【ヤリスカップ、はじまるよ! #3】YARIS Cup Car(ヤリス カップカー)の生産現場に潜入! 作り手が込める思い、そしてTRDがこだわる『量産品質』とは?

今年からスタートする『TOYOTA GAZOO Racing Yaris Cup(以下、ヤリスカップ)』にさまざまな形で関わっている方を紹介する企画の第三弾。今回は、ヤリス カップカーをはじめ、ワンメイクレースマシンの開発・生産を行っている株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメントの工場に潜入!
第1戦となる富士スピードウェイ大会を6月5日に控え、ヤリス カップカーの生産も佳境に差しかかっている。そんな大忙しの現場で働くスタッフの方々に、新しく誕生したヤリス カップカーを作るうえでのこだわりや期待感など、その想いを語ってもらった。

ヤリス カップカーはTRDが開発・生産を担当

ヤリス カップカーは、最初からロールケージや専用チューニングサスペンションセット、エンジンオイルクーラーなどが装備された新車をディーラーで購入できるという特別な1台だ。
購入すれば、あとはタイヤ&ホイールとブレーキパッド、バケットシートを装着するだけで、そのままヤリスカップに参加できる手軽さが魅力になっている。

そんなワンメイクレース参戦用マシンの開発・生産を行っているのが『株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(以下、TCD)』だ。社名を聞いてピンと来ない方も、『TRD』と言えば知っている読者も多いのではないだろうか?

2018年4月にTRDブランドを展開していたトヨタテクノクラフト株式会社と『モデリスタ』ブランドでドレスアップアイテムを展開する株式会社トヨタモデリスタインターナショナル、海外向け用品の企画と架装を担うジェータックスの3社が統合し、新会社として設立されたのが『TCD』であり、現在もTRDとしてレース活動やモータースポーツ部品の開発・生産を行っているのだ。

そんなTCDの名古屋工場敷地内には、完成したヤリス カップカーたちがズラリと並び、スタートグリッドに並ぶ日を待ちわびている状態だ。この記事が掲載される頃には、全国のディーラーに輸送され、ユーザーの手元に届き始めているのではないだろうか。

そもそも『架装』とは?特装車ってどんなクルマ?

ヤリス カップカーは、新車にロールケージやオイルクーラーなどの特殊な部品や装備を取り付けた『特装車』というカテゴリーに属する。
特装車とは救急車や道路パトロールカー、そのほか冷凍冷蔵車やタンクローリー、クレーン車など、特殊な部品や装備を追加した車両全般のことを指す。さらに、この特殊な部品や装備を追加して改造を施すことを『架装』と呼び、そういった作業を行う架装メーカーのひとつがTCDというわけだ。

  • ヤリス カップカーの生産を行う、TCDの第5製造グループをまとめる、グループ長の二瓶さん。これまでにヴィッツや86のレース参戦用マシン『Racing(レーシング)』シリーズも担当したワンメイクレース車両生産のプロフェッショナルだ。

まずはTCDでヤリス カップカーの生産を行う生産本部 製造部 車両製造室 第5製造グループをまとめるグループ長の二瓶 隆之さんに、架装メーカーがどんなことをしているのか、どのような立ち位置なのかという基本的な質問をぶつけてみた。

「架装メーカーと言われてもピンときませんよね。一般的なクルマは、まず自動車メーカーの工場で組み立てられます。通常は、そのままディーラーにクルマが輸送され、そこからユーザーの手元に届けられます」
「しかし、ヤリス カップカーのような特装車は、自動車メーカーで組み立てたクルマに、さらにロールケージやオイルクーラーなどを組み付ける必要があります。その作業をするのが私たちです。イメージ的には、自動車メーカーの工場からディーラーに輸送される途中の通過ポイントのような感じですね」と教えてくれた。

ヤリス カップカーの生産を行っているエリア。5〜6名のスタッフによって、すべて手作業で1台ずつ生産される。

ヤリス カップカーを作るスタッフもクルマ好きだった!

