無法地帯 …安東弘樹連載コラム

このタイトル、結論から申し上げると、日本の最近の高速道路の状態です。

以前もこのコラムで書かせて頂きましたが、私、フリーランスになって以降、時間の制約が無い限り、かなりの距離の出張も自分のクルマで行ける様になりました。ここ最近でも、名古屋、奈良、金沢、長岡などへ自分のクルマを運転して現場に行きました。

そして、実は今月初め(6月上旬)名古屋に行った際、遅ればせながら初めて新東名高速道路の110キロ速度制限区間を走りました。予て私は日本の道路の制限速度に疑問を感じていたので、「やっとか」との思いを胸に当日はワクワクして出発したのですが、そのワクワクは110キロ区間に到達すると、失望に変わりました。

最近、日本の高速道路を走る多くのクルマが、何かオカシイ、と感じていたのですが、その時、110キロ区間に入ると、その「オカシイ」が顕著になったからです。何から書いて良いか分からない位、最近の高速道路は走りにくく、ストレスが掛かります。

まず、追い越し車線を制限速度未満で淡々と走るクルマが、ここ数年で激増しました。

その上、トラックには速度抑制装置が付けられ、基本的に90キロしか出ませんので、走行車線を走るトラックと誤差程度の僅かな速度差でそれを追い越そうとするトラック、そして低速で走る乗用車が3車線を塞いで、後ろに断続渋滞が出来てしまったり、車線変更する時に最近は多くのクルマが方向指示器(ウィンカー)を点滅させないので、元々その車線を走行していたクルマが驚いて強めのブレーキを踏む、後続のクルマもブレーキを掛ける。そして渋滞が起こる、という様な状況が多く見られるようになりました。

何故、最近、ウィンカーを点けないドライバーが増えたのか、誰か教えて下さい。

以前も書きましたが、一昔前は猛スピードでジグザグ運転をして、他のクルマを追い抜いていく様な、とんでもないドライバーでさえ、ウィンカーは点けていたと記憶しています。そんな危険な輩でさえ、自分の意思表示をしながら追い抜いていくので、他のドライバーも対処のしようがありました。

ところが最近は、悪気があるのか無いのか分かりませんが、所謂、普通のドライバーがウィンカーを点けずに平然と車線変更をします。もう一度言いますが、理由は何でしょうか?

基本を申し上げますが、ウィンカーは自分の行動を他車に知らせる唯一と言って良い手段で、これがあるからお互いに信頼しあって、高速でクルマを走らせられるのです。実際、私は新東名高速道路を走行中、文字通り、間一髪で難を逃れた、という経験をしました。

110キロの制限速度区間で、恐らく90キロ位で走行していた軽自動車を追い越そうと追い越し車線を使って110キロまで速度を上げ、並んだ位の時でした。その軽自動車はウィンカーを点けずに突然、追い越し車線に車線変更してきたのです。追い越す前に何か嫌な予感がしたので一応、後ろにクルマが居ないか、確認していたので、殆どフルブレーキを掛けました。本当に数センチという感じで接触を避けましたが、心臓が止まるかと思いました。

一瞬、嫌がらせなのか、とも思いましたが、それにしては、その本人にもリスクが高すぎる行為だったし、追い越し車線でも90キロ位をキープしていたので、走行車線に戻り制限速度内のままで走行したところ、結果的に追い抜いたかたちになりましたが、ドライバーからは敵意も感じられなかったので、何も考えず車線を変更したのでしょう。

所謂“リアビューミラーの死角”に私が入っていたのだと思います。こういう事があるからこそ、一見、自分の直後や他の車線の後方にクルマが見えなくでもウィンカーは必ず点滅させなければならないのです。恐らく、そのクルマのドライバーは事故と紙一重だったとは夢にも思っていないのではないでしょうか。

その経験から、今回のコラムには多少、感情が入ってしまっていますが、ご容赦下さい(笑)。

ここで疑問です。

彼(男性だった)は自分のクルマの前に他車が走っていなかったにもかかわらず、何故、わざわざ追い越し車線に移動したのか。更に言うと、制限速度より、かなり遅いスピードで走っているのに追い越し車線を走ろうと思った理由は何でしょうか。そして、私のクルマが急減速したのを、一度もリアビューミラーで見なかったのか。

