F1、初参戦!で改めて思う、モータースポーツ興行の課題 …安東弘樹連載コラム
去る10月6日、7日、F1の日本GPに初参戦してきました!勿論、レースに出場した訳ではなく、仕事としてF1に携わった、という意味です。
以前のコラムでも書きましたが、一昨年の2016年、私は人生初のF1生観戦を果たしました。長男と二人で、グランドスタンドのチケットを買い、純粋に、客として観戦し、そのチケット代を含めた総費用の高さに驚き、その辺りの事をコラムにも書かせて頂きました。
今回は、合間に仕事をしながら同じグランドスタンドの席で公式予選と決勝を観戦した事で、また新たな問題点や改善点について提案させて頂ければと思います。ちなみに私が仕事として参戦?させて頂いたのはPIT - FMという鈴鹿サーキット内の生放送ラジオへの2回の出演と、決勝レース直前のレジェンド・ドライバーの皆さんによるトークショーの司会、そして決勝レース直後のアフタートークショーの4つでした。
今回も長男を連れての男二人旅です。実は長男と私に密着する形で、F1親子観戦記の様なWEB記事の取材もある予定でしたので、仕事でありながら長男も連れて行ったのですが、ある事情により、その取材が直前にキャンセルになった為、図らずも息子を現場に連れての仕事、という事になってしまいました。
PIT - FMさんや鈴鹿サーキット(モビリティランド)の皆さんには息子に様々な御配慮を頂き、改めて感謝を申し上げたいと思います。
さて、今回は仕事とはいえ、私に個別の控え室がある訳でもなく基本的には仕事以外の時間は自分たちの座席で待機という状況でしたので、一昨年と同じ"普通のお客さん"という環境での観戦になりました。
とはいえ、今回は、6日(土)公式予選から沢山の観客が詰めかけ、一昨年とは全く違う状況になりました。
一昨年は以前のコラム通り、公式予選も決勝も前の席は空いており、荷物も置ける状況でしたが、今回は鈴鹿でのF1開催30回記念レースであった事もあり、前後左右、全ての席が埋まっておりました。その為、鞄も足元や自分の膝の上に置かざるを得ませんでした。
かなり窮屈な姿勢での観戦です。
そして、観戦中にトイレや食事の為に席を立つには、前後左右の方に気を使って、申し訳ない気持ちで、出なければなりません。今回、私は当日や前日に仕事の打ち合わせをする必要があり、長男を置いたまま席を離れる訳にもいかず、何回か長男と一緒に「申し訳ございません…」と恐縮しながら席を離れ、同じ事を繰り返して席に戻りました。
そして今年の公式予選日は雨模様、決勝は打って変わって、真夏の様な暑さに見舞われ、両日とも、席に座ったままで朝から、ずっとそれぞれのイベントを楽しむのは、かなり困難な状況でした。
我々が座っていたのはグランドスタンドの一番、端の方(最終コーナーの近く)で真上には辛うじて屋根はあるのですが雨が降れば思いっきり濡れますし、太陽が照り付ければ、直射日光が直接、当たります。
その為、公式予選や決勝レース以外の時間は、思わずグランドスタンド裏に行き雨宿り、及び直射日光を避ける為に避難?する必要がありました。私と長男も、避難中はひたすらグランドスタンド裏で立って待っているしかなく、正に居場所が無い、という状況でした。
蒸し返して申し訳ないのですが、8万円相当の席のチケットを買って、この様な状況、というのは、他のスポーツ観戦においては、まず考えられないでしょう。根っからのモータースポーツファンは忠誠心が強く、憧れのF1だから仕方がない、と皆さんおっしゃるのですが、新参者には、驚きです。
今回は、30回記念大会という事でミカ・ハッキネンさん、ジャン・アレジさん、フェリペ・マッサさんら、レジェンドドライバーたちによるトークショー等が数多く行われ、極め付きは、そんなドライバーたちが操るヒストリックF1マシンのデモ走行!