「TCDは、TRDとしてワンメイクレースの運営から車両開発・生産まで行っています。その中でもヤリスカップは、ほかのレースに比べれば低コストで楽しめるレース。開発・生産の現場でもコストダウンを図り、少しでも気軽に参加してもらいたいという想いでクルマを送り出しています。モータースポーツの入門マシンとして、少しでも多くの人に乗っていただけたら嬉しいですね!」

「また、レースに出ない人にも乗ってもらいたいですよね。普通のヤリスとはちょっと違うぞ、と優越感に浸ってほしい。そのためにお客様に満足してもらえるように仕上げた自信作です!」と二瓶さん。

  • 車両へのパーツ取り付けなどを担当している田村さん。ヤリスのほか、ヴィッツや86にも携わり、ワンメイクレース車両の生産を担当して6年。チューニング&カスタムも好きで、たまにサーキットも走るそうで、仕事も趣味もクルマ

ロールケージやオイルクーラーなどを車両に取り付ける作業を担当する田村 隼さんは、品質を安定させるために、チーム全体での情報共有やコミュニケーションを重視しているという。

「これからレースをはじめたいという人に乗ってもらいたいのがいちばんですが、かっこよく仕上がっているので、サーキット以外でも楽しんでもらいたいというのも本音です。自分もクルマやチューニング&カスタムが大好きなので、同じようなユーザーにストリートで乗りこなしてみてほしいですね!」

「作業では少しでも品質を高め、均一にすることにこだわっています。毎朝のミーティングで話し合い、自分が作業で体験したことを仲間に伝えて事例を見せながら共有したり、部品の組み付けを日々考えながら、安定した品質を作り続ける努力をしています」

  • 主に取付部品の加工を行っている菅野さん。入社5年目で、ワンメイクレース車両の生産に携わって3年。以前には、BRZに乗っていたこともあるスポーツカー好きだ

取り外した内装の加工などを担当する菅野 保成さんも、自分たちが作り上げたマシンがサーキットでバトルする姿を思い浮かべながら作業に取り組んでいるという。
「自分が買ったときに満足できるクルマを目指して、ヤリス カップカーの生産を行っています。だから各部の仕上がりを見てもらいたいですね。また、ヤリス カップカーは、レースカーとしてすごく安いので、これからレースをはじめたい、そんな人に乗ってもらいたいです!」

「自分もクルマが好きで、以前に乗っていたBRZでサーキットも走りました。だからヤリス カップカーがサーキットでどれくらい速いのか、ギリギリのバトルをしている姿を早く見たいです! 自分が作ったクルマがレースで走る姿を見られることは、何事にも代えがたい喜びですよね」

工場での組み付けというと機械的な流れ作業というイメージがあるが、実際に現場を訪れてみると、クルマ好きのスタッフが1台1台手作業で仕上げているということがわかり、思わず感動!

ワンオフではなく『量産車クオリティ』へのこだわり

作り手の思いもぎっしりと詰まったヤリス カップカー。しかし一方で、ディーラーで新車として販売されているクルマならではの苦労もあるそうだ。

そのあたりを二瓶さんに伺うと「ある意味、レーシングカーを作るより大変ですね。例えばスーパーGTマシンのようなレーシングカーは、純粋な速さを求めてクルマづくりをします。でもワンメイクレース車両は、あくまで一般ユーザーが乗ることを前提に、車検に適合し、かつ安全で、新車としての品質をクリアしないといけません」
「特装車ですが、量産車と同等の安全性能と使いやすさ、そして品質も確保しないといけないんですよね。だから純粋なレースカーより、じつはデリケートな部分が多いんですよ」と苦労を教えてくれた。

