【世界の愛車紹介ドイツ編】8年かけてレストアされた、オーナーと同い年のBMW2002
「私が幼い頃、父が2002を所有していました。当時のスポーツカーと言えば2002。自分も大人になったら父と同じクルマが欲しいな、と幼心に夢見ていました」とBMW2002の購入のきっかけを語るトーマスさん。特に20年前くらいからその思いが強くなり、そこから10年もの時間をかけて探し続けた。BMW2002はドイツ国内でも貴重な名車ということもあり、その価格は年々高騰している。クルマ選びは非常に難航したが、やっとのことで見つかったのはボロボロのボディ。そこから長いレストアの日々が始まった。
BMW2002とは、BMWが1966年から製造していたBMW 02シリーズの4車種あるなかのひとつだ。日本では「マルニ」とも呼ばれ、現在も愛好者が多い。1966年に1673ccSOHCエンジンが搭載された1602が、同シリーズの最初のモデルだ。BMW2002は1968年に発売。直列4気筒1990ccのSOHCエンジンを搭載。ボディはBMW1602のそれが流用されている。トランスミッションは4速マニュアルと3速オートマチックの2種類。車重は990kgと軽量だ。1973年に発売された派生モデルであるBMW2002ターボは、量産車として初めてターボエンジンが搭載されたモデルとしても知られている。
トーマスさんの苦労は続く。ボディ探しの次はBMW2002用のオリジナル補修パーツ探しだ。ネジひとつでさえも合うモノを探すのに困難をきたしたという。同じBMW2002でも年式が違うと適合パーツも異なる。トーマスさんが所有する1972年製も多分に漏れず、パーツ探しはかなりの苦労だったそうだ。ミュンヘンにあるBMW本社近くにあるBMWクラシック(BMWグループのなかの、BMWが所有するコレクションを維持管理する部門。顧客車両のレストアも行なっている)にもほとんど当時のパーツが残っていなかった。特にホイールの在庫は最後の1組で、もちろん即購入した。
オールドタイマーに興味がない人達からは、ボロボロのクルマやパーツを見て、「こんなゴミなんかどうするの?」と笑われたという。しかし、古いレーシングカーをレストアしている友人の手を借りながら、毎日の仕事帰りに少しずつ手作業で完成させたとあって、完成したときには感慨もひとしおだった。
元々の色はくすんだトルコブルーだったが、塗装し直したオレンジ色は木々の緑が美しいドイツの田舎道で特によく映る。まるで古い映画のワンシーンを観ているようだ。コンパクトなエンジンながら103馬力を発揮し、アウトバーンをコンスタントに時速180kmで走ることが可能だという。
「私の45歳の誕生日である今年の3月に、ざっと8年もの歳月をかけてやっと完成しました。誕生日に車両登記を済ませ、それから既に400km以上も走りましたよ」。
20歳になる長男にもその宝物であるBMW2002のドライブを許しているそう。ガールフレンドを助手席に載せてデートを重ねている長男。この2002も、その青春の1ページを彩っているに違いない。
後部座席には1960年~70年代にかけてドイツで一世を風靡したヴァッケルダッケル(首振り犬)のマスコットが見え隠れする。トーマスさんの祖父が愛車に長く載せていた50年以上前のモノだという。
そして帽子型の手編みのアクセサリは祖母の手作りで、どこか日本の昭和感も通じるノスタルジックな雰囲気を漂わせてなんともかわいらしい。
BMW2002のレストアは大変高価な趣味なだけに、夫人の理解はなかなか得られなかったと苦笑するトーマスさん。「いずれ息子がこの大切な宝物を乗り継いでくれればこんな幸せなことはない」と目を細める。2002を前に楽しそうに話し込む父子の微笑ましい姿に、夫人も納得せざるを得なかったのだろう。元々大のBMWファンで「ウチの家族はBMW以外のメーカーは全く知りません」と笑うトーマスさんのご一家は、全員が代々BMW一筋。トーマスさんは普段は最新のM4を使用しているが、晴れた日に限り週に1~2回は2002で通勤にも使用しているそうだ。
遠き日の父との思い出とともに、やっとの思いで手にした2002。このクルマが生まれた1972年は、実はオーナーのトーマスさんの生まれ年でもあり、自身の年齢と同じ45歳だ。幼き日の夢を手に入れ、自身の手でまるで新車のように美しく蘇った愛着のある一台は、これからもオーナーとともに年を重ねる。そして夢の続きは愛息子へと受け継がれていくのだ。
ライター:池ノ内みどり
ドイツ在住のモータースポーツジャーナリスト。DTMやFIAユーロF3、フォーミュラE、ニュルブルクリンクやスパ・フランコルシャンなど、ヨーロッパ各地の24時間レースといったメジャーレースはもちろん、VLN(ニュル耐久レース)や欧州内のGTシリーズも取材や撮影を行う。
撮影:ファビアン・キルヒバウアー
高校卒業後、ドイツ有名カメラマンのアシスタントを経て2006年より独立。現在ドイツ大手自動車メーカーをはじめ、自動車関連の撮影を中心に、ポートレートやドキュメンタリーの撮影も行う。
[ガズ―編集部]
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