自分らしく、そして周りの人もハッピーなクルマとの付き合い方を大好きなGT-Rで実現
GT-Rという言葉を聞いて、あなたは何を想起するだろうか?70年代に国内のレースで49連勝という記録を作ったハコスカ GT-Rという人もいれば、グループAレースで圧倒的な強さを誇ったR32型スカイライン GT-Rかもしれない。はたまたドイツのニュルブルクリンクで量産車として最速ラップを刻んでいた現在のGT-Rだろうか。
マツダ・ファミリア GTRやランボルギーニ・ディアブロ GTRなどを挙げる人もいるはずだが、これは少数派だろう。その多くは日産の送り出した歴代のGT-Rを思い浮かべるはずだ。そしてGT-Rという言葉に付随するイメージは圧倒的な強さだろう。
海外ではGODZILLA(ゴジラ)の愛称で呼ばれており、その認識はもはや世界共通と言っていい。世界に日産のGT-Rの認知が広まっていったのは、ゲームやワイルド・スピードといった映画の影響が大きく、今や海外のカスタムカーメディアでも頻繁に日産・GT-Rの姿を確認することができる。基本的には右ハンドル車の運転を禁じているアメリカでは、生産から25年が経つと正規輸入されなかった自動車も走行できるようになるという法律がある。そのため89年から生産が開始された日産・R32型のスカイライン GT-Rがアメリカへ輸出されるようになり、結果として日本での中古車の相場は上昇している。それだけの価値があると認められている証拠でもあるが、日本人からすると海外への流出、価格の上昇などの状況は喜ばしいことではなく、複雑な感情を抱いている人も少なくないはずだ。
ただし、日本のクルマがこれだけ多くのファンを世界中に増殖させているという事実は、日本人として大きな誇りだと感じている。
レースフィールドのみならず、ストリートのシーンでも絶対的な速さを見せつけ、チューニングカーのベースとしても最高の素材である日産・GT-R。それもそのはず、エンジンはレースにそのまま使えるようにした丈夫なもので、過激なチューニングにも耐えることができるし、4輪駆動システムは大パワーを効率よく路面に伝えることができる優れたトラクション性能も有している。
日産・GT-Rが90年代のチューニングカルチャーにおいて最も重要な存在であったことは言うまでもないのだが、当時と比較して現在のチューニング/カスタムの様式は変化している。現代流のカスタムを施したのが、今回紹介するこの日産・R32型のスカイライン GT-Rだ。
現在のチューニングシーンでよく使われる「スタンス」や「ヘラフラッシュ」という言葉がある。いずれも大径のホイールを収め、ホイールハウスの隙間を埋めるために車高を落としたスタイルで、世界的な潮流となっている。このスタイルが広まった背後には「Fatlace」というアメリカのアパレル系セレクトショップの存在があり、クルマとファッションの融合したスタイルが若年層に人気となっている。このスタイルの系譜をたどれば日本のシャコタンツライチに行き当たり、そこに外国人の解釈を加えたものが「スタンス」や「ヘラフラッシュ」と言えるだろう。
そんな海外のクルマに影響を受け、バッチリ決まった車高とホイールがとてもカッコ良い。ホイールはエンケイのRS05RRをチョイス。11Jという、R32に使用するにはワイドなサイズだが、フェンダーの爪折りをせずに綺麗に収めているのがこだわりのポイント。タイヤはトレッドパターンの好みやサイドウォールの硬さを考えた結果、トーヨータイヤのPRXES R1Rを組み合わせている。調整式のアームを活用すれば自由度が利き太いタイヤも収められるところを、あえて純正のアームのままにしているという点もオーナー氏のこだわりだ。ステアリングは先述した「Fatlace」が取り扱うブランドのILLESTが、イタリアの名門ステアリングメーカーMOMOとコラボレーションした限定300個のステアリングだ。NISMOの旧ロゴがペイントされたインタークーラーや、N1用の角目ライトは旧来からの通を唸らせるモディファイだろう。
以前オーナー氏はホワイトのボディカラーに塗られた今と同じ日産・R32型のスカイライン GT-Rを所有していて、サーキット走行などを楽しんでいた。GT-Rのイメージとしても走りを楽しむという概念が強くあり、足回りに手を加え、後部座席を取り払いつつも、外観はほぼノーマルで乗っていたそうだ。しかし、クルマに負担をかけていることに気づき、世界に目を向けるようになった。多様なカスタムの方向性の存在を知ったのもその頃だという。
後に人生で初めてホイールを購入し、交換することで、クルマのイメージが大きく変化することを改めて認識したという。速く走ることを主眼目としていた頃は、過度なシャコタンツライチに対して、カッコ良いとは思いつつも敬遠していたそうだ。しかし、いざハマってしまうと、その方向へどんどんのめり込んでいった。やがてさまざまな人に声をかけられるようになり、人との出会いや交流に楽しさを見出し、イベントにも参加するようになる。クルマも、より車高を落とすなど手を加えていくのだが、やればやるほど乗りづらくなってしまうジレンマも同時に抱えるようになった。
あるときエンジンがかからなくなってしまい、修理するかどうか悩んでいる時に出会ったのが、このガンメタリックに塗られた日産・スカイライン GT-Rだったのだ。父親から失敗しないクルマとの付き合い方のアドバイス、そして何よりも大きかったのが彼女の考えだった。彼女は普通に乗れるクルマを望んでいたのだ。以前所有していたホワイトのGT-Rはエアコンも使える状態ではなく、とても隣に人を乗せられるクルマではなかった。そしてこのガンメタのGT-Rでは彼女の考えを尊重しながらも、自分の個性を主張できる仕様となったのだ。このGT-Rとは長く付き合い、どこにでも行くことができて、ともに思い出を刻んでいきたいというのが今のオーナー氏の考え方だ。
何かを犠牲にしてまで、自分のエゴを貫き通すことは必ずしも正解ではない。過激で時間と労力を惜しまずにクルマを仕上げることが礼賛されることが多いが、自分のライフスタイルに合うようにクルマを仕上げていく。そんなクルマとの付き合い方もとても素敵ではないかと感じている。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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