【ヤリスカップ、はじまるよ! #1】クルマ好きの友だちができる、友だちに会える場所にしたい!トヨタが参加型モータースポーツに力を入れる真意とは?

みなさんは、「レースに出場する」と聞くとどう思うだろうか。
「どうすれば参加できるの?」「危ないんじゃない?」「お金がかかるんでしょ?」など、不安な点を挙げるとキリがないかもしれない。

でもクルマや運転が好きな方にとって、できれば参加してみたいという方も多いのではないだろうか。

そんな不安を極力解消し、「レースに出てみたい」「趣味としてレース参戦を楽しみたい」という思いを、21年もの長い間叶えてきた入門レースがある。
そしてそのレースの後を継ぎ、今シーズンから新型車を投入し一新、注目が集まっているのが、『TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cup(以下、ヤリスカップ)』というワンメイクの参加型レースだ。

GAZOO.comでは、「そもそもヤリスカップってなに?」「どんなレースなの?」といった基本的な内容に加え、
ヤリスカップに関わる人々の想いや情熱を取材し、レース参戦というクルマの楽しみ方をお届けしていきたい。

まずは、主催するTOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)がどんな想いでヤリスカップをはじめとした参加型モータースポーツ活動に取り組んでいるのかを探るべく、トヨタ自動車GAZOO Racing Companyの杉浦宏哉さんにお話を伺った。

気軽に参加できる入門モータースポーツがヤリスカップ!

  • ヤリス カップカー/Yaris Cup Car

    ワンメイクレース専用車両として用意された『ヤリス カップカー』。参加ハードルを下げるために車両価格を抑え、かつモータースポーツが楽しめるように開発された特別なクルマだ。ナンバー付き車両になるので、ヤリスカップへの参戦はもちろん、公道走行も可能。普段乗りでも使えることも魅力のひとつ。

ヤリスカップは、2000年からはじまった日本初のJAF公認ナンバー付き車両によるワンメイクレース『TOYOTA GAZOO Racing Netz Cup Vitz Race(以下、ヴィッツレース)』の21年の歴史を引き継ぎ、2021シーズンからスタートする新たな参加型モータースポーツだ。

2021シーズンは6月5日に開幕し、東西2つのシリーズに分け、主要6サーキットを舞台に開催される。
その特徴は、新型ヤリスをベースにした『ヤリス カップカー』を購入しいくつか必要なパーツを追加、ライセンスを取得すれば誰でも参加できる“手軽さ”。

  • トヨタ自動車のモータースポーツ活動やヤリスカップについて語るGAZOO Racing Company GRブランドマネジメント部 部長の杉浦宏哉さん

そんなヤリスカップの魅力を伺うと「ヤリスカップは“安全・安心・公平”かつアットホームで参加しやすい環境づくりに力を入れています」
「ヤリス カップカーの価格も抑え、改造範囲も制限することで、モータースポーツとしては少ない予算で、気軽に参加できることが魅力ですね!ヴィッツレースからヤリスカップに名称が変わりましたが、誰でも参加できる入門レースという位置づけは変わりません」と杉浦さん。

続けて「ヴィッツの販売はネッツ店だけでしたが、ヤリスは全国のトヨタ販売店で買えるようになったことも大きな違いですね。これまでは『ヴィッツレースに出たいけど近くに販売店がない』というユーザーさんもいらっしゃったと思います」
「ヤリス カップカーは全国の販売店で購入できます。価格面も、販売店の面でも、お買い求めやすくなったので、ぜひお近くのトヨタ販売店で気軽に相談してみてくださいね!」と、ヴィッツからヤリスに変わったことによるユーザーにとってのメリットも教えてくれた。

  • ヤリス カップカー/Yaris Cup Car
  • ヤリス カップカー/Yaris Cup Car

ヤリスカップ専用に架装された『ヤリス カップカー』。ロールケージや専用チューニングを施したサスペンション、エンジンオイルクーラー、フロントトランスポートストラップ/リヤトランスポートフック、6点式シートベルト、専用フロアマットなどを装備。価格は6MTが217万1100円(北海道地区は220万800円)、CVTが238万100円(北海道地区は240万9800円)となる。あとはタイヤ&ホイールとブレーキ、シートなどを変更すれば、そのままレース参戦可能だ。 ※価格は税込み表示

