斬新スタイルに魅せられ免許取得前に入手。趣味にまで影響を与えた日産・エクサ(KEN13)
1980年代から1990年代のネオクラシックと呼ばれる日本車の中には、チャレンジ精神に溢れた意欲的なモデルが数多く存在する。なかでも日産はBe-1やパオといったパイクカーを中心に、個性あふれるモデルで世のクルマ好きたちを沸かせてくれた。そんな日産車の中でも異色の存在として登場したのがEXA(エクサ)だ。
クーペともステーションワゴンとも呼べない『キャノピー』と名付けられた3ドアデザインは、今でこそ“シューティングブレーク”というジャンルとして確立されているものの、当時はまさに時代の先駆け。同年代にホンダ・アコードエアロデッキやボルボ・480ターボなども存在するが、遊び心を強調した装備などはエクサが一歩リードしていたといえるのではないだろうか。
そんなエクサを、免許を取得してはじめての愛車として選んだのは、現在大学生の新田宗一郎さんだ。
パルサーエクサとして1982年にデビューした初代モデルに続き、1986年に独立して登場したエクサ。デザインを担当したのは北米にある日産デザインインターナショナルで、リトラクタブルヘッドランプやTバールーフ、スリットデザインのテールランプ、さらに北米仕様ではリアのキャノピーとクーペパネルが交換できる(日本仕様は交換不可)モジュラー構造の採用など、遊び心がたっぷり詰まったモデルだ。
そんなエクサを新田さんがはじめて目にしたのは中学3年生の頃。
「はじめて見たときは『何だこの変なクルマは?』と思っちゃったんですよ。当時はソアラとかレパード、セドグロといった80年代のスペシャリティカーに興味があったので、クセが強過ぎたエクサにはまったく興味が湧かなかったんです。でも高校3年生になって免許が取れる年齢に近づいたとき、再びエクサを見たら心に刺さっちゃったんです」
クルマ好きの父親の影響もあり、幼い頃からクルマに憧れていた新田さん。もちろん80年代のスペシャリティカーも大好物なのだが、独特な雰囲気をまとうエクサがどうしても頭から離れなくなってしまったのだという。
地元で行われるイベントなどにも通うようになり、そこで実際にエクサを見かけたこと、そしてある人と出会ったことがその後の大きな転機となった。
「イベント会場でエクサのオーナーズクラブ会長さんに話しかけてみると、いろいろ教えてくれるようになったんです。その時は免許がなかったんですが『免許を取ったらエクサに乗りたい』と相談したら、ちょうどクラブの方が手放すということで紹介してくれたのがこのエクサなんです。学校の勉強などいろいろあってすぐには免許が取れなかったんですが、免許を取るまでの2年の間に父と一緒にいろいろ直して絶好調に仕上げちゃいました」
こうして1990年式のエクサ SE(KEN13)とのカーライフをスタートさせた新田さん。
免許を取得してからはエクサに乗るのが楽しくて仕方なく、雪が降る11月から2月までの時期は乗らないようにしているにもかかわらず、乗りはじめて2年が経過した段階で5万キロほど走行距離を伸ばしたという。まだ学生のため、ガソリン代はバイトで稼いで捻出しているものの、月のガソリン代が5〜6万円ほどかかってしまっているのは悩みどころなんだとか。
「連休があると青森の大間や竜飛岬、関東方向では大黒パーキングなど、あてもなく走ってしまいます。車内にいると何だか落ち着いちゃって、バイト明けに気がついたら海にいたなんてこともありました」
デザインが心に刺さったことがキッカケで購入したエクサだったが、乗りはじめてみるとインテリアの雰囲気や当時のクルマならではのニオイなども改めて好きになっていったという。
なかでもお気に入りのポイントが、さりげなく『NISSAN』の刻印が施されているリトラクタブルヘッドライト。
「セドリックとかも好きなんですが、エクサの威張ってない感じもまたいいんですよね。主張が強すぎるデザインはあまり好みじゃないので、スタイリングはノーマルのままキープして、オーディオなんかも当時の雰囲気で楽しんでいきたいなって思っているんですよ」
エクサの特徴といえば時代を先取ったボディ形状。そして、まるでカスタマイズが加えられたかのようなスリットデザインのテールランプは「これもエクサの特徴だと思うんですが、知らない人からするとカスタマイズしているように見られるんです。笑い話じゃないんですが、過去に警察官に止められてテールランプカバーを外せって言われちゃって…これが純正なんですってスマホで画像検索しながら説明しました」と、こんなトラブルも希少なレア車に乗っているからこそ経験できることなのかもしれない。
