初恋のクルマと運命の再会。1969年式ダットサン・サニークーペ 1000 デラックス(B10型/初代)

今でも、初恋の人の顔と名前を思い出すことができるだろうか?

ライフネット生命保険株式会社が2012年に調べた統計によると、初恋の人とめでたくゴールインできる確率はわずか1%だという。つまり、計算上は100人に1人しかいないということになる。少し前のデータだが、5年経った今でもこの統計はおそらく変わっていないと思われる。ということは、残りの99人は顔や名前すら思い出せないか、青春時代の淡い思い出の1ページとして記憶に留めているということになるのだろう。

では、初恋のクルマはどうだろうか?街中で見掛けて一目惚れし、その後、オーナーとなった統計は見つけられなかったのだが、高嶺の花や他のクルマへ心変わりしてしまうケースなど、かなりの確率で低いように思う。

今回は、初恋のクルマを運命的な出会いで見事に射止めた一途なオーナーをご紹介したい。

「このクルマは1969年式、昭和44年に造られた、ダットサン・サニークーペ 1000 デラックス(以下、サニー)です。私は現在66歳なんですが、高校生のときに通学途中に見掛けて一目惚れしまして・・・。大人になってからもその気持ちは変わらず、就職後、念願の新車を購入することができました」。

目の前にあるサニーは、ほぼ半世紀前に造られたとは思えないほど美しい状態を保っている。さすがワンオーナーカー。当時、新車購入した個体なのかと思いきや・・・。

「いえいえ。これは22年前に手に入れた2台目のサニーなんです。日産自動車村山工場に勤めていた当時、間もなく次期型が発売されるのを承知で、1台目のサニーを手に入れたんです。その理由はこのデザインが好きだったから・・・の一言に尽きますね。何といっても初恋のクルマですから。納車日も『12月25日』だったと、はっきりと覚えています。私にとってクリスマスプレゼントでした。この個体は、8年くらい乗った後、泣く泣く手放すこととなります」。

このサニーが発売されたのは1966年のことだ。ちなみに「サニー」という車名は、公募で決められたものである。ボディサイズは全長×全幅×全高:3820x1445x1345mm。「A10型」と呼ばれる988cc 直列4気筒OHVエンジンの最大出力は56馬力。車両本体価格を当時の平均年収並みに抑えて発売されたサニーは、「マイカー元年」の幕開けを告げたといえるほどの人気モデルとなった。そんな、心底惚れ込んだ1台目のサニーをなぜ手放してしまったのだろうか。

「結婚したからです。その後も、私が所有していた個体の後継車にあたるサニー(B310型)、そしてトヨタ・マークII、トヨタ・タウンエースと乗り継ぎ、現在は2台目のサニーの他に、日産・エルグランドを16年ほど所有しています。私は1台のクルマと長く付き合うタイプでして、エルグランドの前のタウンエースも14、5年ほど乗りました」。

こうして、初恋を成就させた1台目のサニーを手放してからしばらくした後、オーナーに運命的な再会が訪れる。

「今から22年前の1995年のことです。付き合いのあるクルマ屋の社長さんが所有していたサニーを手に入れることができたんです。それが現在の愛車です。女性ワンオーナー車で、オドメーターは4万キロ台。このまま廃車にしてしまうのは忍びないと思った社長さんが保管していたクルマを偶然見つけたんです。驚くべきことに、私が高校生のときに一目惚れし、社会人になって手に入れた1台目のサニーとほぼ同一の仕様でした。何か運命的なものを感じ、妻に相談することなく譲ってもらうことにしたんです」。

こうして初恋のクルマの生まれ変わりとも思えるサニーを手に入れたオーナーだが、その個体の状態は、現在の姿からは想像もつかないようなものだったようだ。

「前オーナーは運転が得意な方ではなかったのでしょうか。手に入れたときは、ボディの凹みや穴など損傷が激しく、塗装も色褪せが進んでいるような状態だったので、レストアを決意しました。自宅の庭でボディに空いた穴をひとつずつ塞いでいきました。仕事が休みのときに作業をしたので、数ヶ月掛かりましたね。親族に板金工がいるので、最後の仕上げは彼に託しました。このサニーのボディカラーは『サンキストイエロー』というのですが、オリジナルの塗装の色合わせに苦労しました。結局、ドアのストライカーを外してみたところ、元色の状態が分かったんです。この色に合わせて全塗装しました。ボディサイドのラインも、シールではなくペイントです。きれいなラインが出るようにマスキングして位置決めをするなど、細部に至るまで妥協しませんでした。そんなことの連続で、レストアには半年くらい要したように思います」。

こうして初恋のサニーは見事に甦ったのだ!

「私はオリジナル志向ですが、音楽が好きなので、オーディオだけはこだわりました。ヘッドユニットは、車内の雰囲気に合うような日産純正品のものを選びましたが、スピーカーはBOSE製の物を組み込みました。私にとって、このクルマは走るオーディオルームですね(笑)。年代的にパワーステアリングは装備されていませんが、その割にハンドルは軽いし、運転もしやすいですよ。高速道路でも、現代のクルマの流れにもついていけます。思いの外、燃費も優秀で、約20km/lを記録したこともあるほどです」。

最後に、この初恋のサニーとどのように接していきたいか伺ってみた。

「この個体を手に入れたときは在庫があった純正部品も、今では欠品が目立つようになりました。これからもまだまだ乗り続けるつもりですが、何があってもずっと手の届くところに置いておきたいというのが本音です。そして、いずれは子どもたちに引き継いでもらいたいですね。私は子どもが3人おりまして、男1人に女2人です。できれば、息子に乗り継いでいってもらいたいですね。しかし、クルマにはまったく興味がないようでして・・・。

帰省すると、レコードや当時の雑誌など、両親が若い頃に愛用していた物がそのまま残っているというケースもあるだろう。これらの物は、処分してしまったら2度と手に入らないケースも少なくない。世間では「断捨離」というキーワードが流行しているようだが、誰にでも手放すのは惜しいと思うアイテムが必ずあるはずだ。今回のオーナーにとって、まさに初恋のサニーがそれに当てはまる。どうか、オーナーの目の届くところにいつまでも在り続けて欲しいと切に願うばかりだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]