90年代に若者を虜にした『サイバー・スポーツ』は、令和でも若者の相棒であり続けるのか? 24才CR-Xオーナーのリアル。
シビックの姉妹車であるバラードから派生したモデルとして『FFライトウェイトスポーツ』という新ジャンルを切り開いたホンダ・CR-X。
その2代目にあたるEF型は、シビックよりもホイールベースが短い3ドアクーペボディとして、リヤがスパッと切り取られたようなスポーティなデザインや、1トンを切る軽量なボディがもたらす俊敏で高い旋回性能によって、当時の走り好きな若者たちを虜にした車種である。
この軽快マシンを相棒に峠やサーキットを走りまわっていたという元オーナーも少なくないのではないだろうか。
そんな1988年式のホンダ・CR-X Si(EF7型)に対して、オーナーである伊藤洸太郎さんは1997年生まれ。約10年もクルマのほうが年上という関係になるのだが、「当時からタイムスリップしてきたようなクルマに仕上げてあります」と自身の愛車のこだわりを話してくれた。
そう聞くと“珍しい旧車に憧れる若者”というイメージを勝手に抱いてしまいがちだが、伊藤さん にとってCR-Xは憧れの1台というよりも、幼少期に身近にあった存在なのだという。
「父がホンダの整備士だった関係で、ずっとわが家のクルマはホンダ車ばかりで、自分が幼稚園児のころに父親が乗っていたのがこの型のCR-Xでした」
伊藤さんが成長して免許を取得した18才のころには家庭のクルマはホンダ・N-BOXとなっていて、自身が初めての愛車を手に入れたのは、専門学校を卒業して就職した20才のときだった。
「途中で親がS2000に乗り換えたりするタイミングもあったんです。ホンダといえばNAのVTECという印象が強いと思うんですが、父のおかげでそれは当時味わうことができました。
そして、逆に物心が付く前にしか経験できなかった、CR-Xに載っていたVTECじゃないZCってどんなエンジンなんだろう? という興味が湧いて、自分もCR-Xに乗ってみたいと思うようになったんです」
同時期に発売されていた『グランドシビック』と比較して200mmも短いホイールベース長。前後ともディスクブレーキを採用し、サスペンションは独立懸架のダブルウィッシュボーン。乗車定員の4人乗りとは名ばかりとも言える申し訳程度の後部座席を備え、重量は1トンを切るという徹底した軽量ボディ。
そんなピュアスポーツとも言える車体が新車価格150万円ほどで販売されていたというのだから、思わず「羨ましい」という言葉が漏れてしまう。
しかも、後期モデルの最上級グレード『SiR』には、160psを発揮するVTECエンジン『B16A』が搭載されるというトピックスも与えられたのだ。
思い返せば、CR-Xという車種が新型車として発売されていた当時のキャッチコピーは、若者の流行を意識したと言われる『サイバー・スポーツ』。当然、おもなユーザーとして想定されていたのは伊藤さんのような20代を中心とした年代の若者たちだったことは疑いの余地がない事実だろう。
そんな当時と事情が異なるのは、20年以上の歳月が経過したこと、そしてCR-Xの中古車価格の推移かもしれない。
当時の尖った設計思想によってそれぞれが強いアイデンティティを持つホンダ製スポーツカーたちは、旧来からのホンダファンはもちろん、伊藤さんのような若者世代からも人気を集め、軒並み価格が高騰。いまでは新車価格以上の値段で取引されることも珍しくはないほどだ。
そうした環境のなか、伊藤さんが愛車となるCR-Xを手に入れたのはネットオークションを通じた個人売買だったという。
「ちょうど良いタイミングでZC型のエンジンを積んだCR-Xが売りに出されていて、価格もかなり手頃だったんです。ただ、写真が3枚しか載っていない上に、外装が見るからにヤレているなという印象でした」と、状態のわからない中古車に不安を感じた伊藤さん。
しかし、整備士として経験の深い父のとある助言を聞き、この個体の購入を決意したという。
「『外装よりも内装をチェックすれば、クルマがどのように乗られていたのかある程度分かるはず』と言われ、改めて見てみると意外としっかりしていたんです。加えて外装のオプションパーツも装備されていたことも大きな魅力でした」