また、ヤリスカップは6MT車とCVT車の混走というのも特色のひとつ。これには、MT車に乗り慣れていないユーザーにモータースポーツを楽しんでもらいたいといった想いが込められている。

「最近では、AT限定運転免許が多いですよね。それにMT車に乗り慣れていないドライバーもたくさんいます。CVT車は、ヴィッツレースの途中から導入していますが、シフト操作が不要なので両手でステアリングを切ることができますし、アクセル&ブレーキペダルの操作に集中できるので、ビギナードライバーに最適だと思いますよ」と杉浦さん。

CVT車に関しては、走行時に専用セッティングを施した指定のトランスミッション・コントロール・コンピュータの準備が進められているそうだ。
さらに混走ではあるが、CVTクラスとして各大会での表彰やシリーズポイントも用意し、CVT車でもモータースポーツが楽しめる環境づくりに力を入れていくという。

活動の目的は『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』

トヨタおよびTGRでは、『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』というコンセプトを掲げ、さまざまなモータースポーツ活動を行っている。そのひとつがヤリスカップを含む『参加型モータースポーツ』だ。

具体的には、ヤリスカップの前身となるヴィッツレースをはじめ、プロのレーシングドライバーも多く参戦し一緒に競うことも可能な『TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race(以下、86/BRZレース)』、一般道がコースとなるラリーイベント『TOYOTA GAZOO Racing Rally Challenge(以下、ラリーチャレンジ)』、そして今年からスタートする『ヤリスカップ』がTGRの参加型モータースポーツに位置づけられている。

そんなモータースポーツ活動の目的について杉浦さんに伺うと「TGRでは、FIA世界耐久選手権(WEC)やFIA世界ラリー選手権(WRC)をはじめ、国内ではスーパーGTやスーパーフォーミュラ、全日本ラリー選手権など、さまざまなモータースポーツ活動を行っています。このあたりは、皆さんも目にすることの多いモータースポーツ活動ですよね」
「そのほかにもeスポーツやドライバー育成などもあり、その中のひとつがヤリスカップをはじめとした参加型モータースポーツです。それらの活動は、すべて“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”が目的です」と説明してくれた。

TGRのモータースポーツ活動は、すべて“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”につながっている。
「GRヤリスがいい例ですが、WRCで勝つためにクルマをつくり、レースに参加して、壊して対策して、さらにレースに出ていく。その経験をフィードバックして市販車をよくしていく。それが“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”の基本的な考え方ですね!今、真っ最中の取り組みですが、モータースポーツを軸にしたクルマづくりは、モリゾウさんがよく使っている言葉ですね!」と杉浦さん。

TGRのモータースポーツ活動は、トヨタ自動車のトップであり、マスタードライバーでもある “モリゾウ”こと豊田章男社長の想いが詰まっているのだ。

自動車メーカーであるトヨタが『参加型モータースポーツ』を行う意味とは?

自動車メーカーであるトヨタが、数あるモータースポーツ活動の中でなぜ参加型モータースポーツ活動を積極的に行うのか?
クルマの開発だけを考えれば、ル・マン24時間耐久レースやWRCのような極限のモータースポーツだけでもいいように思う。

その真意を杉浦さんに尋ねると「モリゾウさんは、トヨタやTGRだけじゃなく、モータースポーツに関わるドライバーやエンジニア、サーキットなどの環境をよくして、もっと魅力的な業界にしたいという想いを持っています。モータースポーツの地位や認知の向上を目指し、モータースポーツに関わるすべての人を幸せにしたいという目的があるんです」
「モリゾウさんは“幸せの量産”という言葉を使いますが、そのために私たちが手足となってモータースポーツの普及活動を行っているわけですね!その活動のひとつが草の根運動的な参加型モータースポーツです!」と、TGRの存在意義を語ってくれた。

参加型モータースポーツは、モータースポーツの裾野を広げ、入り口を用意することでクルマファンを増やすという大きな目的があるのだ。自動車メーカーがクルマを操り、走るという本来の魅力を体感できる場所を用意し、クルマファンやモータースポーツファンが増えれば、業界も活性化する。

さらにモータースポーツに注目が集まれば、その成果を市販車にフィードバックすることで、もっといいクルマづくりができ、新しいムーブメントが生まれる。そんな“幸せの量産”を実現するひとつのフィールドが参加型モータースポーツというわけだ。

その中でもはじめてのモータースポーツに最適なカテゴリーとして用意されているのが、昨年まで21年間にわたって開催された『ヴィッツレース』、そして今年からスタートする『ヤリスカップ』なのだ。

同じクルマ好きに出会える、コニュニケーションツールがヤリスカップ!

