ヤリスカップを満喫するサラリーマンレーサーに取材して分かった「人間力」の大切さ
91台の大量エントリーを集めて華々しく開幕したTOYOTA GAZOO Racingのワンメイクレース、ヤリスカップ。
開幕戦の参加ドライバーをリサーチした記事では、91人中インタビューした50人の参加選手のうち、
- 4割を超える人がサラリーマンレーサー
- ヴィッツレースの経験を持たないデビュー組が3割
- 5割の人が年間予算100万以下で参戦
していることなどを紹介した。
編集部では引き続きサラリーマンレーサーの生態に注目し、西日本シリーズ第2戦のパドックでアンケートを実施。その結果、全員に共通するキーワードが浮かび上がってきた。
参加選手の回答を紹介しながらヤリスカップを楽しむ極意をお伝えしたい。
西日本シリーズ第2戦のエントリー台数は42台。開幕戦の半分ほどの台数だが、西日本シリーズだけであることを考慮すると、相変わらずの盛況ぶりだ。
アンケートを実施した参加選手は11人。職種はバラバラで、エンジニアと製造業の方が2人ずついたが、それ以外はIT、営業、教習所、公務員、製品企画、鉄道、農業が一人ずつとなっている。
既婚者は7人。開幕戦でのアンケートでも40代が一番多かったことを考えれば、既婚者が多くなるのは自然の流れか。
会社にレースのことを言っても、言わなくても、問題なく休日を取得⁉
アンケートを見ていて、真っ先に目にとまるのが会社に関する回答。
ヤリスカップに出場するには金曜日の練習走行から日曜日の決勝レースまで3日間(土日の2日間で済む場合もある)サーキットにいることとなる。
そのため、平日勤務のサラリーマンであれば金曜日を、その他の方では最大3日の休みをとる必要があり、勤務先との関係が重要だからだ。
勤務先とレースの関係性は以下の3つに分けられる。
Q会社の人たちは知っていますか?
1 応援してくれている……4人
2 親しい人のみ知っている……3人
3 知らない……2人
1は理解のある職場に勤めている人や、レース参戦費用をサポートしてもらっている人など。
後者の場合、クルマにサポート企業のステッカーが貼られており、職場ぐるみの応援があるのだろう。スポンサーシップはプロフェッショナルなレースだけと思いがちだが、入門カテゴリーにも存在する。
気になるのは2と3のケース。5人の人がレースに出ることを会社に言っていない。
隠し事があるから言わないのではなく、休日の趣味をわざわざ会社に報告する必要はないと考えているようだ。ヤリスカップが特別なイベントではなく、趣味として認知されていることの表れでもある。
休日の取得に苦労しているサラリーマンレーサーはほとんどいなかったが、
「有給を取るのが少し心苦しい」
「事前の調整が大事」
「普段の仕事をしっかりやること」
という声はあった。ヤリスカップに出るために、サラリーマンレーサーが職場でさまざまな努力をしているのは間違いない。
家族を巻き込み一緒にヤリスカップを楽しむ選手が多い
また、参加選手と家族との関係性も気になるところ。レース出場にはいろいろな面で家族の理解が不可欠だからだ。アンケートの回答に関して、特筆すべき点はヤリスカップに対する家族の関わり方。既婚者7人中5人の家族がヤリスカップ(または以前のヴィッツレース)と関わっており、ファミリー色が一気に強くなる。その内訳はというと……。
Q家族のご理解は?
1 必ず奥様が応援に来ている……2人
2 ヴィッツレースで知り合った奥様と結婚した……1人
3 息子がヴィッツレースに出ている……1人
4 家族が観光のついでにレースに来る……1人
1と2は奥様とレースを共有することで、夫婦共通の趣味にしているケース。きっと奥様はドライバーであるご主人のマネージャー役なのだろう。
3に関してはヤリスカップがスタートし、ヴィッツレースの地方戦が始まったからこそ実現できたこと。この参加選手は「いずれ息子とヤリスカップで戦いたい」と答えてくれており、参戦を続ける大きなモチベーションになるのは間違いない。
また、4についてはサーキットでの拘束時間が比較的少ないヤリスカップならではの時間の過ごし方。
外に出る理由が何かと作りにくい昨今なので、いずれのパターンも、家族を上手に巻き込むことがヤリスカップを楽しむ極意のひとつであることを示している。
ちなみに残る2人の参加選手の1人は「理解はあるけど見に来ない」。もう1人は「興味なし」という答え。
とはいえ両選手ともにヴィッツレースから現在まで長く参戦を続けている選手で、家族が現場に来ないと楽しめないというわけではまったくないので、そこはしっかりとお伝えしておきたい。
日常実生活のプラスになる“実”を人付き合いから得ている人が多い
ここまで見てきてサラリーマンレーサーが職場や家族と良好な関係を築いているのをわかってもらえたと思うが、それはパドックでの仲間に関しても同様だ。
「仲間づくりの方法は?」
という問いに対し、11人の参加選手から以下のような回答があった。
Q仲間づくりの方法は?
