生産から33年。今もオリジナルコンディションを保つ愛車を息子へ託したい。スバル・レオーネ

近年のスバル車といえば、レガシィやインプレッサ、レヴォーグのイメージが強いかもしれない。今は絶版となってしまったが、かつてスバルにはレオーネというモデルが存在していた。おそらく、アラフィフ世代以上には懐かしい響きだろう。

初代レオーネは1971年に登場し、その後、3代にわたりモデルチェンジを重ねた。4ドアセダンはもちろんのこと、2ドアハードトップ、バンなど、さまざまなバリエーションが存在するのも特徴のひとつだ。今では当たり前となった「4WDモデルのAT車」も、レオーネが先駆けとなっているのだ。またレガシィの代名詞となった「ツーリングワゴン」も、レオーネの時代から存在していた。つまり、レオーネはレガシィのルーツにあたるモデルなのである。

このレオーネは、2代目にあたる「RX 4WD」というモデルだ。オーナー氏は運転免許取得後、当時人気を博した通称「ワンターシビック」のSiモデルを皮切りに、VW・ゴルフやアルファ ロメオ・155、ボルボ・V70、スバル・レガシィ ツーリングワゴン(4代目)を乗り継ぎ、このレオーネを手に入れた。

このモデルは、ラリーなどのモータースポーツ用競技車にあたる。後のレガシィRS-RA(初代)やインプレッサ WRXの血統に近いかもしれない。排気量は1.8L。水平対向4気筒水冷4サイクルエンジンは、このモデル専用のEA81S型が搭載されている。通常のEA81型エンジンの最高出力が100馬力であるのに対して、EA81S型は110馬力となる。当時、燃料噴射はインジェクションが主流になりつつあったが、この時代のレオーネはキャブレターだった。また、5MTが増えつつあったトランスミッションも4MTだ。当時レオーネを選んだユーザーは4WD車であることに価値を見出したのかもしれない。受注生産の競技用ベース車両という性格上、改造されてラリーなどのレースで酷使された個体が多く、現存する個体は極めて少ない。

現在50代前半のオーナー氏にとって、レオーネはそれほど気になる存在ではなかったという。若いころ、父親が所有していた日産・ブルーバード(6代目)を運転していたとき、背後からハイペースで走るクルマに追い越された。追い掛けようとしても差が縮まらない。そのクルマこそ、今回手に入れたレオーネだったのだ。

当時の愛車だったレガシィ ツーリングワゴン(4代目)を所有していたとき、インターネットでレオーネを検索してみたところ、岐阜県で売り物を発見。それは、若いころに自身が運転していた父親のブルーバードを抜き去ったレオーネそのものだった。奇しくもボディカラーまで同じだったという。すぐさまレガシィで現車確認に向かったが、即決はしなかった。その後、数ヶ月間悩んだ末、やはり購入を決意。納車の際は、住まいである東京から、旅行を兼ねて家族で岐阜のショップまでレオーネを迎えに行った。

現在は所有して6年目となったオーナー氏にとって初の旧車となるレオーネ。このクルマに関する情報が圧倒的に少ない。そこでスバルレオーネオーナーズクラブに入会することにした。偶然だが、近所に歴代レオーネオーナーが住んでいることが分かり、親交を深めていった。取材当日も、クラブの仲間たちが駆けつけてくれた。あっという間に即席のオフ会となる。レオーネを介してクラブの仲間たちと楽しそうに談笑する姿を見ていると、オーナー氏の人柄とメンバーとの絆の深さを垣間見たような気がする。

生産から33年経過したこのレオーネだが、オドメーターが刻んだ距離は、取材時点で62,878キロ。おそらくは現オーナーで4代目とのことだが、驚くべきことに塗装も当時のまま。ボディの錆もごくわずかだ。内装の状態も極めて良好であり、生産時に貼られたであろうステッカー類もあまり色褪せていない。歴代のオーナーに大切に扱われ、ガレージに保管されていなければここまでのコンディションを維持するのは不可能に近い。現オーナーの話によると、ファーストオーナーは北海道在住で、4WD車であるこのレオーネを購入したにも関わらず、冬場はガレージで保管されていたようだ、とのことだ。

レオーネを購入してから付き合いのある主治医も自宅近くとのことで、ディストリビュータやラジエーターのオーバーホールにもきちんと対応してくれた。電動ファンが壊れたときもディーラーでは欠品と言われてしまったが、主治医に相談したところ、整備や修理部品のアレンジも行ってくれる頼りになる存在だ。購入した当初は壊れていたエアコンも修理し、日常の足としても使えるようになった。都内の狭い道でもすいすい走れるレオーネが気に入ったオーナー氏は、レガシィ ツーリングワゴンを手放し、いまはこのクルマ1台体制である。買い物や家族との移動もこのレオーネが相棒なのだ。

多くの国産旧車オーナーが直面している部品の確保はレオーネとて例外ではない。日本国内のインターネットオークションでは数が限られるため、海外にeBayに活路を見出している。日本車でありながら、海外に渡ったクルマたちの部品を頼らざるを得ない皮肉な現状がここにもある。

オーナー氏には高校3年生になるご子息がいる。1日でも早く運転免許を取得したい…と思いきや、クルマにはまったく興味がないそうだ。父親がクルマ雑誌を読んでいたり、テレビ番組を観ていても「スルー状態」だという。近所でも、レンタカーやカーシェアリングを活用する動きが加速しているそうだ。そんな折、オーナー氏は若い頃に遭遇したレオーネと同じ仕様のモデルを手に入れ、できる限りオリジナルコンディションにこだわり、カタログに掲載された雰囲気に近づけたいと日々奮闘している。現在はENKEI製のホイールに交換されているが、もちろんオリジナルもガレージに保管している。

このレオーネにはパワーステアリングが装着されていない。いつかオーナー氏にも肉体的な限界が訪れ、レオーネの走りを楽しめなくなるときが訪れるだろう。そうなったら、ご子息にこの愛車を乗り継いで欲しいと密かに考えているそうだ。このレオーネは、偶然と幸運を重ねて奇跡のコンディションを維持している。いつかご子息が父親の意思を引き継ぎ、このレオーネを受け継ぐ「奇跡」が起こることを願ってやまない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]