GAZOO RacingがNAPACとスーパー耐久と連携。モータースポーツを起点としたアフターパーツ業界活性化への想いや取り組みを語る
2022年9月4日、スーパー耐久第5戦「もてぎスーパー耐久 5Hours Race」が開催されたモビリティリゾートもてぎにて、TOYOTA GAZOO Racingが「モータースポーツを起点としたアフターパーツ業界との連携」をテーマとした会見を行った。その想いや構想などについてお届けしていこう。
今シーズン、86がGR86にフルモデルチェンジしたことによって、「86/BRZ Race」は『GR86/BRZ Cup』として生まれ変わった。その大きな変更点として、プロフェッショナルシリーズではNAPACとの協力体制により、NAPAC加盟のアフターパーツメーカーのパーツが指定・認定部品になったことだろう。
NAPAC(一般社団法人 日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会)とは、クルマのカスタマイズやチューニングを楽しむためのパーツ、サーキット走行を楽しむためのモータースポーツパーツを製造販売する企業により構成された、アフターパーツの振興を目的とした企業団体だ。
現在153社が加盟しており、JAWAというアルミホイールを扱う事業部とASEAというアフターパーツを扱う事業部があり、9月にはマフラーを扱うJASMAという団体が合流し、170社以上が参加する業界最大手の団体となるという。
550万人の視点で、サスティナブルな業界へ
- 冒頭、TOYOTA GAZOO Racing企画部の南山要一部長は、今回の連携に対する想いを次のように語った。
「トヨタでは、モータースポーツをプラットフォームとして活用させていただいて、もっといいクルマづくりやカーボンニュートラル技術を鍛えたり、地域活性など、いろいろな実証実験を進めております。
今回そこにアフターパーツ業界にも入っていただいて、特にNAPACの参加企業様と一緒に保有ビジネスを強化していきたいと考えています。
私たちはこれまでメーカー単独で保有ビジネスを展開してきていましたが、モリゾウさん(トヨタ自動車の豊田章男社長)が言うように、(自動車に関わる業界の)550万人の視点でそれぞれの強みを生かしながら、保有ビジネスを盛り上げていきたいと考えています。
その一つとして、モータースポーツの中でも、アマチュアドライバーの方や、草の根のモータースポーツを愛するファンのみなさんと一緒に、安全、安心、魅力のあるカスタマーモータースポーツの環境を作ることに貢献していきたいと思います。
また、サスティナブルな業界を作っていくことも大事で目指すべきゴールでもありますので、クルマを買った後も楽しんでいただく、そしてモータースポーツに関してもファンの方だけでなく、運営やメディアなどすべての方たちと一緒に業界を盛り上げていくことが大切だと思っています。
そのきっかけとしてこの連携に取り組ませていただいています」
6つのクルマを所有する価値を高める施策
そして、具体的な取り組みとして、下記の6つを通じて「クルマを所有する価値」を高めていくという。
<やってきたこと>
①GR86での、NAPACとの開発連携
②GR86/BRZ Cupでの指定/認定パーツのアフターパーツメーカーとの協業
<やりはじめたこと>
③ス―パー耐久ST-4クラス参戦コスト低減の取り組み(参加車両拡大、参戦継続をしやすい環境づくり)
④次期車両開発へのアフターパーツ業界視点の意見折込み
<これからやること>
⑤ワンメイクレース参戦プロドライバープロデュースのカスタマイズパーツ市場拡大
⑥レースで開発された多種多様な部品群を背景にしたカスタマイズの価値向上と機会の拡大
アフターパーツのマーケットはこれからも拡大
- 会見に登壇したNAPACの会長を務める高瀬嶺生氏は、アフターマーケットの現状とこれからの見通しを語った。
「先代の86が販売され10年以上立ちますが、アスターパーツのマーケットは拡大しています。そして、これからの時代は、
・量販店(オートバックスなど) 例)気軽さを求めるお客様
・トヨタが展開するGR Garage 例)安全、安心を求めるお客様
・個人ベースのチューニング専門店 例)好みのカスタムを追及したいお客様
・タイヤを中心とする販売店 例)何かの「ついで」レベルのお客様
・インターネット通販 例)個人で情報を入手、施工するお客様
などのようなかたちに、お客様が志向する販売店、販売方法がすみ分けされていくと思います。
これからもいろいろな変化のある中で、量販市販車を対象としたナンバー付きのモータースポーツが拡大していくことは望ましいことだと思っています。
また保有ビジネスの面では保有が長期化していますが、各パーツメーカーがいいものを作ろうと努力していたり旧車のレストア需要も多いので、これからもトータルでマーケットは拡大していくと考えています。
あとはそれぞの販売店が、継続的にお客様が定着するように努力していくこと、『信頼』を得るということが大切になってくると思います」
自動車メーカーとパーツメーカーの協業による効果とは?