1 所属チームで仲間づくり……7人
2 職場の仲間……1人
3 普段乗っている86オーナーつながり……1人
上記の結果は、特定のチームに所属している人もそうでない人もレースウィークを通じて人付き合いを楽しんでいることを表している。
「普段の生活では知り合えない人とたくさん知り合った。エライ、エラくないではなく、速いかどうかです」
「顔見知りになった知り合いのレースの応援に行くようになった」
と、実生活にもプラスになっている様子。
2のケースは職場の仲間とレースに出ることで仕事面でもプラスになっているだろうし、3は86オーナー同士のコミュニティがヤリスカップ参戦によりさらに盛り上がるはず。
ヴィッツレースの時代を含め、ヤリスカップには参戦歴の長い人やステップアップしない人(今回の11人の中にもステップアップはしないと明言している人がいた)が多数いるが、人のつながりに魅力を感じ、参戦を継続している人が多いのだろう。
これからヤリスカップに参戦を考えている人は、太く短くではなく、長くレースに出場できるよう計画を立てると良いだろう。
そして冒頭に説明した参加選手全員に共通するキーワードだが、それは『人間力』だ。
ヤリスカップは決勝レースがスタートすればドライバー対ドライバーの個人戦だが、それは20分程度のわずかな時間。それ以外の時間は家族や友人、仲間や同僚と過ごすいわば団体戦だ。
サラリーマンレーサーは、何かを犠牲にして参戦しているのではなく、
- 仕事もしっかりして
- 家族も大切にして
- 仲間と一緒に楽しむ
レースの技術とともに、『人間力』も磨いている人たちであると感じられた。
こうしたサラリーマンレーサーが織り成す、トップカテゴリーとはまた違うピットでの穏やかな雰囲気と、レースとなれば皆さんのヤリスという想像を超えて繰り広げられる激熱バトルを、ぜひとも現地で味わっていただきたい。
今回お話をうかがったサラリーマンレーサーを紹介
6号車 堀川康祐選手
「以前はレースの合間、レースの都合で仕事をしていた気がする。金曜日から週末はオートポリスに走りに行ってましたね。でもね、オートポリスで走っている大先輩(70歳以上)を見て、自分のペースで参加し、無理しないで長く参戦できるように考え方を変えました」。そんな彼は2008年のネッツカップヴィッツレース(西日本シリーズ)のチャンピオン。「今はレースの都合で仕事のスケジュールを組むことはないですよ」。家族は鈴鹿、富士、岡山開催の時、観光のついでにレースに来てくれるそう。
42号車 樺田祐司選手
「若い頃はF3000などを見てレーサーにあこがれていました。2002年からヴィッツレースに参戦していますが、レースがあったから仕事も頑張れたという経験もあり、人生での生きがいになっています。妻も必ず一緒についてきて、仲間と一緒に楽しんでくれています。最初参戦していたチームがなくなった時、STFというチームが声をかけてくれて参戦も継続できたり、困ったら誰かが助けてくれるいいレースです」と、参加型レースの魅力を語ってくれた。
51号車 中西 豊選手
「免許を取ってからパジェロやジムニーなどの4WDに乗ってましたが、妻の影響でジムカーナに参戦したこともあります。妻がヴィッツレースに3年間参戦していて、今まではサポート役だったんですけど、ヤリスカップに変わった今年は妻と相談してぼくが参戦することになりました。一戦一戦ベストを尽くして、できるだけ長く続けて行きたいですね。レース参戦が夫婦円満の秘訣です!」。夫婦そろってレース参戦を楽しむ姿が印象的だった。
86号車 桐生 清選手
「レースに参加するとサラリーマンでは絶対知り合いになれない人と知り合えるんですよ。その関係性は、単純にサーキットでどちらが速いかなんですよ」という桐生選手は、少し前までIT関係のお仕事をしていたそうだ。仕事で夜勤もあるそうで、「夜勤だと昼間は富士スピードウェイに練習に行けるんですよ。寝るのはその合間です」。その時に作った仲間が今の仲間。実は奥様もヴィッツレースで知り合ったそうだ。
