けんかをやめて~♪…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

「こんなクルマ、高いだけ。頼まれても買わない」
「買わないんじゃなくて買えない貧乏人」

「醜悪なデザイン。買うやつは、これが走ると社会悪になる、という事に気付くべき」
「あんたみたいな奴にデザインが理解出来る訳ないだろ!黙ってろ!ボケ!」

これは、あるクルマ情報サイトに載った新車発表の記事をめぐってのネット投稿者同士のやり取りです。最近、インターネット上で、この様なコメントの応酬が、頻繁に行われています。クルマ情報サイトを見ている人のコメントなので、どの人も、クルマが、ある程度以上、好きである事は間違いありません。

結論から言うと…、悲しい限りです。

勿論、何を言おうが自由だとは思います。唯、僕の中には、見ず知らずの人に対して「あんた」とか「やつ」とか、ましてや「貧乏人」等と言う様な感覚はありません。このサイトで、初めて、こんなやり取りを見た時は身の毛がよだちました。

傾向としては、販売台数が多いクルマに対してのアンチ意見vsその意見に対する反論。
輸入車愛好者vs 日本車愛好者(特にアンチドイツ車)

という図式が多い印象です。単純に疑問です。
どうして、こんな風に罵り合えるのでしょうか?

私自身は、これも以前、書きましたが「クルマと名の付くものは全て、興味の対象」であり、全てのクルマに対して、「愛おしさ」まで感じています。勿論、欲しいクルマ、欲しくないクルマという線引きは有りますが、仮に欲しくない車のコンセプトや性能やデザインが私の好みと合わなくても、その車を愛する人を罵倒したいという感情は湧きません。

特に「貧乏人」という言葉が頻繁に出て来るのですが、本当に嫌な言葉です。しかも、お互いの収入が分かるわけもないのに、何で、そんな言葉を使って、人を罵倒出来るのか理解に苦しみます。正に不毛の争いです。

クルマ情報サイトが、この様に、言い争いの場になったのは、いつからでしょうか?

以前は、新車が出ると「カッコイイ!」とか、「いつか買いたい」等の意見に対して「同感です」等、肯定意見が飛び交っていたと記憶しています。

汚い言葉で罵り合っている様な人たちは、ごく少数だとは思いますが、投稿されている意見の過半数が、記事で紹介されるクルマや、メーカー、その愛好者に対する批判で占められている事を考えると、少なくともネット上では全体的に嫌な空気がクルマ好き同士に流れているのは事実の様です。

理由を考えた時、長引く不況や格差が広がってきた事によって人の気持ちが荒んできて社会全体が、そんな空気だから仕方がないか、と自分なりに分析し、半ば諦めていました。

ところが、こんな事がありました。

私自身、鉄道に、あまり興味は無いのですが、少し前、鉄道が大好きな、ある俳優さんとラジオ番組を半年間、担当した際、鉄道の情報サイトという物を初めて見る機会がありました。クルマのサイトと同じように鉄道各社の「新車」の発表、という記事も有って、それに対しての一般の方の意見も載っています。

驚きました…。

その新車に対する意見が、どれも肯定的で、たまに否定的な意見が有ったとしても「ここが、もう少し、こうだったら良いのに」等、攻撃色は感じられません。

ましてや、その新車の肯定的な意見に対して、「あんなのが良いなんて言う奴の気がしれない」という類の中傷は、皆無と言っていい状況でした。とにかくファン同士、友好的で、平和な空気が流れていたのです。

逆に、その俳優さんに、クルマの情報サイトのコメント欄を見せたら、「随分と荒れるんですね…」と驚かれました。

何だかクルマ好きとして恥ずかしかったです。

鉄道ファン同士は、こんなに友好的に情報交換や意見交換が出来るのに、なんでクルマ好き同士は、攻撃しあうのか…。

勿論、個人所有する「クルマ」は、公共の交通機関である「鉄道」と比べて、経済状況や嗜好で、好みが分かれるのは仕方がありません。しかし鉄道ファン同士でも、それぞれ好みは違うでしょうし、経済格差も有るでしょう。

じゃあ、どうしてクルマ好き同士は、いがみ合うのか。

経済格差が、直接、所有するクルマの種類を変えてしまうという面は大きいとは思います。鉄道は、最近、流行りの、ごく一部の超高級列車を除いては、殆どの人が殆どの車両に乗る事が出来ます。その公平感が友好的な空気をつくっている要因になっているのかなと推測は出来ます。

でも、実はクルマだって殆どの人が殆どのクルマに乗れるんです。
そう「試乗」です。

私は、これも以前、申し上げましたが、新しいクルマが販売されると、必ずと言っていいほど、それぞれのディーラーに行って試乗します。日本メーカーの軽自動車から、現実的には購入出来ない超高級輸入スポーツカーまで全ジャンルです。

高級ブランドのクルマの場合、発売直後に試乗する事が出来ない場合も多いのですが、1年待っても試乗する様にしています。

とにかく、数多くのクルマに乗ってみる。そうすると、あらゆる種類のクルマに愛着が湧いてくるものです。

サイト上で、攻撃しあっている人に、こう言いたいです。
「とにかく片っ端から、ありとあらゆる車を運転してみて下さい。」

普段、輸入高級車に乗っている人だったら最近の軽自動車にも乗ってみて下さい。もしかしたら、そのコストパフォーマンスに驚くかもしれません。これまで日本メーカーのクルマに乗って来た人には、輸入車で高速道路を走ってみて頂きたいです。

無駄に高価と思っていた気持ちに変化が生じるかもしれません。

何年も輸入車ばかり乗って来た人は日本のハイブリッドカーに乗ってみるのも良いかもしれません。

え?こんなに静かで滑らかに走るの?え、こんな便利な機能が付いているの?

と改めて驚くかもしれません。

唯、一つ、申し上げたいのは、一回、ちょろっと運転しただけではクルマの素性というのは分かりにくいので、ディーラーさんには我儘を言って、何回か、そして一回の試乗も、少しでも長く乗って欲しいという事です。

自社のクルマを深く知って貰う為にもディーラーさんには、誰にでも出来るだけ長い時間試乗させて頂きたいと、お願いをしたいです。それが将来のオーナーになって貰うのに意外に近い方法かもしれません。

平和には相互理解が不可欠です。

クルマというのは色々な状況で、色々な人が、それなりの想い入れを持って、購入するものなので、各メーカーは、それぞれの地域や価格帯の中で、最大限の努力をして、色々なクルマを世に出していきます。

ですから、そのクルマに、触れないで、乗らないで、中傷するのは、やめて頂きたいし、そのクルマを愛する人を中傷するのもやめて頂きたいと切に願います。

運転してみて、やっぱり好きになれないクルマもあるかもしれませんが、そのクルマを悪意でつくるメーカーは有りません。好きになれないクルマを責める必要はないですよね。

事ある毎に書いていますが、今やクルマ好きは少数派です(笑)。

ですから、少数派の中で、「内向きに」、いがみ合うのはやめて、クルマを愛する者同士、団結して、それぞれがクルマの魅力を広く「外に」伝えて、クルマの楽しさをもっともっと多くの人に知ってもらいましょう!

以上、年齢的に、竹内まりやさん作詞、作曲、河合奈保子さんの「けんかをやめて」を口ずさみながら原稿を書いた安東弘樹でした。

[ガズー編集部]