確かにモータースポーツファンの私と長男は興奮しましたが、私が危惧するのは、これで新しいF1ファンに対して価格相応の満足感を与えたのかどうかです。往年のファンでしたら、それらを観られるだけで、雨に濡れようが、痛い程の日差しに晒されようが満足でしょう。しかし過去のF1の事を、あまり知らない人が、純粋にイベントを楽しめたかを冷静に考えたら、疑問符が付くのは否定できません。
今回は多くのイベントがあった事もあるでしょう。決勝で8万人の観客が集まったそうで、30回記念大会としては大成功だったようですが、来年、どの様になるかは正に未知数です。
今年、F1観戦ビギナーだった方たちが、どの様に感じたのか、それが未来のファンを育てられるかの勝負になると思います。自分で今、振り返っても肉体的には苦痛を感じていた時間が長かったのは確かです。
では、どの様な事が改善されたら、その苦痛を感じないで済むか、それを色々と考えてみました建築構造的に、どの程度の事が可能なのか専門的には分かりませんが、まずグランドスタンドの屋根は、少なくとも、全席を覆う物が必須で、縦にも横にも最低10メートルは拡げる必要を感じます。
そして、グランドスタンド以外の多くの席には屋根すら付いていないので、せめて、それだけでも付ける事は出来ないのでしょうか?屋根に音が反響するので、全ての席に屋根があればマシンの音の迫力も全席で増すと思います。勿論、ずぶ濡れになる事を防げるのは言うまでもありません。
そして私が最も訴えたいのが、野球場の様に、席に飲み物や軽食等を売りに来てくれるサービスの必要性です。席と席の間が極めて狭い為、炎天下、ちょっと飲み物を買いに席を立つのも憚られる様な環境の中、レースを楽しめるのは、所謂"玄人"だけではないでしょうか。
これは急務だと確信します。私は熱烈なクルママニアであり、モータースポーツファンでありながら家庭環境や仕事の都合で、最近、レースの生観戦を始めたビギナースペクテイターでもあります。ある意味、特殊な立場だからこそ強く思うのです。これまでのモータースポーツは固定客と、その家族だけの循環に頼ってきたのではないか、と。
例えば宝塚や落語等、これまでは固定客に支えられてきたエンターテインメントも最近は様々な工夫により、新規のファンを獲得しています。実際に仕事がらみで私が宝塚の舞台を初めて観た時は、その楽しさに圧倒されました。
それまで、所謂“レビュー”のイメージしか無かった私が観たのは何と人気漫画の「るろうに剣心」や「ローマの休日」といった演目で、心から楽しめたのです。そして、「また観たい!」と強く思う自分がいました。
当然ですが、空調がきいた室内での鑑賞なので肉体的な苦痛もありません(笑)休憩時間には、ゆっくりと飲食する事も出来ました。宝塚とF1を比較するのは乱暴ですが、モータースポーツの現場には、まだ「多少の我慢を強いるのは仕方がない」という空気を感じます。
くどい様ですが、日本GP F1観戦チケット料金は最低でも9,000円、室内のVIP席だと70万円、観戦チケットの平均価格はVIP席を除いても4万円~5万円。これはクリスマス時期の大物歌手のディナーショーの価格よりも高価な設定です。
ディナーショーは「憧れの歌手を目の前に観ながら歌を堪能し豪華な食事をゆったりと座って楽しむ」という贅沢なエンターテインメント。
一方、F1は「憧れのドライバーを“遠く”に観ながら、食事は売店に並んで買ってきた物を、他の観戦客に遠慮しながら膝に乗せて、何とか食べる」という状況です。
このままだと固定客ではない、初めて観戦した人が、来年も観たい、来たい!と思うのは難しいのではないでしょうか。
往年のファンの中には、観戦環境が悪くても、生の音と匂い、身体に伝わってくる振動は、必ず初めて観た人を魅了すると思っている方がいらっしゃいますが、全てをネガティブに捉えるビギナーも多いという現実も知った方が良いと私は思います。生まれた時から空調や遮音がきいた快適な環境で生活してきた人には特に、その傾向があります。
せめて雨や直射日光を遮る屋根の設置とVENDOR(売り子)さんによる、場内飲食物、グッズ販売の導入位は考えて頂く訳にはいかないでしょうか。既存のファンだけに頼っていたら間違いなく、未来は開かれません。何卒、お願いします!
唯、今回素晴らしい試みもありました。グランドスタンドの一部の席を学生限定ではありますが、1万円で販売した事です。当該席は即日完売したとの事で、迫力のある生のF1観戦、学生さんにとっては気楽に払える金額ではないにしても、1万円であれば多少の我慢を強いられても、若さで?苦痛を感じず楽しめたでしょう!社会人になったら同じ席が数倍の料金になってしまうのですが…。
またしても放言してしまいましたが、皆さんは、どう思われますか?
私は、どうしても、モータースポーツをマニアだけのものにしたくないのです。クルマそのものの未来の為にも、“普通の”スポーツになる日まで、様々な提案をして、あがき続けたいと思っています。
安東 弘樹
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