った「レースは走る実験室」。半世紀の時を経て、速く走ることの技術競争のみならず、社会、そして未来に向けた壮大な実験が、スーパー耐久のST-Qクラスという場で始まっている。
さまざまなクラスのガチンコのバトルと、クルマの未来に向けた技術競争、その両方レースを堪能できることは楽しみで仕方がない。
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(文:ガズー編集部 山崎)
[ガズー編集部]
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