搭載するエンジンは120psを発揮するCA16DE。乗りはじめてすぐの頃には、ガソリンタンク内が錆びていたためストレーナーが詰まってしまいエンジンストップを経験。さらに夜の峠道で電装系がダウンして立ち往生したこともあるというが、消耗品などをすべて交換してこれらのトラブルを解消。現在は絶好調をキープし、デイリードライブにも心配なく活用できるまで整備されているのだ。
ホイールはエクサ純正のアルミホイールを探してセット。「実はこの撮影の前の週にほかのクルマに突っ込まれちゃって。フェンダーとバンパーが凹んでしまったんですが、撮影があるからと急遽知人に相談して修理をしたんですよ。ボディパーツなんかは新品が出てこないので、オーナーズクラブを介した友人作りは、乗り続けるための絶対条件って感じです」
もはや純正パーツがほとんどなくなってしまっているため、オリジナルで乗り続けるためには様々な苦労があるというわけだ。
エクサオーナーズクラブ会長との縁は今も続いていて、もちろん新田さん自身もオーナーズクラブに入会している。最近は所属台数も減ってきてしまい、さらに世代交代のタイミングにも差し掛かっているそうで、エクサを乗り続けていこうと考えている新田さんにとって、コミュニティの存続は死活問題にもなりかねない近々の関心事でもあるという。
純正オプションとして用意されていたフォグランプは、電動でリッドが開閉する当時のハイテクパーツ。このクルマを購入した時には装着されていなかったが、高校生の頃に乗っていたロードバイクを売ったお金で購入したという思い入れのあるアイテムだ。ちなみに購入時は片側が動かなかったのだが、修理を行なって完動品へと仕上げ済み。細かいパーツのリペアも自ら行うことで、コストを抑えて理想に近づけているというわけだ。
マニアックなネオクラシックながらも、コンセプトはデートカー。ひとりでドライブに出かけるだけでなく、彼女とのデートでも活用しているという。もちろん彼女もこの個性的なエクサがお気に入りの様子で乗り心地も大満足とのことだ。
インパネ周りも90年代当時の日産車らしく、ランプ類やワイパーなどはスイッチ式が採用される。前オーナーの保管状態が良かったこともあり、インパネの歪みや割れなどもなくコンディションは良好。純正のレザーステアリングやシフトノブを使い続けているのもオリジナル志向だからこそ。
スピーカーは交換しているものの、ドア内張なども純正がキレイに残されているのも愛情の表れ。特徴的なエアコン吹き出し口(リトラクタブルベンチレーター)は送風によって開閉するエクサならではのアイテム。こういったギミックは、当時のアイデアを知ることができて新鮮な印象を受けるという。遊び心が随所に施されているエクサは、カタチだけでなくその設計思想でも新田さんの心を鷲掴みしているというわけだ。
ちなみにエクサのリアスピーカーはテールランプに合わせたスリットデザインのカバーが装着されている。スピーカー交換を行なったとしても、このデザインをキープすることは絶対の条件なのだ。
また、クルマへの興味から派生したという音楽の好みも80年代アイドルがドストライク。特に中森明菜の熱烈なファンになりCDを集めるのはもちろん、先日地上波で放送された1989年のスペシャルライブもしっかりとチェックしたんだとか。
また、ガソリン代節約のために手にいれたバイクもホンダ・VT250というから筋金入りだ。
「VT250は薬師丸ひろ子の探偵物語に出ていたのを見て選んじゃいました。乗ってみると燃費もよくて壊れないので、エクサの次にお気に入りなんですよ」
1990年代に流行したイコライザー付きのMDデッキが壊れてしまい、現在はスマホを接続して音楽を楽しんでいるが、ゆくゆくはイコライザー付きのCD&MDデッキを手にいれて、中森明菜の歌声を聴きながらドライブを楽しみたいという。
免許を取得する前に手にいれたエクサは、クルマ好きな父親によって新田さんが乗り始める前にコンディションチェックやリペア箇所の洗い出しが行われたという。現在、絶好調をキープできているのは、そんな父のサポートもひと役買っていることは間違いない。
また、オーナーズクラブを介して広がった仲間や旧車オーナーからも乗り続けていくためのノウハウを伝授してもらいながら知識も蓄えているという。
こうした人との繋がりを大切にすることは、新田さんがエクサに乗り続けていくために必要な条件のひとつなのだそうだ。
「走らせることでダメな箇所を見つけて直すことはこれからも続けていきます。そのため毎月100kmは必ず走らせるようにして、これからもエクサに乗り続けていきたいですね」
このクルマを譲ってくれた前オーナーさんの思いも受け継ぎ、新田さんとエクサはこれからも走り続ける。
取材協力:盛岡競馬場(OROパーク)
(文:渡辺大輔 / 撮影:金子信敏)
[GAZOO編集部]
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