実はクルマが混走する際に最も危険なのは速度差です。だからこそ、モータースポーツは基本的には同程度のクルマやドライバーが競う訳で、珍しく違う速度クラスのクルマが混走する日本のスーパーGTやWEC(世界耐久選手権)がドライバーにとって難しいと言われるのは、その為です。実際にWECでは、アマチュアドライバーも参加している事で、速いクラスとアマチュアドライバーの接触事故が起きてしまう事もあります。

そう、つまり110キロ区間は、最近増えた、何故か遅いのに追い越し車線を走るクルマと正しく制限速度で走るクルマの速度差が大きい為、更に危険になっている、と私には感じられたのです。制限速度が上がってスムーズに走れるようになったどころか、かえって危険でストレスが溜まる“無法地帯”になっていました…。

車線変更する際に方向指示器を使用しないのは勿論、追い越す目的以外で追い越し車線を走行するのは違法です。ですから、追い越し車線を巡行しているクルマは道路交通法に違反しているのです。

唯、残念ながら、高速道路で取り締まられるのは速度違反が70%以上と殆どで、次いで取り締まり件数が多い通行帯違反はともかく、ウィンカーの非点滅(合図不履行)で取り締まられる事は稀有な様です。

これは、あくまで私の個人的な意見ですが、正しく整備されたクルマで前後左右、他のクルマが走っていない新東名高速道路の制限速度110キロ区間を150キロで走行する。交通量が少なくない状況下、同区間でウィンカーを点滅させずに車線変更する。両方とも違法であり、決して、してはいけない事ですが危険度は完全に後者が高いと私は断言します。

しかし、実際に後者が検挙された、という話は少なくとも私は聞いた事がありません。道交法は安全で円滑な交通の為に存在する、という事に疑問の余地はありません。ですから、場合によっては速度違反より危険度が高い、合図不履行違反、通行帯違反ドライバーを厳しく取り締まるように警察には、心から希望します。

ちなみに同じく基幹産業が自動車であるドイツには、皆さんも御存知かと思いますが速度無制限のアウトバーンがあります。現在は制限がある区間も多く存在しますが、それでも約半分の区間が速度無制限です。それで事故が日本と比べて多いかというと、どの様な資料を調べてみても相対的にドイツの方が少ない事が分かります。

ある自動車ジャーナリストは、アウトバーンの快適な交通状況について最近の記事で、この様に言及されていました。とにかくドライバー全体のマナーが良く、快適に走れる事に感動した。車線によって、走っているクルマの速度がほぼ完璧に守られていて、遅いクルマやトラック等が日本で言うところの、追い越し車線を走っているという事は、皆無である。その為、安心して200キロ超の速度で走れる。

そしてアウトバーンの中でも制限速度がある区間や、所謂一般道でも速度違反をしているクルマは殆ど無く、取り締まりは厳しいのですが、ドライバーの不満が、あまり無いのは制限速度を含む様々なルールが合理的で適正であるから、という内容でした。

以前にも触れましたがドイツの制限速度は、危険な街中の道は30キロ、その代わり見通しが良い郊外の幹線道路は100キロと、とにかく合理的でメリハリがあるのです。特に住宅街や学校近くに自動速度取り締まり器が多く、制限速度違反は厳しく取り締まられます。

日本の場合、高速道路でも一般道でも、制限速度と実勢速度に乖離があるのが暗黙の了解の様になっています。子どもの通学路になっている住宅街近くの道が40キロ制限で、郊外のバイパスが50キロ制限、というのは、どの様な基準で考えても常軌を逸していると私は考えます。その為、バイパス道路等では殆どのクルマが20キロ~30キロ程、制限速度を超えて走っています。

私はこの状況を心から残念に思います。なぜなら、その本音と建て前の様な状況が何より危険だからです。そこで私は、事ある毎に、場所によっては現実的な制限速度に上げた方が良い、と主張するのですが、そうすると多くの方から批判される事があります。

私が言いたいのは「スピードを出せた方が良い」ではなく「制限速度を守っているクルマが邪魔になってしまうという状況がオカシイ」という事です。一刻も早く、多くのドライバーが納得出来る合理的なルールになり、結果マナーも良くなって日本の道が快適になる事を祈ります。

無法地帯は、もう御免です。

安東 弘樹

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