そうして多少の不安も抱えつつCR-Xを相棒に迎え入れた伊藤さん。
走行距離10万キロで車検が1年ぶん残っていたという状態から継続車検を取得。所有してから4年目となる現在までトラブルもなく乗り続けられているというから、その決断は大成功だったと言えそうだ。
ちなみに、現在の走行距離は19万キロに達しているという。
伊藤さんにとってこのCR-Xは、休日の癒やしのような存在とのこと。日々の疲れから開放されるために長距離ドライブに出かけることもあれば、行った先々で気に入った風景の写真を撮ることも趣味のひとつ。
CR-Xオーナーとなって1年ほど経ってからは、スマホでは味わえない撮影の充実感を得るためにデジタル一眼レフカメラを購入し、CR-Xとの写真がアルバムに加わるようになっていったそうだ。
そして、そんな楽しみを更に増していくための伊藤さんとならではのこだわりが、CR-Xが販売されていた当時物のパーツを集め、実際に装着していくことだという。
なかでもお気に入りなのが、ホンダと馴染み深いアフターパーツブランドの『無限』から発売されていたCF-48というホイールだ。ブレーキを冷却するための放熱フィンを模した特徴的なディスクデザインが採用されたスポーツモデルで、貴重な後付けディスクカバーも所有している。
そのホイールを手に入れられたのには「たまたま立ち寄ったカー用品店の店長さんがCR-Xオーナーで、好意で安く譲ってくれた」という経緯があったとのこと。
その裏側には、伊藤さんに自分の若い頃の姿を重ねて応援したくなる気持ちがどこかにあったのかもしれないと想像してしまう。
また、それに合わせるタイヤはヨコハマタイヤから旧車向けの復刻モデルとして販売されているADVAN HF Type Dの14インチ。このトレッドパターンを見て懐かしさを感じる方も少なくないはずだ。
そして、無限製のホイールにこだわりがあるように、CR-Xを購入する段階では「エアロパーツも無限で揃えたルックスにしたい」と思っていたという伊藤さん。
しかし、購入した車体にはフロントリップを中心とした純正オプションパーツが揃えられていたため、カスタムの方針を転換。無限製リヤウイング以外のバンパーカバーやミラーカバーなどは、オプションパーツを中古で手に入れ揃えていったという。
そして、これも当時の流行だったカバー付きのFET製フォグランプを装着し、エクステリアのアクセントとしている。
機関系についても白いインテークが特徴の定番アイテム、フィールズ(ホンダツインカム)製エアクリーナーを装着。
また、クラッチメンテナンスの際に戸田レーシング製の軽量フライホイールに交換することで吹け上がりの良さをアップさせている。
外側からはブロンズカラーに見えるルーフは室内から開放感ある天井を見渡せるオプション装備『グラストップルーフ』。こちらはもちろん購入時からのものだというが、これだけ日光が入りやすい車体にも関わらず、購入の決め手にもなった室内の美しさは驚きのもの。
「シートカバーも購入時から付いていたんですが、これもかなりレアな純正品だそうです」と伊藤さん。その下にはまったく劣化のない純正オプションシートが備わっているというから、取り外したくない気持ちが理解できるのもなおさらだ。
まもなく走行距離は20万キロの大台を迎えることもあり、早くも目標は30万キロまで無事に乗り続けることなのだと話してくれた伊藤さん。そのために、もはや趣味ともいえる純正オプションパーツ収集のついでに、補修用のパーツ集めも並行して進めているとのこと。
若者といっしょに青春を駆け抜け、思い出を積み上げいく相棒というポジション。昭和、平成、令和と時代が移り変わっても、CR-Xとそのオーナーが関わり合う姿は変わらないようだ。
取材協力:万代テラス
(⽂:長谷川実路/ 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]
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