【2022スーパー耐久第1戦鈴鹿】トヨタ、スバル、マツダがカーボンニュートラル燃料でガチンコのS耐フル参戦! 水素の“仲間”は22社に
3月19日、「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook」が鈴鹿サーキットで開幕し、今シーズンもFIA GT3のST-Xクラスから、ロードスターやフィットなど市販車ベースのST-5クラスまで、50台もの多種多様なレーシングカーが集結した。
その中で注目のクラスが、昨年ROOKIE Racingが水素エンジンを搭載したカローラスポーツとGT4のGRスープラを走らせたST-Qクラスだろう。今シーズンからはトヨタに加え、その「カーボンニュートラルに向けた技術的な選択肢を増やす」という想いに賛同した、マツダ、SUBARUがこのST-Qクラスにバイオ由来の燃料でフル参戦することを発表しているのだ。
トヨタは、昨年に引き続き水素エンジンを搭載する32号車 ORC ROOKIE Corolla H2 Conceptと、1.4リッター直列3気筒ターボエンジンを搭載し、カーボンニュートラル燃料を使用する28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept。
SUBARUは、トヨタのGR86と同じカーボンニュートラル燃料を使用し、量産と同様2.4リッター水平対向4気筒エンジンを搭載する新型BRZを自社内で仕立てた55号車Team SDA Engineering BRZ CNF Concept。
そしてマツダは、昨年の最終戦でスポット参戦した際と同様、ユーグレナ社製のバイオディーゼル燃料「サスティオ」を使用する55号車MAZDA2 Bio conceptと、3社4台のカーボンニュートラルの開発を進める車両がフル参戦する。
そして、その3社が合同で、予選日となる3月19日に会見を行い、各社の社長がその参戦の意義と熱い想いを語ってくれた。
冒頭、トヨタの豊田章男社長は、「昨年の(水素エンジンのカローラスポーツが参戦を開始した)富士では8社だったバックボードのロゴは、今回は22社まで増えました。『意志ある情熱と行動』に共感いただいた多くの仲間の方々に改めて感謝申し上げます」とその感謝の意を伝えた。
続けて、「昨年、開発ベースの車両で出場できるST-Qクラスが新設されたことで、水素エンジンカローラ、GT4スープラをモータースポーツの現場で開発することもできました。スーパー耐久が注目されたことで、日本のモータースポーツ文化の裾野がさらに広がっていくことを期待しております」と、スーパー耐久に懸ける期待を語った。
そして、ドライバーのモリゾウとしても「プロドライバーが様々なクラスで活躍する姿を見られることもスーパー耐久の魅力だと思っております。プロとジェントルマンに関わらず、全員が運転大好き、クルマ大好きのメンバーです。スーパー耐久らしく、乗る人も作る人も、見る人も楽しいレースとしていきたいと思っております」と、技術開発のみならず、純粋にレースを楽しみたいという思いも覗かせた。
次にマイクを受け取ったのは、SUBARUの中村知美社長。
「昨年11月の岡山で、今シーズンからS耐にSUBARU BRZをベースとした車両でST-Qクラスに参戦することを発表し、カーボンニュートラルの実現を目指して、その選択肢を広げる活動へ仲間入りをさせていただきました。私たちがS耐に挑戦する目的は、カーボンニュ-トラルの選択肢を増やすと同時に、モータースポーツの現場で求められる短いサイクルを回していくアジャイルな開発を通じて、次世代のエンジニアの人材育成を図っていきたいと思っております」
その人材育成の効果も次のように語っている。
「今回参戦する車両は、まさに『意志ある情熱と行動』の気持ちを持った100名を超える社員が参画して、開発、テストが進められております。昨年11月の参戦表明から今日までという非常に短い期間で、それぞれの社員が日常の業務と、レースの車両の開発を両立させて頑張ってきてくれました」