  • 愛知県にあるTCDの名古屋工場。ヤリス カップカーのほか、ヴィッツや86のレース参戦車両「Racing(レーシング)」の生産も行ってきた場所だ

レーシングカーやチューニングカーの場合、一般的にはオーダーメイドでクルマを製作する『ワンオフ』という手法が用いられる。しかし、ヤリス カップカーは、ディーラーで誰でも買える新車として生産・販売される量産車だ。
そして、そんな量産車を生産するメーカーとしてのプライドがTCDにはある。なかでも特にこだわっているのが『安定した品質』だという。

「ヤリス カップカーに限らず、架装するときには、量産車同等の安定した品質で、同じものを作り続けることが大切です。特にワンメイクレースは、同じ車種同士、イコールコンディションで競い合うことが一番の魅力。そんなワンメイクレース車両で性能差が生まれてはいけませんよね」と二瓶さん。

先ほどお話を伺った製造担当の田村さんや菅野さんのコメントからも、この『安定した品質』へのこだわりがひしひしと感じられた。

取り付けミスは許されない。そういったミスを防止するために、現場には細かい手順書や張り紙などがいたるところに! 作業工程は38の項目に分かれ、品質管理のために設けられたチェックシートは153項目に及ぶという

さらにサーキットでの走行だけではなく、サーキットまでの自走往復や、普段の街乗りに使うユーザーも多い。中には、レース目的ではなくストリートカーとして購入するケースもある。そこでノーマル車と変わらない安全性や利便性も確保しなければいけない。何も犠牲にできない、でも安全&楽しくレースができるクルマである必要があるのだ。

ロールケージの取り付けひとつでもこだわりが満載。極力視界の邪魔にならず、乗降性も損なわず、振動による異音も抑えるためにボディにきっちりと沿わせるように取り付けられたロールケージが美しい

二瓶さんは「ワンオフは、良くも悪くも職人の色が出ます。それによって高いクオリティを実現できますが、製品にばらつきが生まれる可能性も高くなります。一方でヤリス カップカーをはじめ、ヴィッツや86のレース参戦用マシンは量産品です。同じ品質のクルマを作り続けることが大事。ワンオフでは難しい、設計を100%再現することにこだわっています」

「これまでヴィッツのレース参戦車両は初代から数えて約1,400台を生産しました。ヤリス カップカーも発売後から多くの注文を頂いており、日々生産・出荷しています。そんな生産車両すべてを100%同じ品質で出荷することが量産車をつくる者としてのプライドです」と熱く語る。

組み立てに関するマニュアルも、現場のノウハウを加えながら自分たちの手で作成するという点からも、そのこだわりや情熱が伝わってくる。

  • すべての作業が完了し、チェックが終わると取り付けられる『封印』。ヤリスカップでは、レギュレーションでエンジンの改造不可となっているので、不正防止のために取り付けられている。TRDのこだわりが詰まった量産型レースカーの証でもある

TRDは、古くはスターレットやレビン・トレノのワンメイクレース、現在はスーパーGTをはじめとした各カテゴリーで開発・活動を行っているモータースポーツ部門。メーカー直系ブランドとして各種機能パーツの開発・販売をはじめ、歴史に残るコンプリートカーを生み出したカスタマイズのパイオニア的存在でもある。

いっぽうで、1954年に中古車の再生事業を行う『トヨペット整備株式会社』として創立され、現在では、HIMEDIC(ハイメディック)と呼ばれる高規格救急車や道路パトロールカーといった特装車の開発・生産も手掛けるなど、モータースポーツやカスタマイズ事業よりも量産型の特装車に関するルーツのほうが歴史のある会社でもある。

そんな『2つの顔』を持つTRDが、それぞれの持つこだわりを凝縮して具現化した結果がヤリス カップカーだと言っても過言ではないだろう。

そんなヤリスカップ カーの全貌は、いよいよ次回詳しく紹介予定。ヤリスカップ カーの基本情報はもちろん、富士スピードウェイでのサーキットインプレッションまで、徹底的にチェックしていくので乞うご期待!

(⽂:三木宏章 / 撮影:三木宏章)

[ガズー編集部]

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