「TYPE R」30周年の日にレースデビュー! 新型シビック TYPE Rがスーパー耐久のST-2クラスに参戦
2022年のスーパー耐久最終戦が行われる鈴鹿サーキットに、新たに楽しみなマシンが登場した。今年7月にワールドプレミアが行われた新型のシビック TYPE RがST-2クラスにエントリー、デビューレースを迎えることとなった。
このニューマシンを走らせるのは、本田技研工業の社内のクラブ活動チームであるHonda R&D Challenge(HRDC)で、そのドライバーにはシビック TYPE R開発主査でもある柿沼秀樹氏も名を連ねている。
量産車の新型シビック TYPE Rの走行性能の進化と高さはジャーナリスト諸氏が認めるところであるが、スーパー耐久に参戦する743号車 Honda R&D Challenge FL5の開発状況と目指すところを、柿沼選手とチーム代表を務める木立純一選手にお話を伺った。
記念すべき「TYPE R」30周年の日にレースデビュー
このスーパー耐久用の新型シビック TYPE Rだが、モビリティリゾートもてぎでシェイクダウンをしたのみで鈴鹿サーキットに持ち込まれたという。6月から開発をスタートし、かなり早いタイミングでの参戦となるが、この最終戦に間に合わせてきたことには大きな意味がある。
実は、決勝レースが行われる11月27日は、ちょうど30年前の1992年に初代のTYPE RであるNSX Rが発売された日なのだ。ホンダのレーシングスピリットを体現するTYPE Rを与えられた新型のシビックが、その走りでこの30年を祝うのにこれ以上ないタイミングだったのだ。
とはいえ、このHRDCはホンダのチームであるがあくまで社内の有志が集まるクラブ活動であり、業務時間後や休日に、第6戦まで参戦したシビック TYPE Rのメンテンナンスと並行してこの新型シビック TYPE Rの開発を進めてきた。
まず木立選手に今の気持ちを伺ったところ、最初に口にしたのはこのマシンを仕上げてくれたチームメンバーへの感謝の言葉だった。
「準備期間が短い中で、自己啓発活動のためチームメンバーが仕事の後や土日の時間をフルに使ってクルマを作り上げてきて、最終戦に間に合ったことは本当に良かったですし、チームのみんなに感謝しています」
そしてマシンについては、2019年にチームが立ち上がり活動を進めてきた経験が、この新型車両もしっかり落とし込むことができているようだ。。
「前戦まで使用してきたマシンは、手探りの状態から開発を進めてきていましたが、今まで活動してきたノウハウがある状態からスタートを切れたので、新型シビック TYPE Rは乗っていても安心できるマシンになっていますし、その速さも体感できています。さらにデータの蓄積やレースオペレーション面でも効率が上がっていて、チームとして進化していますね」
早くも量産車の次元を超えたレーシングカーに進化
マシンへの印象は柿沼選手も同じく感じているようだ。このニューマシンでは、これまでの経験を活かしなるべく早くレースでのポテンシャルを上げるための開発を進めてきたという。
「本当にギリギリ間に合った感じで、僕は昨日初めて乗ったんですが、パッと乗っただけでも明らかに『切れ味』が違いましたね。レーシングカーらしい挙動になっています。
先代は量産車のシビック TYPE Rの素性を確認するところからスタートして開発を積み重ねていきましたが、量産車の名残が最後まで残っていました。でもこのマシンは機敏に反応してくれますし、量販車とは違う次元の、きちんとレーシングカーになっているように感じました」
開発で一番苦労したことは電子制御系だという。量販車でのいろいろ連携しているシステムを、レース向けにどのように整理して、もしくは使わなくするといったコントロールが大変だったという。
目標はST-2クラスのチャンピオン!
最後に、現状掲げる目標について柿沼選手にお話しいただいた。
「目標はST-2クラスのチャンピオンを獲ることですね。これは簡単なことではなくて、当然速さは必要なんですが、一発の速さだけではなくて耐久レースとしての速さを磨かなければいけない。でもクルマが速いだけでもダメで、メカニックの技術とかチームワークとか戦略とか、チームとして全体が進化していかないと実現できないことはこれまでの参戦で理解しています。
そのうえで、チームとしてST-2クラスのチャンピオンを目指すことを、この新型車の投入とともに改めて確認しモチベーションとしています」
このHRDCは、若い社員から加入して活動したいという要望が多くなってきていて、全員を受け入れることができない状況になってきているほどだという。
他の自動車メーカーでも業務としてレーシングカー開発やレースに携わっている社員はいるが、このHRDCのように自らが参加を希望し、“好きで”レース活動に参加できることは、このチームならではの特長なのかもしれない。
それは、メーカーのチームでありながらST-Qクラスではなく、ST-2クラスに参戦していることからも感じ取ることができる。
金曜午前の専有走行の1回目では、ST-2クラスの中で3番手となる2分20秒622を記録し、クラストップの車両とは0.6秒差につけた新型シビック TYPE R。
完走すれば今季初の表彰台が狙えるかもしれない、コースサイドで観た新型シビック TYPE Rの走りはそう感じさせてくれた。
(文:GAZOO編集部 山崎 写真:折原弘之、GAZOO編集部)
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