100号車 百瀬孝仁選手
「今は公務員を定年して再任用で働いてますが、現役の時からヴィッツレースに参戦し今回のレースで130戦目なんですよ。レースはストレスを解消できるから最高だよね」。そんな彼は公務員。仕事との両立は可能なのか?「仕事はきちんとこなしていたよ。でもレースに行く時、お休みとるのは難しかったな。さすがに部下が増えた時は仕事での責任を考慮して参戦を少し見合わせましたね」。家族はレースに参戦するのを理解してくれてるが、見には来ないとのこと。
111号車 千葉翔太選手
「子供のころからクルマは好きで、グランツーリスモばかりやっていました。自動車関連の企業に勤めていますが、運転することも好きですし、もっとクルマの内部のことも知りたいと思いヴィッツレースを始めました。普段の生活はミニマリストみたいで、お金はレースにほぼ100%つぎ込んでいます。やるからにはトップを目指したいですが、メンテナンスをお願いしているミッドレスの神谷選手は雲の上の人ですね」。レースに青春をかける静かなる闘志を感じた。
131号車 川瀬武男選手
「会社の仲間に誘われてジムカーナを始めました。ヴィッツレースは最初は友人の手伝いでしたが、自分でも参戦を始めました。仕事とクルマが趣味なので、クルマを壊さないようにして、長く、楽しくレースを続けていきたいです。会社の仲間も応援してくれますし、レースでできた仲間からアドバイスをもらったり、レース以外でも楽しんだりと、本当に人生の一部ですね」と、レースの醍醐味を語ってくれた。
191号車 水野泰昌選手
「昔はバイクで走り回っていましたが、レースへの憧れもあり、45歳の時に『今がラストチャンス』とヴィッツレースを始めました。好きなことをしている分、家事などの家族サービスも頑張りました。今では息子も大きくなり、昨年まで私が乗っていたヴィッツでレースに参戦しています。いずれは一緒にヤリスカップで戦いたいですね」と、家族を大切にしながらレースを楽しみ、新たな親子のコミュニケーションツールとしてレースを満喫している様子だった。
666号車 小川 翼選手
「ヴィッツレースを4年やりましたが、昨年はお金を貯めるためお休み。1年休んでカップカーをネッツトヨタ中京で買い、ヤリスカップに参戦しました。お金? 楽しいから何も犠牲にしていないですよ。職場は教習所で、みんなクルマ好き。どんなクルマを買ったの? って職場の人に言われました。会社の理解があり、1レースでミニマム3日は休んでいます。普段の仕事をしっかりやるのが休暇取得の秘訣ですね」と小川選手。クルマ好きになったきっかけはラリーとのこと。
730号車 福田明浩選手
「実はね、2009年のネッツカップヴィッツレース、西日本シリーズのチャンピオンを獲得しているんですよ。そもそもオートポリスに通っていたら、そこで知り合った6号車の堀川氏に誘われてヴィッツレースに参加してしまったんですよ」。福田選手はブランドの郡築トマト、郡築メロンの生産者であり、やつしろ郡築園芸部に所属している。「やつしろ郡築園芸部が資金面でサポートしてくれています。感謝しています」。ちなみに日常利用しているクルマは軽トラだそう。
865号車 霜尾明宏選手
「今回が公式レースのデビュー戦です。普段は86に乗り、鈴鹿を走っているのですが、自分の実力を知りたいと思うようになり、86仲間とチームを結成。みんなボランティアで手伝ってくれました。仕事は製品企画で、休みをとる秘訣は『この日休むから』とはっきり周囲に伝えておくことです。レースに興味を示す人もいれば、示さない人もいます。『へえ~』って感じです」と霜尾選手。鈴鹿のコースが大好きで、鈴鹿ラウンドのみ参戦する予定だが、仲間にけしかけられていたのが微笑ましい。
(文、写真、編集:奥野大志、GAZOO編集部)
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