「STOP! 我流ドライビングポジション #2」正しいドライビングポジションで運転が激変するのを確認した

  • ドライビングポジションの実証風景

監修:三浦健光(レーシングドライバー/レクサス公認インストラクター)

「STOP! 我流ドライビングポジション #1」で、正しいドライビングポジション(シートポジション)の取り方について説明しましたが、本当に効果があるのだろうか? ということで、ドライビングポジションの違いによるクルマの動きの違いを前回同様に鈴木仁史氏、城戸ひなの氏に参加いただいてチェックしてみました。正しいドライビングポジションによって、期待されるのは ①素早く、最大限に力強いブレーキがかけられる ②素早いステアリング操作ができる ③視界が良い ④疲れにくい ということです。果たしてどんな結果が得られるでしょうか。

正しいドライビングポジションで周囲の視界はどれだけ改善されるのか測定してみた

まずは「見る」ということを確認してみました。周囲を見渡せることは、基本的に必要なことです。今回は死角の測定として車両前方と、左側の1mのポールが見える距離について、ヤリスクロスを用いて測定してみました。

  • 正しいドライビングポジションで周囲の視界はどれだけ改善されるのか測定

    死角の測定

その結果、死角は前方が20-160cm,側方は20-23cm改善されました。
お尻を奥まで入れて、立った運転姿勢となったこと、そして城戸氏は座面の高さも調整したことで視点が高くなったためです。
実際には、ドライビングポジションを調整するときには、ステアリングやペダルの操作具合は気にして調整しますが、そのときに周囲の見え方についてはあまり意識しないのが一般的です。実際にはこれだけの違いが出ました。

また、鈴木氏よりも背の低い城戸氏は、正しいドライビングポジションに合わせた後でも周囲が見えにくいということにも注意です。実際にはシートの高さ調整で、鈴木氏に近い視線の高さに合わせることはできるのですが、ステアリングやペダルへの手足の届き方も重要で、最大限ベストなポジションがこの位置ということでした。
できるだけ見えるようにするのが理想ですが、操作もしやすい必要があり、まずはどちらも満足できるポイントを探す必要があります。加えて、自分のポジションではどれだけ死角があるのか、ということを知っておくことも重要です。

急ブレーキ及び、緊急回避による検証で正しいドライビングポジションの良さを確認してみた

実際に検証をしてみて、違いはあるのでしょうか。今回は前方で事故が発生したことなどを想定した急ブレーキ検証と、障害物を避けるような緊急回避を模したレーンチェンジ検証(隣の車線に急いで移動する)をそれぞれ行なっていただきました。
急ブレーキの動作に関しては、自己流のドライビングポジションでは腰とイスの隙間が多くあり、膝が伸びた状態での操作となります。ドライビングポジション修正後では、腰をしっかり押し込み、さらにペダルが思い切り踏み込んでも膝に余裕のある状態になっています。両方の比較で、どれほど距離やフィーリングに違いがあるかを検証しました。

クルマの試験で数値を厳正に比較するには、本来は本格的な装置を用い厳密に行う必要があります。今回は一般の方の感想及び傾向を把握するための検証ですので簡易的な検証をおこないました。

急ブレーキ検証で、正しいドライビングポジションの力強さがわかった

  • 急ブレーキとドライビングポジション

    急ブレーキ時、ブレーキを素早く、力いっぱい踏み込みますが、お尻に隙間があると全力で踏めないので、制動距離は長くなってしまいます。

ここでは50km/hからのフルブレーキを、自己流と修正後の各3回、行いました。鈴木氏(男性)、城戸氏(女性)のすべての結果を自己流と修正後で比較してみると、平均値は自己流が9.2m、修正後は7.3mと短くなりました。
実際に感想を聞いてみると、

鈴木氏(男性)は、
「ハンドルをしっかり持つことができたので、より安定した運転姿勢を取ることができました。そのためにブレーキを踏むまでの反応速度も早くなり、しかも体が上にずれないのでブレーキをぐっと踏み込む力が強くなったと思います」

城戸氏(女性)は、
「ドライビングポジションを修正した後は、ブレーキが力強く踏めた気がしています。クルマがすぐ止まった感覚がありました。また、体があまり前のめりにならなかった感じがしています」と答えてくれました。

両者ともに、良い結果は体とシートの間に隙間がなくブレーキをしっかり踏めたことが大きいようです。さらに、ブレーキを思いっきり踏んでも体が動かないことで、安定感と安心感を得ることができたようです。