GR Garageとしては、レーシングドライバーの知見を活かし一つ一つの店舗を鍛えながら、お客様とのコミュニケーションを活性化しパーツの販売事業も拡大していきたいようだ。
実際に、卸業者によるとGR Garageでの販売は、2年ほどで2倍に伸びているという。ただ全国に60店舗しかないGR Garageでは業界全体を盛り上げることはできないため、あくまで550万人の力で業界を盛り上げていくことを目指している。
すでに、各パーツの専門企業が研究開発、そして多くの経験の末に得た技術で開発しているパーツがNAPACには多数存在するわけだが、今回の協業によって生まれる新しいパーツや商品の構想も語られている。
GR86/BRZ Cupはナンバー付きのレースであり、保安基準への適合が大前提として、サーキットを走るにはクルマの弱い部分があるため、GR86/BRZ Cupに向けて新たにNAPACが製作をしたパーツも複数あるという。
速さが偏ってしまうようなパーツの開発や採用については慎重に進めなくてはいけないが、走りに直結しないパーツ、例えばライト類などは一緒に開発が進められそうだという。
また今後、法規的、技術的に車両との適合が必要なことが増えてくることもあるという。例えば、車高調を変えたことによる姿勢変化で、カメラや自動ブレーキなどが正しく作動しないなどの問題が起きる可能性もあり、その辺りは自動車メーカーとパーツメーカーがコミュニケーションをとりながら、お客様に安心して購入していただく商品を開発していく必要があるだろう。
市販量販車のST-4はS耐を代表するクラス
- そして、ST-4クラスの参戦車両拡大に向けた課題には、スーパー耐久機構の桑山晴美事務局長もその想いを語った。
「まだ具体的なことは決まっていませんが、ST-4クラスに限らず、ST-1~ST-5クラスはスーパー耐久のルーツであり非常に大切にしているクラスです。特にST-4クラスはスーパー耐久を代表するクラスだと思っていますので、参戦台数を増やすのは大きな使命だと思っています。
そのネックになっているのがコストの問題で、コストを下げるための方法をトヨタ様にも相談していますし、より多くの方が参戦しやすい環境を作ることが求められていると思います。
10年ほど前のST-4クラスはプライベーターの方が多くて盛り上がっていましたので、そういった方々に戻ってきて欲しいとも思っています。
また、もしチームにスポンサーさんがいなくても、みんなが持ち寄った資金で参戦できてレースを楽しむことができるという、市販量販車のクラスの根本に立ち返ることは、盛り上げていくための一つの方法だと思います。
また、スーパー耐久は市販車やアフターパーツのフィールドとモータースポーツをつないでいくということが大きな役割だと思っています。固定概念に捕らわれず、いいものはどんどん取り入れていきながら、『こんなにクルマに乗るのこと楽しいんだ』と思ってもらえるように、もっと努力していきたいと思います」
これまでは、それぞれバラバラに事業を考えていた(もちろん現場的な繋がりはあるだろうが)自動車メーカー、パーツメーカー、販売店が、より横のつながりを強化し一緒に付加価値を作っていく仲間として、サスティナブルな業界を作っていきたいという想いが語られた今回の会見。
モータースポーツを起点とすることでコミュニケーションが活発化し、新たな発想が生まれ仲間づくりが進むことはこれまでも実際にサーキットで行われてきていたわけだが、さらにそこに自動車メーカーが加わることでより多くのヒト、モノ、企業が繋がり大きなうねりとなる可能性は十分にあり得ることだ。
そしてそれはスーパー耐久という、市販車ベース、市販パーツを使用し、かつ競争力が高いレースであり、また研究開発をするためのクラスも設けられているレースだからこそ、より波及力が強く、効率的な「起点」となることができるわけだ。
こうした提携による取り組みは、実際にパーツを購入し楽しんでいただくお客様に対して、よりよいものを提供することにつながることは間違いないだろう。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:トヨタ自動車、GAZOO編集部、スーパー耐久機構)
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