愛車は昭和生まれの日産・フェアレディZ(S30)、ライバルは平成生まれのホンダ・S2000
プロフェッショナルとアマチュアの違いは何だろうか?答えはいろいろあるだろうが、ひとつは「その分野でメシを食っているかどうか」にあると思う。他には「時間の制約」もあるだろう。例えば、この種の原稿には締め切りがつきものだ。何があっても、定められた期日までにクライアントが求める以上のものを納品しなければならない。
クルマのチューニングに目を向けると、アマチュア(プライベーター)であれば自分の時間と手間をかけ、金銭を投じて、とことんまで理想を追求し、1台のクルマと向き合える。これがプロフェッショナル(チューニングショップ)なら、仮にデモカーであったとしても限界があるだろう。ユーザーが興味を示すような圧倒的なスペックや外観など、自社のPRが目的だからだ。
ボンネットを脱着した状態の日産・フェアレディZ(S30)が駐車場に佇んでいた。近くにいたオーナーと思われる男性に話し掛けてみたところ、快く取材に応じてくれた。
「このクルマは1973年式の日産・フェアレディZ(S30)で、ベース車両は2000ZTというグレードです。手に入れて15年くらいになります」。オーナー氏にとって、S30型フェアレディZ(以下、S30Z)は少年時代から憧れの存在だったという。中学生の頃から、当時富士スピードウェイで開催されていた富士グランチャンピオンシリーズ、通称「グラチャン」を観戦していたほど熱心なZフリークだ。18才で運転免許を取得すると、すぐさまS30Zを購入。現在も営業している、ある老舗チューニングショップにクルマを託した。
「結局、このS30Zは手放しました。しかし、また乗りたくなってしまったんですね。こうして手に入れたのが現在の愛車です」。出会ったときのS30Zのボディは「ドンガラ状態」。つまり、丸裸の状態を意味する。しかし、ゼロから理想のS30Zを自身で仕上げていくつもりだったので問題はなかった。「まず、タミヤのプラモデルで自分が理想とするS30Zをしっかりと造り上げてから、実車製作に着手しました」。プライベーターである以上、試行錯誤を繰り返しても誰にも迷惑は掛からないが、その分の時間の浪費と出費がかさむ。オーナー自身が理想のクルマの方向性を探る点においても、プラモデルでシミュレーションするのは参考になりそうだ。
S30Zに搭載するエンジンといえば、やはりL型だろう。オーナー氏が走る主なステージは、富士スピードウェイや筑波などのサーキットだ。筑波に関してはこのS30Zを操り、1分5秒台のラップタイムを刻む。しかし、オーナー氏とS30Zの前に強力なライバルが現れた。後輩が手に入れたというホンダ・S2000だ。
「S2000のポテンシャルには正直驚かされましたね。絶対に負けられないと思いました」。こうしてオーナー氏は、打倒S2000を目標に掲げ、L型に替わるエンジンを模索することになる。それが、現在搭載されているFJ20型だ。日産・スカイライン(R30型)に搭載されていたエンジンもこのタイプだ。もちろん、ただのFJ20型ではない。ピストンは、ポルシェのエンジンなどにも採用されているMAHLE(マーレー)製のFJ24型を入手してボアアップ、カムは当時のワークマシン用を組み込み、コンロッドに至っては「大きな声ではいえないけれど、あるレースカーに使われていたそのもの」を組み合わせたスペシャル品。これらをオーナー自ら念入りに組み上げた。最高出力は計測していないので不明とのことだが、11000rpmまで回るというから恐れ入る。
「試行錯誤した結果、クランクシャフトは純正品がベストだという結論にたどりつきました。とにかくS2000に負けたくない一心で組み上げたエンジンです」。ボディはスポット増し、足まわりもカヤバ製ショックとレース用のサスペンションを組み合わせる。強化クラッチを組み込んでいるが、スプリングが追加されたお陰で、かつてのようにシビアなクラッチミートを強いられることもないそうだ。
「とにかく馬力よりもフィーリング重視。気持ちよく回るエンジンと、クルマ全体のバランスの良さが気に入っています。確かにGT-Rはすごいと思うけれど、私にはパワーがありすぎて手に負えないイメージです」。オーナー自身が自分専用のマシンを造り上げただけに言葉に重みが感じられる。内装も内張りが取り払われ、ロールバーが組み込まれている。速く走るために必要な装備と機能だけがインストールされ、極限まで無駄な装備が省かれている印象がある。運転席および助手席のウィンドウもスライド式。もはやレーシングカーの佇まいだ。
「ハチロク(AE86)が現役の頃は、仲間は自分たちでクルマいじりをしていましたよ。発売されてすぐに何人もの仲間が手に入れて試乗してみたところ、その場にいた誰もがハチロクの素直なハンドリングに感動しました。当時からこれは歴史に残ると話していましたが、本当にそうなりましたね。現在のマツダ・ロードスター(ND型)やトヨタ・86も、後世に残るような気がします」。
つい数分前まで面識のないオーナーに突然声を掛けさせてもらい、取材の主旨を説明し、了承が得られたらそのままインタビューに突入する。無礼を承知で、いきなりその人のクルマに対する本音を聞き出さなければならないのだ。図々しいこと甚だしいと感じることもある。
「後輩のS2000にだけは負けたくない。そのためにZを軽量化し、自分のドライビングテクニックもチューニングのスキルも鍛えてきました。目標があるからここまで頑張れたと思うんです」。
もしかしたら、オーナーの親しい友人でもあまり知らないことを聞いているに違いない。知らぬ間に失礼な質問をしていることだってあるはずだ。それでもオーナーの方々はにこやかに、クルマに対して情熱に満ちた想いを伝えてくれた。気づけば取材後も「打倒・後輩のS2000トーク」に花が咲いていた。不躾な質問にも快く応じてくれたS30Zのオーナー氏に改めて感謝したい。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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