はじめての愛車が今も愛車、セリカリフトバック1600GT。クルマ好き兄弟が歩んできた38年の軌跡
免許を取ってはじめての愛車を購入するとなると、ぶつけても惜しくない中古車から選ぶのが定石。そんな理由から18才の頃に、父親の知人のクルマ屋さんから1975年式のトヨタ・セリカリフトバック1600GT(TA27)を購入したという山本広光さん。
以来38年間、車検切れ状態での冬眠時期を挟みながらも手放すことなく所有し続け、現在も週末ドライブのお供として活躍している。弟の光幸さんは、そんな兄のカーライフに影響を受けてクルマ好きとなり、マツダ・コスモスポーツに乗り続けている。
若いころの自分なりのカスタマイズ
「このセリカLBを手に入れたのは本当に偶然なんですよね。はじめてのクルマだったので、父に連れられて中古車屋さんに行ったんですが、9年落ちで最後の2年車検が付いていた(注:昔は10年を超えると1年車検しか取得できなかった)ので、すぐに乗れるからって感じで決めたんですよ」
当時の若者にとってクルマは欠かせないツールでもあった。そのため、免許を取ったらまずは愛車を手に入れることが最優先であり、たまたま条件の良い中古車として手に入れたというのが、このセリカLBとの出会いだったようだ。
初代セリカといえばトヨタ初のスペシャリティカーとして1970年にデビューし、若者を中心に大ヒットを飛ばしたモデル。ボディスタイルは当初ハードトップのみだったが、1973年には山本さんが所有するLB(リフトバック)も登場。中でも1600GTは走りに特化した2T-Gエンジンを搭載したホットモデルで、今も名車として人気を集めている。
ホイールは当時の定番にして広光さんのお気に入りでもあるRSワタナベのエイトスポークを装着。13インチから15インチまでサイズを揃えて所有しているというほど、セリカLBには譲れないコーディネートの重要なポイントだという。
さらにドライブの必需品ともいえる音楽を聴くためのオーディオ機器はというと、10代の頃にコンソール下に仕込んだカセットデッキがそのまま残されていた。また手前に写っている金属棒は、後期フェンダーに交換した際に取り付けられなかったロッドアンテナ。カセットを使用しない今となってはラジオを聴くための必需品として役立っているのだとか。
ドア下の純正モールはスライド式で脱着する形状なのだが、それを知らなかった時に強引に外してしまい、タッピングビスを打ち込んで固定されている。
「今思えばなんでこんなことしちゃったんだろうって後悔もしますが、当時の自分はこれくらいの知識しかなかったんですよね。でもそんな自分が今も乗り続けられるくらい、いろいろ学ばせてくれて、成長させてくれた愛車だという証でもあるんですよ」
エンジンはDHOC 8バルブの1600㏄にソレックス製ツインキャブレターを装着した2T-Gを搭載。エアクリーナーは純正のままで、その他の部分も車検でひっかからない最小限のモデファイをおこなっている程度だという。いっぽうで、若気の至りで装着したヤンキーホーンの名残ともいえるステーなども残されていた。
今でこそ名車と言われる存在となったセリカLBだけれど、当時は数ある中古車の中の1台でしかなく、若者らしい自分好みのカスタマイズや失敗の痕跡なども長年所有し続けてきた歴史の一部であり、それらすべてが愛車とともに歩んだ軌跡といえる。
ピカピカの状態にレストアするのではなく、そんな痕跡すら「年式相応の持ち味」として楽しみながら乗り続けるのが、広光さんのスタンスなのだ。
10代のとき、ワインディングを走っていてぶつけてしまい、近所の板金屋さんのお世話になったそうだ。板金屋さんとの出会いが、その後のカーライフ、ひいては山本兄弟を旧車の世界に導く運命的なものとなったのだという。
「修理をお願いした鈑金屋さんの社長が熱烈なスバル360マニアだったんですよ。スバル360は1950年代から生産されていたクルマなので当時すでに旧車だったんですが、レストアしたスバル360や作業中のクルマが並ぶ姿を見ていたら感化されちゃったんですよね。もともと若い頃なのでいろんなクルマに乗りたいって思っていた時期だったし、そんな時に旧車っていう新しい刺激を受けちゃったんです」