ドライビングポジションの違いにより制動距離が異なる

50km/hからのフルブレーキを行ってもらいました。一般の方のテストなのでばらつきは大きめですが、自己流と修正後のデータの平均を取ると、大きめの差がありました。これは、ドライビングポジションの違いが何らかの関係のある証といえます。

正しいドライビングポジションは素早いステアリング操作でも正確さを確保

ヤリスクロス

走行中、突然目の前に障害物が発生して、障害物を避けなければいけないシチュエーションを模しました。50km/hから合図で素早くレーンチェンジ。ドライビングポジションの違いは、運転のしやすさにつながっていました。

次は緊急回避のレーンチェンジについて、見てみましょう。
50km/h走行時に、ドライバーに突然合図を送り、隣のレーンに素早く移動してもらいます。自己流と修正後のドライビングポジションで、ドライバーの動き、及びドライバーに運転してみた印象を確認しました。両者とも「体が大きくゆすられても、すぐに正しい運転姿勢に戻れた」と言う感想、ドライビングポジションの重要性が確認できました。

素早いステアリング操作とドライビングポジション

できるだけ素早くステアリングを切って隣のレーンに移動する、緊急回避試験。力が入れやすければ、それだけ早い操作が可能です。

鈴木氏(男性)の場合

緊急回避時の運転姿勢

緊急回避時の鈴木氏(男性)のドライビングポジション。
左が自己流で、腰とシートの隙間があること、操作時に肩甲骨がシートバックから浮くことから、操作直後に上体が大きく揺れます。そのためステアリングを戻す操作も曖昧になりがちです。修正後も体の動きは大きいですが、体を戻しやすく安定した操作ができていました。

この動きのポイントを感想とともに動画で見てみると…

城戸氏(女性)の場合

緊急回避時の運転姿勢 城戸ひなの

ここでの注目は中央の最初の回避アクション。十分に曲がった肘によって早めのレーンチェンジができています。
最後の運転姿勢はあまり変わっていないようですが、修正後では骨盤が起きていることから運転姿勢をすぐ戻すことができていることと、腕に余裕があることでステアリングに力が入りやすくて危なげなく感じられました。

この動きのポイントを感想とともに動画で見てみると…

自己流のドライビングポジションでは、ステアリングを切った瞬間には体が遠心力で外側に移動します。しかし、大きく体が動いてしまい、体制が戻りにくいため、次の動作であるステアリングを戻す操作が曖昧になってしまうようです。
一方、正しいドライビングポジションでは、頭の位置が高くなっているので、体の振れ幅としては大きくなる可能性が高まります。しかし、腰をしっかり固定していることで、体の戻りが良くなり、なおかつ肩がシートについたままステアリング操作ができています。

鈴木氏は
「腰を深く入れ体が安定することで、ドライビングポジションを修正後はタイヤのスキール音が聞こえるほど力強いレーンチェンジができました」と語ってくれました。

まとめ ベストなドライビングポジションを目指そう

自己流のドライビングポジションで2人とも修正すべき点は、お尻をしっかりとシートに押し込むことです。この点は多くの方に言えることです。まずしっかりとお尻を押し込み、正しいドライビングポジションを作るようにしてください。また、素早いステアリング操作やペダル操作をできるように腕も、足も力の入るポジションを心がけると良いでしょう。
今回の検証で鈴木氏は
「リラックスした運転姿勢の方が運転しやすいと思っていました。正しいドライビングポジションは、最初は窮屈な感じがしたのですが、運転してみると窮屈ではなくて、安定性がありとても運転しやすいなと思います」

  • 三浦健光がドライビングポジションを教える

城戸氏は
「最初は頑張って動かしていたのですが、(修正後は)頑張らなくても動かせるようになりました。……最初は(操作時に)疲労感があったのですが、直したあとはゼロでした」
これまであまり経験のなかった緊急回避という急激な操作を経験してみることで、力の入りやすい正しいドライビングポジションの有効性、安全性を感じてもらえていました。

  • 城戸ひなの

今回の結果から分かるように、正しいドライビングポジションが運転の質を変えてくれます。クルマを自在に操るには、もう一度ドライビングポジションを見直してみてはいかがでしょうか。
次回の第三回では、クルマの形によってドライビングポジションは違うのか? を検証します。

監修・アドバイザー三浦健光

監修・アドバイザー三浦健光
NASCAR Euro Series・レーシングドライバー、レクサス公認インストラクター。BMW Driving Experience公認インストラクター、CORNES認定インストラクター など
全米含むNASCAR史上アジア人初の表彰台獲得など現役レーシングドライバーでありながら、自動車メーカーの多様なインストラクション業務を行う。そして、自動車マーケティング会社を経営する実業家でもある。

[ガズー編集部]

 

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