今でも現役なKPスターレット/これからの展開が期待されるRC F
このスターレット軍団を見て魂を揺さぶられ、熱狂する多くの人は「オヤジ世代」だろう。
後述するレクサス・RC Fを人間に例えると、頻繁なジム通いで大柄ながらも引き締まったビジネスマンだとしたら、小柄なスターレット軍団は、やんちゃっぽさを残した少年のようだ。しかし、オヤジ世代ならば、このスターレット軍団にどうしようもなく惹かれてしまうのではないだろうか。
トヨタ・スターレット(KP61型)
トヨタ・KP61型スターレット、いわゆる「KP61」。最終モデルでも、気がつけば既に30年以上前のクルマだ。トヨタ・AE86型カローラ/スプリンター(以下、ハチロク)と、このKP61型スターレットが21世紀となった今もなお愛されている要素のひとつに、FR=後輪駆動車であることは間違いないだろう。また、後継モデルがFF=前輪駆動に置き換わった点も、ハチロクと同じだ。
ここに並んでいるKP61型スターレット軍団には、オーバーフェンダーが取り付けられ、エンジンはチューニングされ、背後に回るとステンレス製の排気管が鈍く輝いている。そして車内は内装が取り払われ、バケットシートと追加メーターが奢られ、ロールケージが張り巡らされている。そう、まさに「オヤジ世代の魂が震える」佇まいそのものなのだ。かつて自身の愛車にこの種の改造を施したことを思い出し、懐かしさがこみ上げてきた人もいるはずだ。
思い出してみてほしい。念願だった運転免許を取得し、人生初の愛車を手に入れた日のことを。
食費を切り詰め、睡眠時間を削り、仕事が終わると仲間たちといつものステージに繰り出し、連日連夜、明け方まで走り込む。そしてほぼ徹夜状態で仕事場へ…。ただただ、クルマで走ることが楽しくて仕方がなかったオヤジたちの青春時代。このスターレットたちを見るにつけ、当時の熱い想いが甦ってきた人もいるのではないだろうか。
仕事、家族、そして自分の将来。大人になるにつれて忘れていった、いや、忘れたフリをした人も多いだろう。きっと「忘れるしかなかった」のだ。それが大人の階段を登る、ということなのかもしれない。
エンジンに火が入り、地に轟くサウンドは、演出された現代のスーパーカーのそれよりもはるかに迫力があり、同時に官能的ですらある。まさに「奏でる」という表現がしっくりくる。
もはやクラシックカーの領域に足を踏み込んだと言って良いKP61型スターレットが、21世紀となった現代でもこうして快音を轟かせているのには理由がある。「このクルマでなければならない」と考える熱狂者たちが少なからず存在したからだ。
ポルシェ社は「クラシック部門」を設立し、かつて製造・販売したモデルのパーツを再生産しているという。また、ドイツ本国にポルシェを送り、大金を払うことでラインオフした状態にフルレストアすることも可能だ。そういった状況に比べれば、日本車の旧車と呼ばれるクルマたちの延命はたやすいことではない。年々、欠品パーツが増える一方だからだ。知恵と気合いと根性で乗り切る「スポ根」を地で行くしかない現状だと言える。そんな、並々ならぬ愛情が注ぎ込まれたクルマたちだからこそ、理屈抜きに人を惹きつけるオーラがあるのだ。
オヤジたちの青春時代のエピソードを、ぜひ身近な若い世代に伝えてほしい。職場の部下でも、飲み仲間の後輩でもいい。そして、日本には昭和の時代から「こんなカッコイイクルマがあったんだぜ!」と。この際、少々暑苦しいと思われてもいいではないか。10人に1人は、真剣に耳を傾けてくれる若者がいるに違いない。仮にそれが自身のご子息であれば最高だ。
「カッコイイクルマ」の定義は人それぞれだろう。それは否定しない。しかし、間違いなくこのKP61型スターレット軍団も「カッコイイクルマ」だと断言したい。それを幅広い世代に伝えたい。そう強く感じたのだ。
レクサス・RC F
2007年にレクサス・IS Fがデビューした当時、トヨタがこれほどまでに高性能でアグレッシブなクルマを送り出すのかと驚いた人は多かっただろう。エンジンの出力は400馬力オーバー。同時期に鮮烈なデビューを飾った日産・GT-Rの480馬力の影に隠れる形となってしまったが、長く続いた280馬力の自主規制を大幅に超える数値に、日本車が新たなステージに踏み込んだことを実感した人も少なくないはずだ。
比較されることの多いドイツ車勢が次々とエンジンをダウンサイジングターボ化する中、RC Fは自然吸気の大排気量エンジンをIS Fに続いて搭載している。ダウンサイジングターボには様々な利点はあるが、「サウンド」という面では排気経路に障害物を持たない自然吸気エンジンには敵わない。サウンドが与える官能さは、数値的な性能以上に感情へ訴えかけるものが大きく、ドライブ時には高揚感などを与えてくれる。RC Fはクロスプレーン型のクランクシャフトを採用したV8エンジンらしく図太いサウンドを奏でるのだが、回転を上げて変化する排気音は自然吸気らしく甲高い音に変化していく。
そしてRC Fに設定されているカーボンエクステリアパッケージに注目したい。ボンネットやルーフをカーボンファイバー製に置き換え、約10kgの軽量化を果たしている。ボディ同色ではなく、あえてカーボンの繊維を見せるためにクリア塗装仕上げとしているスタイルのルーツは、おそらく日本のチューニングシーンだろう。80年代よりコストをかけることができるレーシングカーから使用され始めたカーボンファイバーだが、2000年代にはボンネットなどの外板パーツをカーボン製にすることで軽量化させる行為が個人でも行われるようになっていった。
カーボン製のパーツは大変高価であるために憧れの的となった。また、スポーティーな印象を与えることができるため、クルマをチューニングする趣味を持つ者たちの間でカーボンボンネットなどのアイテムが人気になっていったのだ。現在ではインテリアの装飾としてカーボンを使うことも珍しいことではなくなった。「カーボンパーツ=カッコイイ」と認識されるようになったことがこのような変化を生んだのだ。
2000年には量産車として世界で初めてスカイライン GT-Rがカーボンファイバー製のボンネットを採用する。2010年にはポルシェ ・911 GT2 RSがカーボンボンネットを採用するのだが、日本のストリートのカルチャーに端を発した、あえてクリア塗装したカーボンボンネットを純正状態で採用している。
冒頭で紹介したスターレットのように、素のクルマのままでは満足することができない人が大勢いて、彼らはレーシングカーなどから着想を得て自分好みにクルマを仕上げていく。同じような趣味を持つ人と共鳴し合い、競い合うことでそのカルチャーは醸成されていった。今メーカーが送り出すクルマは、そのようなカルチャーをDNAに持つスタイルがあることを理解すると、もっと面白くクルマというものと接することができるのではないのだろうか。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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