もちろんセリカはファーストカーとして大切に乗りながら、新たに3万円で譲ってもらったスバル360のレストアを自宅で開始した兄の広光さん。その姿を見ていた弟の光幸さんが、旧車に興味を持ちはじめるの当然の流れだったといえるだろう。
ちなみに、弟の光幸さんが免許を取ってすぐに兄のセリカLBを転したとき、「パワーがあるクルマだな」と感じたという。でも『ちょっとしたスポーツカー』くらいの感覚だったのだとか。
ツーリングに目覚める
そんな弟の光幸さんも社会人になり、愛車購入を考えはじめた。当初は240Z(S30型)を狙っていたそうだ。しかし、兄の広光さんから初期型のコスモスポーツを紹介され即決。
ちなみにこのコスモスポーツは、兄の広光さんがスバル360を介して仲良くなったカフェのマスターから紹介されたそうだ。しかし、自分はすでにセリカLBとスバル360を所有していたため増車は不可能と考え、弟の光幸さんにバトンを託すことにしたのだという。
当時は仕事の都合で横浜に住んでいたため、兄の広光さんが岩手県から自走で横浜まで運んで届けたそうだ。
いっぽう、スバル360をキッカケにいろいろなクルマに興味を持ち始めた兄の広光さんは、セリカLBを休眠させ、910型ブルーバードなど様々なクルマを乗り継いでいった。
もちろんセリカLBの復活も考えていたが、仕事の都合などもありなかなか実現には至らなかったという。そんな足踏み状態を打破するきっかけを作ってくれたのが弟の光幸さんだ。
弟の光幸さんが、2007年に初開催されたラリーイベント『ツール・ド・みちのく』に、コスモスポーツで出場した。そのようすを兄の広光さんにメールで逐一報告。イベントがあまりにも楽しそうだったことから、広光さんもいつかセリカLBで出場してみたいと思ったそうだ。
翌年2008年には弟の光幸さんが運転するコスモスポーツの助手席に乗って出場し、2009年は知人のシティカブリオレで出場。最終的にはツール・ド・みちのくの運営スタッフとして携わるようになり、2017年にはセリカLBを路上復帰させ念願の出場を果たしたのだ。
「弟に『ツール・ド・みちのく』の楽しさを教わっていなかったら、今もセリカLBは動いていなかったかもしれません。走らせる楽しみを教えてくれて、復活へのきっかけを作ってくれた弟には本当に感謝していますね。2008年はコスモスポーツのナビゲーターでしたが、次はセリカLBのナビゲーターとして弟を乗せて出場してみたいなって思っていますよ」
取材の日、セリカLBのコンディションはすこぶる良好。ボディに関しては1度塗り直しているとはいうが、フェンダーアーチ部などの腐りもなく所々にタッチペン跡がある程度。内装もダッシュボードの変形や割れはなく、トランクのトノカバーも完全品が備わっている。過去にルーフライニングの張り替えもおこなっており、ドア内張は解体屋さんで入手したビニール付きの極上品に交換されている。
旧車オーナーの定番でもある新車カタログなどもコレクションし、さらにこれからも乗り続けていくために部品取り車も2台ストックしているという。
今後の目標は、走れる状態をキープすること。
週末早朝に恒例となっている、光幸さんのコスモスポーツとのショートツーリングを楽しみながら、セリカLBの止まっていた時間を取り戻していきたいという。フロントガラスには、眠りについた時点の車検ステッカーが残されている。セリカLBを眠らせていた空白の期間を忘れないための“戒め”の意味も込められているのかもしれない。
兄弟の絆をより強くする兄のセリカLBと弟のコスモスポーツ。同じ趣味を持つ兄弟の旧車ライフは、いよいよ佳境に入っていく。
取材協力:盛岡競馬場(OROパーク)
(⽂: 渡辺大輔 / 撮影: 金子信敏)
[GAZOO編集部]
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