オーナー自ら20年の眠りから目覚めさせた、かけがえのないトヨタ 2000GTというパートナー
トヨタ・2000GT。1967年にこのクルマが誕生したとき、50年後の日本でも当時と変わらない姿で存在していることをどれほどの人が予測できたであろうか?
2000GTは、1967年から1970年の間にわずか337台が生産されたに過ぎない。しかもその1/3程度は輸出用として生産され、その大半は日本を後にしている。当時から極めて稀少なクルマなのだ。
ヤマハ発動機の協力を得て開発された2リッター/3M型直列6気筒DOHCエンジンは、150psを発生。このエンジンは、後のA70型スープラやZ20型ソアラにも採用されていた、3リッター/7M-GTEのルーツでもあるのだ。日本初の4輪真空倍力装置付ディスクブレーキを採用するなど、この国の自動車史における新たな扉を開いたクルマである。
日本初のリトラクタブルヘッドランプを採用した極めて流麗な2000GTボディのサイズは、全長4175mm、全幅1600mm。現代の感覚からすると驚くほどコンパクトだ。
その稀少性と、映画「007は二度死ぬ」のボンドカー(劇用車)として採用された美しいスタイリング(ボンドカーとなった2000GTはオープンモデル)、そして当時の3つの世界新記録と13の国際新記録を樹立するほどの走行性能を誇った。2000GTは、生まれながらにして後世に語り継がれる運命とストーリーを持ち合わせた、日本屈指の名車と言ってよいだろう。その評価は現代の日本に留まらず、世界でも認められていることは周知のとおりだ。 オーナー氏が学生時代から憧れていたという、この1967年式2000GTを手に入れたのは、いまから10年ほど前だという。知人が20年ほど不動車の状態で所有していた個体を譲り受けた。
こうして、2000GTのレストアプロジェクトがスタートすることとなった。
驚くことに、オーナー氏はこの2000GTのレストア作業をすべてプロに委ねることなく、その多くの工程を自力で行った。レストア作業は実に2年の歳月を要したという。
取材中、オーナー氏が記録したレストア前の2000GTの模様を収めた資料を拝見した。一見して、とても走らせられるような状態ではなかった。こういっては失礼かもしれないが、痛々しい状態というのが率直な感想だ。それだけに、現在のような美しいコンディションを取り戻すまでのレストアは、気の遠くなるような作業だったことが容易に想像がつく。
しかしオーナー氏にとって、2年におよぶレストア作業は、夢中でクルマと向き合えた楽しい時間だったと語る。
他のクルマと部品を共有しているものは現在でも新品が入手できるが、2000GT関連の多くの部品は既に欠品している。そこで装着されていた部品を外し、レストア。そしてまた装着。ひたすらその工程の繰り返しとなった。
ボルト類のレストアも、一度に業者へ依頼すれば安価で済むことは承知のうえで、小出しで行った。まとめて大量に依頼すると紛失されることもあるという。それを極力避けるためだ。
トランスミッションのオーバーホールやステアリングのレストアも、オーナー氏自らの手によるものだ。しかし、ブレーキ周りのオーバーホールは日本国内では行えず、アメリカに住んでいる仲間が助けてくれた。現地にはクラシックカーをレストアする業者がいくつもあり、2週間ほどで無事にオーバーホールされたものが戻ってきたそうだ。
2000GTの絶妙な色合いであるホワイトのボディカラーも、経年変化で本来の色ではなくなっていた。そこで、キッキングプレートを外したところ、紫外線などの影響を受けなかった当時のボディカラーが現れた。この色味を基に調合することで、オリジナルのボディカラーを再現した。
エンジンは、パッキンやシール類の交換のみで、この時点ではあえてオーバーホールしなかった。レストアが完成して、まず走ってみてからオーバーホールするか考えればよいと思ったからだ。事実、現在に至るもオーバーホールは施されていない。丈夫で長持ちし、乗りやすいところもこのエンジンの魅力的だという。
オーナー氏の推測では、新車当時から現在までの実走行は11〜12万キロくらいではないかとのことだ。しかし、少なくとも20年はエンジンが掛けられていなかった状態。つまり、油膜が完全に切れている状態を意味する。そこでレストア作業と平行してエンジン内部にオイルで満たすことで、じっくりと各部に浸透させておいたのだ。
ボディにエンジンが載せられ、いよいよ火を入れるときがきた。まず手動でクランクシャフトを回し、ゆっくりとオイルを循環させる。そして、エンジン始動…。あの瞬間の緊張感は忘れられないという。
こうして2年間の歳月を経て、オーナー氏の手によって現代に甦った2000GTは、日常の足として、またロングツーリングの大切なパートナーとして日本の路上を元気に走っている。ときには台風や雪などの悪天候にも遭遇したそうだ。
現代の技術や部品を盛り込むことはある程度仕方ないが、せめて目に見えるところは極力オリジナルを保ちたいと語るオーナー氏だが、モディファイした箇所がある。それは社外品のエアコンの装着だ。この2000GTでロングツーリングを楽しむオーナー氏にとってエアコンは必需品。エアコンを装着していなかったころ、金沢までのロングツーリングの帰路で、暑さからクルマよりも先に人間が音を上げてしまったという。
実はこのエアコン、ネットオークションで軽自動車用の中古部品を集めてきたものだ。もちろん、オーナー自身が装着した。車内やエンジンルームを覗いても、エアコン付きだとは気がつかないよう工夫している。コンプレッサーや配管もエンジンルームの下側に配置し、存在を隠すような配慮も万全だ。
そんなオーナー氏の人生観を変えたクルマはホンダ・S600だという。学生時代に苦労してアルバイトをしてやっとの思いで手に入れ、若いころの思い出がたくさん詰まったホンダ・S600を、今も大切に所有している。
2000GTはグランドツーリングカー。その反面、S600は軽快な走りが楽しめる。それぞれのクルマの良さを味わいつつ、カーライフを楽しんでいる。
言うまでもなく、オーナーは所有するクルマを選ぶことができるが、クルマはオーナーを選ぶことはできない。そこでクルマにとっての運命が大きく変わることになる。
常に予防整備を心掛け、できる限りオリジナルコンディションを維持するべく腐心し、自らの手を汚して愛情を注いでくれるオーナー氏に巡り会えたこの2000GTは本当に幸運な1台といえる。そして、憧れを現実にしたオーナー氏にとっても、この2000GTはかけがえのないパートナーなのだ。これからも、日本そして世界の自動車史に残る名車として語り継がれていくであろう2000GT。50年後の日本でも、今と変わらず元気な姿を見せ続けてくれることを願うばかりだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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