水素エンジンは5合目、今後は市販化に向け加速。来年2月に液体水素カローラがデビュー予定
2022年のスーパー耐久が鈴鹿サーキットで幕を閉じた。水素エンジンは、2021年5月の24時間耐久に、ROOKIE Racingの32号車ORC ROOKIE Corolla H2 conceptでデビューしてから1年半がたった。その間に11レースに参戦し、出力を26%向上させたという。かなり開発は進んだ気がするが、現時点で市販化に向けまだ5合目だという。水素エンジン車両の開発状況について、GRのラウンドテーブルミーティングで説明があったので、その内容をお伝えする。
GR車両開発部の高橋部長は、「水素の取り組みを徐々に広げていく段階で、WECのドライバーが水素エンジンのクルマに乗ったり、モリゾウ選手がWRCベルギーでデモランしたり、12月にはタイで耐久レースに参加するなど、今まで日本のスーパー耐久の場でやってきた取り組みをグローバルで展開していくというフェーズに移ってきています。また、水素を運ぶという点においても技術革新が進んできており、“つくる”、“運ぶ”、“使う”という全てにおいて、水素社会実現に向けた取り組みは加速してきたと感じています」と述べた。
気体水素車両の開発状況
水素エンジンの開発状況については、いつも通りに富士山登山に例えて説明があった。誰も踏み入れたことのない開発であるため、未踏峰の山への挑戦、もしくは新ルートでの登頂に例えたほうがわかりやすいので、未踏峰への登山に例えてみる。
双耳峰、未踏峰の山の5合目まで到達したが、今まで歩いてきたルートを振り返ると、後続の人が歩くための整地がされていない状態であり、これから5合目までの整地を始め、同時に6合目以降は2個の山頂目指し2本の新規ルートを開拓していくことになる。2個の山頂とは気体水素と液体水素のピークを指す。
(5合目までの道のり)
3合目の燃費開発は、異常燃焼を抑えてタンク内の水素を使いきる活動を行い15%の燃費改善を実現させた。
4合目の排気開発時には、レースの開発と量産化の開発を平行しておこないはじめた。量産化については、9月に新しいチームをつくり、極低温やパーツのばらつきを考えて検討を開始した。
5合目の機能信頼性対策は、スーパー耐久の活動ででた課題、例えばエンジン内に水素は残るなどについて取り組んでききた。
このように、1年半で6合目に向け新規ルートを開発することまでたどり着いたが、1合目から根本のメカニズムについてはわかっていない部分が沢山ある。一方で、オープンで水素エンジン車両開発を行っているため、他社より水素エンジンについての相談も複数あるそうだが、同じ課題を共有し、一緒にデータを見て話していること。
GRカンパニーの佐藤プレジデントは、他社からの相談について「教えてくださいという会社はあまりなく、質問の内容がある程度水素エンジン研究をやっていて、悩みがあって連絡をしてこられる会社が多いので、実は多くの会社で水素について取り組んでいるんだな、というのが正直な感想です。潜在的な技術のニーズがあったんだなと思います。世界中で多用な選択肢を模索する動きは確実にあるなと思う」また、「水素エンジンについて完全にオープンでやっているので、パートナーとして手を組める方とは積極的に手を組んでいきたいです。しかし、皆さんは実験室で実証を行っていますが、我々は現場で実証しているのでリアルの世界で何が起きるかという点においては、世界のトップランナーだと思っています。そして、このスーパー耐久の現場が、水素の内燃機関に関する世界で唯一の事例だと思います」と語った。カーボンニュートラルという大きなテーマに対して、BEV一辺倒に見える会社でも、内燃機関でも解決させたいという思いが多くの会社にあるものと思われる。
液体水素車両への取り組み
10月に、液体水素エンジン車両の認可が取れたので走行評価を開始し、11月上旬にはサーキットでテスト走行を実施している。現時点で最高速度は、気体水素エンジン車両より10%下回るそうだが、液体水素車両のメリットと課題は何だろうか。
メリットは、「気体水素の2倍水素を搭載可能」、「ピット内で給水素が可能」「昇圧の必要がなく連続給水素が可能」の3点だ。一方課題は、低温にかかわる「-253℃を保ち、-253℃で燃料ポンプを稼働させる必要がある」「タンク内で燃料が気化する」の2点だ。実際、2022年に液体水素カローラをスーパー耐久にデビューさせられなかったのは、この課題解決ができていなかったからだそうだ。
来年2月のスーパー耐久の合同テストまでに課題をある程度解決し、来年の本格デビューを目指すとのことだ。後続距離が2倍になると給水素の回数が半分になり、給水素の時間が今より長いのか短いのかは不明なものの、現状のベストラップはST4クラスのマシンと同等であるため、ST4クラスとレースという観点でガチバトルすることも可能になるかもしれない。
来年23年の目標は7合目までの新規ルートの開拓になる。順調に進めば、24年末又は25年に、気体水素エンジンを搭載した市販車がデビューすることも夢ではないと想像を膨らませた。
(写真:折原弘之、トヨタ自動車 文:GAZOO編集部岡本)
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