ヴィッツレースが多くのエントラントに愛され、21年続けてくることができた理由に“出会い”があると杉浦さん。
「ヤリスカップの前身となるヴィッツレースは、2000年からスタートして408回、参加台数は通算1万6454台を数えます。多くのエントラントに支えてもらい、盛り上げていただきました。本当にエントラントの皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです!」

「ドライバーは、セミプロからショップのオーナーさん、販売店のスタッフさん、サラリーマンの方や学校の先生など、バラエティに富んでいます」
「そこに共通しているのは、クルマが好き、運転が好きということです。そして、普段なら接点のない人が出会える場所だったのです。そんなヴィッツレースのよさをヤリスカップでも受け継いでいきたいですね!」と、エントラントへの感謝の気持ちが溢れる。

実際にヴィッツレースの現場では、モータースポーツといってもギスギスした雰囲気がなく、ライバルでもトラブルがあればパーツを貸し借りしたり、助け合ってタイヤ交換や整備を手伝ったりという風景をよく目にする。
そしてエントラントの皆さんからのコメントも、順位に関してより、出会いや助け合いのほうが思い出に残っているという声が多いという。そんなアットホームな空気感を、ヤリスカップでも継続していきたいという想いを強く感じた。

ヴィッツレースが21年続いた陰には、和気あいあいとした部活動のような雰囲気がある。モータースポーツという趣味を通じて仲間ができる、部活動のような場所をヤリスカップでも提供していきたいと杉浦さんは語る。

モータースポーツを通じて仲間を増やし、思い出をつくってもらいたい!

  • ヤリスカップのパンフレットを持ち、ポスターの前で撮影すると自然と笑みが溢れる杉浦さん。開催が近づき、ワクワクが止まらないようだ。

今年から新たにスタートするヤリスカップ。開幕戦は6月5日の富士スピードウェイとなる。
そんな開幕に向け、意気込みを聞くと「“安全・安心・公平”なレースを担保したうえで、ヤリスカップを友だちができる、友だちに会える場所にしたいですね。そのためには、たくさんの人に参加してもらって、盛り上げていただくことが大切です。参加者が増えれば、仲間も増えて楽しいですからね!だからエントラントの皆さんと一緒にまた歴史を作っていきたいですね!」と語ってくれた。

続けて「そのために主催側としてできることは、クルマを販売したあとのサポートです。例えば、全国のGRガレージと連携して、ヤリスカップに出たい人のサポートができる環境づくりですね。TGRとしてヤリス カップカーというクルマを用意しました。そしてヤリスカップという場所も用意しました。あとは、それを販売店と協力して、どう参加につなげていくかです」

「GRガレージで仲間ができて、一緒にヤリスカップに参加できるようになれば理想的ですよね! ヤリスカップは、はじまったばかりのレースですが、長く開催を継続していきたいですよね!そして将来的には『レースをはじめるならヤリスカップ』と言ってもらえるようになりたいです!」と、笑顔で夢を教えてくれた。

参戦サポート体制づくりとして、ヤリスカップのホームページでは全国のサポート販売店を確認できるほか、各販売店のサポート内容なども掲載されるので、興味のある読者はぜひチェックしてほしい。

そして、初年度となる今年は、みんながはじめてのレースなので、ベテランもビギナーも関係なくヤリスカップをつくっていく1年となる。そんな記念すべき年に、あなたもヤリスカップに挑戦してみてはいかがだろう?

ヤリスカップに限らず、TGRでは参加型モータースポーツというカテゴリーでモータースポーツの楽しさ、そしてクルマを操る喜びを提案している。そこには運営者や参加者、そしてサポーターの想いがたっぷり詰まっていること間違いなし!!

というわけで、今後もヤリスカップ参加予定ドライバーへのインタビューや、実際にヤリス カップカーを製造している工場スタッフの思いなど、ユーザー参加型レースに関わる人々の熱い想いを伝えていきたいと思います!

(⽂:三木宏章 / 撮影:トヨタ自動車・三木宏章・藤井元輔)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road