出会いから20年、妻よりも愛娘よりも長い付き合いとなった初代トヨタ・カローラ

結婚を機に、それまで手塩に掛けてきた愛車を泣く泣く手放し、家族を優先したクルマ選びをしている人も多いのではないだろうか。もちろん、家族用と趣味用の2台(あるいはそれ以上)所有できれば理想なのだが、特に都心部では自宅の駐車スペースも限られるであろうし、マンションであれば毎月の駐車料金が倍の金額になる。よほど甲斐性があるか寛容な奥様でもない限り、真っ先に家庭内における「事業仕分け」の対象にされてしまうだろう。

晴天に恵まれたある日曜日の午前中、新旧スーパーカーが羽を休めるパーキングエリアの片隅に、お嬢さんと2人で、懐かしいトヨタ カローラ(初代)の前に佇んでいたオーナーに話し掛けてみた。

「このクルマは1967年式の初代カローラです。手に入れたのは1997年になります。生産されてから50年、手に入れてから20年経ちました」。初代カローラ(以下、カローラ)がデビューしたのは1966年。この個体はその翌年に生産されたものとなる。2016年は、カローラがデビューして50年。「カローラ」を冠したモデルは現行のクルマで11代目にあたり、今日に至るまで途切れることなく造り続けられていることは周知の通りだ。日本には無数といってよいほどの車種が溢れているが、半世紀に渡り脈々と続く歴史を持つ「長寿モデル」は数えるほどしかない。まさに、日本のモータリゼーションとともに成長し、その過程を見守り続けてきた生き証人的なクルマとも言えるだろう。

「この種のクルマを所有していると父親譲りのカーマニアと思われがちなんですが、僕はそうではないんです(笑)。父親はペーパードライバーでしたから。それでも、幼少期にバスに乗ると、運転手さんの隣に陣取るような子どもでしたね。最初に手に入れた愛車はいわゆる『通称、ハチロク』です。これを事故で潰してしまい、次にスターレット(KP61型)を2台乗り継ぎました。今でこそ高値がついているKP61型のスターレットですが、当時、欲しくても買えなかったシルビア(S13型)の代わりにタダ同然で購入できたんです。いい時代でしたよね。そこから日産ローレル(C33型)を乗り継いで、このカローラを手に入れました」。

現在44歳になるというオーナーの愛車遍歴は、カローラを含めて5台。このクルマを手に入れてから20年、カローラ一筋だ。

「古いトヨタ車が好きで、ある雑誌でレースに出ていたカローラの記事を見たことをきっけかにこのモデルを探し始めました。当時でも売りに出ている個体が少なかったこともありますが、このクルマに出会うまでに探したのは1台だけ。2台目が今の愛車です。1台目は仙台まで見に行きましたが、このクルマは自宅近くの中古車店で見つけたんです」。

オーナーが手に入れた当時で既に30年落ちの個体。オリジナルコンディションではなく、グリルがマイナーチェンジ後のものに替わっていたりと、あちこちに手が加わっていたという。

「今から4年前にボディのレストアに着手しました。その他、エンジンやミッションのオーバーホールも、可能な限り自分で行っていました。レストアに際してシートの生地も張り替えましたが、当時のオリジナルが見つからなかったので、プロの方と相談して、当時のものに近い素材を探し出しました」。断っておくが、オーナーはメカニックや板金塗装を生業としているプロフェッショナルではない。それでも試行錯誤を繰り返しつつ、作業できるものはできる限り自宅でレストアを行ったのだという。そこで、気になるのは家族の反応だ。その点は大丈夫だったのだろうか。

「このカローラとの付き合いも今年で20年。振り返れば妻や娘よりも長いんです。結婚前の妻とのデートもこのクルマで出掛けましたし、今でも家のクルマはこのカローラ1台。仕事が休みになる土日は動かすようにしていますし、距離や天候によってはこのクルマで旅行に行きます。実はエアコンも装備されていませんし、ボディサイズは現代の軽自動車並みにコンパクトですが、家族からは何も言われないですね」。

このカローラのボディサイズは、全長3855mm、全幅1485mm、全高1380mmと、驚くほどコンパクトだ(現行モデルにあたるカローラ アクシオは全長4400mm、全幅1695mm、全高1460mm)。

「基本的にメンテナンスは自分で行っていますが、手に入れてから、クルマが動かなくなるような致命的なトラブルに見舞われたことがないんです。2年に一度の車検は、地元のトヨタカローラ店にお願いしています。GAZOOの取材だから…というわけではないですけれど、トヨタ車の造りの良さに惚れ込んでいます。1.1L直列4気筒エンジンと4速MTの組み合わせからは、想像がつかないくらいスポーティな走りも気に入っています。シフトチェンジの動作ひとつとっても楽しいですよ」。人間が病気をするのと同様、クルマだって故障したり、トラブルにも悩まされる。家族同然の存在と解釈するなら、特に気にならないということなのだろうか。

開発を指揮したのはトヨタ パブリカやスポーツ800(通称、ヨタハチ)の開発にも携わった長谷川 龍雄氏だ。オーナーが、このカローラの走りにスポーティさを感じているのも、もしかしたら長谷川氏によるエッセンスが少なからず関係しているのかもしれない。

「この種のクルマを維持する上で、避けて通れない純正部品の問題ですが、手に入れた20年前からコツコツと集めているので、ある程度はストックがあります。どうしても手に入りづらいものは、これまで培ってきたネットワークを駆使して入手しています。国の法律が許す限り、このカローラに乗り続けたいですね」。

オーナー自身がエンジンを組み上げ、ボディのレストアを手掛けた。大変な手間と時間を掛けているはずなのに、決してそれを大げさに吹聴するわけでもなく、実にサラリと語る。それは、誰でも手が届く価格帯でありながら、ライバル車を圧倒する高品質と、多くのユーザーを獲得することに成功した優れた設計を、さりげなく両立しているカローラのクルマ造りに通じているのかもしれない。本物はあくまでもさりげなく。敢えてその凄さを誇示しないのだ。そして、お嬢さんの成長を見守ってきたこのカローラ。彼女の人生において、このクルマと過ごした時間はかけがえのない思い出となっていくのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]