「参加しているエンジニアは、入社して3年から4年目の若い社員たちも多く、もちろんレース車両を仕立てる経験などないわけですが、部門の壁を超え一つのチームとして試行錯誤しながらなんとか今日を迎えることができたと思っております。今日からS耐に参戦させていただきますけれども、他では得難い貴重な経験が参加しているエンジニアだけでなく、多くの社員に刺激を与えて、それぞれの成長につながればと思っております」
「レース本番はガチンコ勝負と、昨年余計なことを言ってしまったなと思っておりますが、豊富な経験をお持ちの皆様の胸を借りるつもりで全力でチャレンジしていきたいと思います。そしてモータースポーツを通じて、もっといいクルマづくり、ファンづくり、人材育成に結びつけていきたいと思います」と、参画メンバーのみならずSUBARUとしてチャレンジの気持ちを強くもっていることが感じられた。
続いて、昨年の最終戦岡山で、バイオディーゼルを燃料とするデミオでスポット参戦を果たしたマツダの丸本明社長も参戦の意気込みを語った。
「今シーズンは年間でスーパー耐久にチャレンジさせていただきます。フル参戦の目的は、さまざまな気温やレース環境の中で、バイオディーゼル燃料の実証実験を行うことと、我々の活動を通じて、多くの方々にバイオディーゼルの可能性をお伝えし、普及促進につなげて行きたいと考えています」
「そしてやはりレースですから、コンペティションも楽しんでいただけるようマツダのあくなき挑戦を積み上げ、性能改善を続けてまいります。開幕戦でST-Qクラスで出走するMAZDA2 Bio conceptは、出力改善を行い、ST-5クラスのみなさまと競争できるレベルに改善し、今後もレース毎に段階的な性能改善をしていきます」
そして、注目の発言も飛び出した。
「実は数週間前ですが、弊社のエンジニアからSUBARUさんのBRZ、トヨタさんのGR86を目の当たりにして、後半戦に向けて2.2Lで300馬力のディーゼルエンジンを開発したいという強い要望を受け、さらなる挑戦に同意しました。ぜひ後半ではガチで戦わせてもらえればと思います」と、シーズン後半では新たなエンジンを搭載したMAZDA3がBRZとGR86とバトルする姿を見ることができそうだ。
山梨県 長崎幸太郎知事「自動車での水素需要拡大は、水素社会実現への駆動力」
そして毎戦、水素エンジンに利用する水素の入手先について、さまざまなチャレンジを行ってきているが、今回のレースでは山梨県の太陽光由来の水素の供給を受けることも発表された。
この会見にも参列していた山梨県の長崎幸太郎知事は、「今回のレースに完全CO2フリーの水素を提供させていただいております。山梨県では東京電力ホールディング様と東レ様と3社でYHC(やまなしハイドロジェンカンパニー)という合弁会社を作りました。ここが主体となり太陽光、再生可能エネルギーから水素を作るデバイス、システムを全国、さらにグローバル展開したいと考えております」と、水素の事業化を進めていることを語った。
会見後にも記者からの質問を受けた長崎知事は、「レースってやっぱりかっこいいですよね!レーシングスーツを着てくれば良かった」と興奮気味に語る場面も。
第2戦以降もずっと供給したいという意気込みとともに、「自動車で水素の需要が広がることは格段に意味が違ってくると思います。一般の方にとっても身近になるので、水素社会の実現に向けての駆動力になるのではないかと思います」と期待の高さを伺えた。
これまで、国内最高峰の参加型レースとして、多くのドライバやチームの目標とされてきたスーパー耐久。そのレースとしての魅力はそのままに、自動車業界にとってかけがえのない技術開発の場という新たな役割を担うことになった。
それらの相乗効果でスーパー耐久が盛り上がることは、今後のモータースポーツ、自動車業界のみならず、多くの産業に多大なる影響を与えていくのではないかと、さらなる期待をせずにはいられない。
(文:ガズー編集部 山崎 写真:折原弘之、山崎)
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