オーナー自ら8年の歳月を掛けてレストア。一生モノの愛車、スバル レックス GSR(K21型)

クルマに限らず、どのようなモノでも、嫁ぎ先次第で、その後の運命が大きく変わることもある。

貴重なクルマになればなるほど、保管状態にも気を配るオーナーが多いと聞く。屋根付きのガレージはもちろんのこと、常時エアコンが作動するような環境で保管されるクルマも実在する。その反面、レンタカーやカーシェアリング用としての役目を担うことになったクルマは、必然的に酷使される運命にあるだろう。

今回は、幼少期から排気量360ccエンジンのクルマに魅せられ、ついにはオーナーとなり、自らレストアまで行ってしまったというオーナーを紹介したい。

「このクルマは、1973年式スバル・レックス GSR(K21型)です。手に入れてから15年くらい経ちます。現在、オドメーターは9.2万キロあたりを刻んでいます。そのうち、私が乗ったのは2万キロくらいでしょうか。元々は、部品取り車として購入したつもりだったんですが、気がつくと情が湧いてきてしまい、本格的なレストアを決意。自分なりに納得のいくコンディションに仕上がるまで8年も掛かってしまいました」。

スバル・レックス(以下、レックス)は、1972年にデビューを果たした、スバルにとって3代目の軽自動車にあたる。発売当初は2ドアのみだったが、翌1973年には4ドアモデルが追加された。ウェッジシェイプの外観を基調としたレックスのフロントマスクは、同社が前年に発売したレオーネの雰囲気も感じられる。

レックスのボディサイズは全長×全幅×全高:2995x1295x1255mm。オーナーの個体は「EK34型」と呼ばれる、排気量356cc、水冷2サイクルエンジンがリアに搭載され、キャブレターの仕様によって出力が異なる。シングルキャブレターは32馬力および35馬力が設定され、オーナーが所有する「GSR」のみツインキャブ仕様となり、最高出力は37馬力を誇る。ちなみに、車名のレックスはラテン語で「王様」という意味を持つ。

元々は、部品取り車として手に入れたというレックス、他に所有しているスバル車があるのだろうか?

「レックスがデビューする前のモデルにあたるR-2も所有しています。このレックスは、かつてタッチの差で買い逃してしまった個体そのものなんです。購入した方を知っていたので『とにかく売るときには声を掛けてください!』と頼んでいました。その後、私にとって2台目となるR-2を手に入れる機会に恵まれたところまでは良かったんですが、わずか半年後にこのレックスが売り出されまして…。ちょうど結婚して家族ができたタイミングでしたが、この機会を逃したら2度と手に入れられないという気がしていたので、何とか手に入れました」。

R-2(2003年に発売されたのは『R2』だ)の取材は別の機会に譲るとして、8年もの歳月を掛けてレストアするほど、このレックスに思い入れがあるということなのだろうか?

「この『GSR』というグレードは、排ガス規制が強化されようとしていた時期に発売されたため、とても短命なんです。レックスが発売されてから1年数ヶ月後にエンジンが2サイクルから4サイクルへと置き換えられ、そのタイミングで『GSR』も消滅してしまいました。そのため、当時の生産台数はもちろん、現存する個体はかなり少ないはずです。イベントに出掛けても、同型のクルマに出会うことがないんです。それだけ貴重な個体ですし、何より乗っていて楽しいんです」。

今でこそ、乗っていて楽しいと言えるようになったわけだが、オーナー自ら8年もの歳月を掛けたレストアについて伺ってみた。

「信じられないかもしれませんが、電装系の調子が今ひとつだったのか、はじめのうちは夜になるとまともに走れなかったんです。そこで、オルタネーターをオーバーホールしました。その他、足まわりやエンジンのオーバーホール、モディファイ等々…。劣化していたガスケットの製作や色褪せていたボディカラーの塗装はプロに塗り直してもらいましたが、一応、整備士免許を取得していますし、一通りの作業はできます。地道にレストアしていった結果『8年掛かってしまった』という表現が正しいかもしれません。仕事ではなく、敢えて趣味だからこそ、自分が納得できるコンディションになるまで徹底的に仕上げることができたんだと思います」。

いわゆる「旧車」オーナーに必ず伺っていることがある。部品の確保に関する問題だ。

「R-2を手に入れたときに苦労した経験が活かされているとはいえ、基本的にレックスの部品の入手はかなり大変です。インターネットオークションにも出品されることはほとんどありませんし。そうなると、心強いのは同じ趣味を持つ仲間の存在になってきます。情報交換をしたり、お互いの苦楽を共有したり…。いくらインターネットが発達した現代でも、一個人で得られる情報には限界があるように思いますし、最後は人と人とのつながりがモノをいう気がしています。旧車に興味がありつつも躊躇している方に『程度の良い個体、そして信頼できる主治医と巡り会うためには仲間の存在が不可欠』とお伝えしたいです」。

まさにオーナーの愛情とノウハウが惜しげなく注がれたレックス。このクルマの魅力について伺ってみた。

「『軽さ』と『デザイン』ですね。街中で運転しているだけで『走っている!』という手応えがあります。60km/hでも充分に速いと感じますし(笑)。それに、キャブレターのセッティング次第で、エンジンのコンディションが変わる点も魅力的ですね」。

最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「フルオリジナルにこだわらず、レストアしながら自分好みにモディファイしてみたり…と、まさしく『手塩に掛けたクルマ』です。このレックスは一生モノですよね。父親もクルマが好きで、スバル360に乗っていたこともありました。アルバムに当時の写真が残っていて、幼少期の頃の私も『かわいいクルマだな』と思った記憶があります。現在、私は48歳になりますが、まさか自分がこの年代のクルマを所有することになるとは夢にも思いませんでしたが…(笑)。実は、アメ車も好きで、自分なりにアメリカンテイストも取り入れています。これからも、このレックスのコンディションを維持するために、きちんとメンテナンスしていきたいですね」。

単にレストアといっても、さまざまな考え方やアプローチがあるだろう。生産されたメーカーに送り、ラインオフされた当時の状態にこだわってレストアする人もいれば、自分好みに仕上げていく手法もアリだ。また、現代の技術や部品を巧みに取り入れる「レストモッド」という考え方も定着しつつあるように思う。

レストアに対するスタンスやアプローチは異なるとしても「自分が手に入れた愛車を大切にする」という精神は同じではないだろうか?今まさにレストア中の個体、もしくはレストアに着手しようとしているクルマを所有・購入を検討しているとしたら…。このレックスのオーナーのように、本気で1台のクルマと向き合うことを願うばかりだ。手元にある個体は、世界のどこかの誰かがタッチの差で買い逃したクルマかもしれないし、夢にまで出てくるほど恋い焦がれている存在なのかもしれないのだから…。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]