潔く、敢えて日常の足として扱う、1975年式ホンダ・シビック 1200RS(SB1型)

突然だが、旧車に対するイメージといえば、どのようなものがあるだろうか?

幼少期からの憧れであったり、年季の入ったクルマであればあるほど、自分のところにいる限りは静かな余生を送らせてあげたい・・・。また、「雨の日は絶対に乗らない」というケースも少なくないように思う。結果的に、オーナーの思いが強いほど溺愛してしまうのは当然といえる存在かもしれない。今回、ご紹介させていただくオーナーは、旧車だからと特別扱いせず、敢えて日常の足として使いつつも、惜しみない愛情を注いでいるという。どのように愛車と接しているのか、詳しく話しを伺ってみることにした。

「このクルマは、1975年式 ホンダ・シビック 1200RS(以下、シビック)です。これまで初代シビックを何台か乗り継いできまして、気がつけば、トータルで22年間も乗っています。ちなみにこの個体のオドメーターは現在12万キロを超えたあたり。私が2オーナー目とのことです」。

初代シビックは、当時の日本車としては斬新な台形デザインを採用し、「ユーティリティミニマム(必要最小限で最大効果を発揮すること)」を追求したFF 2BOXカーとして人気を博した。そして、世界で初めてアメリカのマスキー法をクリアした「CVCCエンジン」を搭載したのも初代シビックであった。当時のホンダにとって、このクルマがあらゆる意味でエポックメイキングなクルマであったことは間違いない。

オーナーが所有する個体は、初代シビックの高性能モデルにあたる。車名の「RS」は、「ロード・セーリング」の略称だ。ボディサイズは全長×全幅×全高:3650x1505x1320mm。「EB1」と呼ばれる、排気量1169cc、ツインキャブレターを搭載した、直列4気筒SOHCエンジンの最大出力は76馬力を誇る(GLグレードは69馬力だった)。スポーツモデルとして設定されたRSは、シビックでは初となる5速MTを採用し、最高速度は160km/hをマークした。2ドアと3ドアモデルが用意されたが、オーナーの個体は後者のようだ。ところで、22年もの間、何台もの初代シビックを乗り継いでいる理由はなぜだろうか?

「私は現在、43歳になります。幼い頃、父が初代シビックを所有していまして、大人になってもその記憶が残っていたんだと思います。現在所有しているシビックRSは、手に入れて5年、5万キロをともにしています。手に入れたときはフルノーマルだったんですが、サーキット走行会に参加していた時期があり、それに準じたモディファイを施してあります」。

確かに、よく見るとホイールが交換されているし、その奥にはブルーに塗られたブレーキキャリパーが顔を覗かせている。

「ブレーキは、ENDLESS製ホンダ・フィット用のブレーキキットを組み込んであります。ブレーキが大型化されたことに伴い、ワタナベ製のホイールも14インチのものに交換しました(オリジナルは13インチ)。サーキット用に組み上げたエンジンを搭載していましたが、現在はノーマルのものに戻しました。サーキット用のエンジンは自宅に保管してあります。また、ステアリングをナルディ製のものに交換し、運転席のみsparco製のバケットシートと4点式シートベルトを取り付けてあります。仕事柄、バケットシートも車検対応品を選びました」。

「仕事柄」とのことだが、オーナーはどのような仕事をしているのだろうか。

「自動車教習所に勤務しています。通勤の足もこのシビックなんです。雨の日はもちろん、雪の日だってスタッドレスタイヤを履いてこのシビックを運転して通勤します。エアコンが装着されていませんが、真夏もこのクルマで移動しますよ」。

40年以上も前のクルマが日常の足として使えるほど、きちんとコンディションが維持されているということなのだろうか?

「大抵のメンテナンスは自分で行ってしまいます。3年ほど前に全塗装した際、塗装はプロの方にお任せしましたが、板金を含めた下地処理は自分で行いました。私の初めての愛車はスバル・360だったんです。近所にほぼ放置に近い状態で停められていたクルマのオーナーと思われる方に『このクルマをください』と頼んでみたら『自分で直せるならいいよ』と言ってくれまして。それならばと、自分でスバル・360を直してしまったんです。それがすごく楽しくて・・・。結局、1台目の初代シビックを手に入れる際に手放してしまったんですが、元々タダだったクルマが『いい値段』で売れました(笑)。もしかしたら、このスバル・360が今後の私の方向性を決定づけ、人生を変えたクルマなのかもしれません」。

こうして独学でメンテナンスの技術を習得していったオーナーだが、率直なところ、旧車を通勤の足として使うことで苦労していることはないのだろうか?

「古いクルマですし、通勤で毎日乗っていれば、細かなトラブルはあります。そんなときは自分で直してしまいます。純正部品はほぼ欠品していますが、ない部品は先輩たちの力を借りながら造ってしまうこともありますし、意外と何とかなりますよ。それに、いざというときにはシビックを通じて知り合った仲間たちが助けてくれます。停めている場所も青空駐車ですし、毎日乗るからボディカバーも被せていません。旧車だからと特別扱いせず、敢えて現代のクルマと同じように接しています」。

何台か乗り替えたとはいえ、22年間もこの型のシビックに乗り続ける理由は何だろうか?

「この表情、そしてデザインですね。フォード・マスタングが短くなったようなこのフォルムが大好きです。現代のクルマのように決して快適とはいえません。しかし、運転して楽しいのは断然この年代のクルマです。誰が運転しても同じであるよりも、癖があって、それに人間が合わせていくような・・・。そんなクルマとの付き合い方に惹かれます。実は今、ランドローバー・シリーズ2をレストア中なんです。イギリス車は部品の欠品がほとんどないため、日本車よりも集める作業は楽です。完成したら、このランドローバーを日常の足にして、シビックは少し休ませてあげたいなと思っているんです。このシビックは、壊れて修理不可能になるまで、一生乗り続けたいですね」。

愛車との接し方は十人十色だ。屋根付きのガレージで大切に保管し、ボンネットには毛布が被せられ、埃が付着しないよう細心の注意を払っているオーナーも少なくないはずだ。さらに、莫大な時間と費用を掛けてレストアし、24時間、エアコン完備のガレージで美術品を扱うかのように保管する人もいるだろう。その反面、ボディが錆だらけでも、敢えてそのままで当時のオリジナルコンディションを維持することに腐心する人もいる。自宅の庭でボディカバーが被せられ、静かに復活のときを待つ・・・。いずれも一度は夢に思い描く愛車との付き合い方ではないだろうか。

しかし、まるでゴミであるかのように乱暴に扱われるとしたら・・・。それはあまりに悲しいことではないか。どんなクルマでも、工場出荷時はピカピカの新車だったのだ。そして、オーナーの元に嫁いで愛車としてその人の暮らしに寄り添う。オーナーにとってスバル・360が人生を変えたクルマであるならば、このシビックは生涯のパートナーなのかもしれない。そんな気がしてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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