幻のZ432と歴代オーナーに敬意を表して。5年間の眠りから覚めたフェアレディZ改

よく晴れた休日の早朝。乾いた音とともにS30型のフェアレディZが滑り込んでくる。リアスポイラーに貼られている「FairladyZ432」のエンブレムが誇らしげだ。もしや幻のZ432かと思いきや、オーナー氏曰く、この個体は「Z432仕様」なのだという。

「なんだZ432仕様なのか」。仮にそう思ったとしても、ぜひ最後まで読んで欲しい。確かにこのフェアレディZは、Z432「仕様」である。しかし、歴代オーナーの熱い想いが込められた、特別な1台であることが伝わるはずだ。もし伝わらないとしたら、このクルマと歴代オーナーを責めるべきではない。それは書き手の力量の問題だ。

ふとしたきっかけで手に入れることになった、Z432仕様の日産・フェアレディZ。実は改造車の検査をパスした「フェアレディZ改」なのだ。休日には仲間たちとバイクレースも楽しむという、生粋の趣味人であるオーナー氏。日産・ラングレーからスタートした自身の愛車遍歴は、フォード・マスタングやシボレー・カマロ、メルセデス・ベンツSL、フェラーリ・328など、30台を超えるクルマたちを乗り継いだ末にたどりついた1台なのだ。

そんなオーナー氏にとってこのフェアレディZ改は、幼少期の記憶を呼び起こしてくれる存在なのだという。というのも、オーナー氏が小学校1年生のときに体験した日産・スカイラインGT-R、いわゆる「ハコスカGT-R」と同じS20型のエンジンが搭載されているクルマなのだ。当時味わったすさまじい加速と音は、いまも強烈な体験として脳裏に焼きついているという。

このS20型エンジンは、太平洋戦争を戦ったゼロ戦にも搭載された栄エンジンなどを手掛けた中川良一氏が開発したものだ。1966年の日本グランプリで、当時最速と考えられていたポルシェ・906を破ったプリンス・R380に搭載されたエンジンがベースとなっている。まさにレース直系のエンジンだ。当時フェラーリさえもシリンダーヘッドのバルブ数を1気筒あたり2つとしていたところを、S20では4つとしているなど、この時代としては革新的な技術を採用していた。

現在の外観は、主に前オーナーが仕上げたものだ。元々は240ZG仕様だったこの個体に、偶然出逢ったS20エンジンやトランスミッションなどを入手。これらを載せ換えるタイミングで、ボディも当時の初期型仕様に変更されている。しかし、前オーナーの仕事が多忙になり、作業が中断してしまう。それから5年ほど車庫で眠りについていたところに、友人を介して現在のオーナー氏に話が舞い込んできた、という経緯だ。

オーナー氏はバイク好きということもあり、エンジンに対して強いこだわりを持っている。ちょうど、古いレーサー系の癖のあるエンジンが積まれたクルマを探していたときに今回の話が舞い込んできた。実車を見てみると、クルマの状態はそれほど悪くないことが確認できた。しかも、このフェアレディZに積まれているエンジンは、少年時代に体験したあのS20型だったのだ。点火系トラブルのためエンジンは掛からなかったが、歴代オーナーのエピソードを聞き、俄然興味を抱いたという。まず、初代オーナーから、偶然にも現オーナー氏と地元が同じだという親友が2代目として受け継いだ。その後、この2代目のオーナーが他界し、さらにその親友が3代目として譲り受けることとなる。そして、縁あって現オーナー氏のところに嫁いできた…。そんな人とクルマの歴史を紡いできたのが、この「フェアレディZ改」なのだ。

リアスポイラーと当時物のホイール、そしてZ432を彷彿とさせるマフラーを除けば、外観はノーマルに近い雰囲気が保たれている。しかし、室内に目をやると、運転席にはレカロ製のフルバケットシートとサベルト製のシートベルト、大森ワークス製のロールバーが装着されていることに気づく。水温計は現オーナー氏が追加したものだという。

足回りやブレーキには大森ワークス製の部品が奢られる。およそ5年間の眠りから目覚めさせるべく、現在のNISMOの前身にあたる大森ワークス製レース用部品として当時市販されていたものを、オーバーホールする際に取り寄せることができた。これには現オーナー氏もさすがに驚いたそうだ。

こうして、公道走行を可能にするための改造車の検査や、各部の交換および調整を行った結果、Z432仕様のフェアレディZ改は息を吹き返したのだ。

休日は、バイクレースなどの合間にソレックス製のキャブレターの調整をしているというオーナー氏。エンジンの点火位置を確認するタイミングライトや、キャブレターのジェットなどの部品やさまざまな工具が積まれており、出先でのトラブルにも速やかに対応できるようになっている。 実は、18才から続く愛車遍歴の中で、オーナー氏は1年半ほど愛車を所有していない時期があった。その最中に巡り逢ったのが、このフェアレディZ改というわけだ。S20型という伝説のエンジンを心臓に持ち、歴代オーナーの情熱が込められたこのフェアレディZ改。惜しみない愛情を注ぎ、少しでも長く走れるように維持することがオーナーになった者の使命だと考える人と巡り逢えたこのフェアレディZ改は、これからも快音を轟かせて日本の路上を走り続けることだろう。

・ベース車両:日産・フェアレディZ改
・オーナー:S氏(53才)
・所有年数:1年

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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