20代オーナーが駆る5バルブエンジン搭載の正統派トレノ

1983年に誕生したトヨタ・AE86型スプリンタートレノだが、30年以上が経過した今もなお、その人気は陰りを見せることがない。現在は10年前、20年前とは異なるチューニングの手法やトレンドが生まれたこともあり、クルマの多様性は過去と比較しても大きく変化しているのではないだろうか。

今回紹介するのは、20代前半のオーナーが所有するスプリンタートレノだ。彼は尊敬する土屋圭市氏から多大な影響を受けており、マシン作りに関しても随所にその拘りを感じることができる。オーナー氏は小学校の頃からAE86のトレノに虜となっていて、それを自在に操ることで新たなドライビングスタイルを確立させた土屋圭市氏も、当時から憧れの存在だったそうだ。

このトレノは、最近流行りのスタイルではなく、正統派を貫いているように感じられる。エアロパーツなどはトヨタ純正品やTRD製のものを使用しているが、細かい部分には新しいマテリアルや技術が盛り込まれている。その面影は、まるで80年代や90年代からそのままタイムスリップしてきたかのような雰囲気を醸し出している。

ホイールは購入した当時、土屋圭市氏がデザインしたSSR製「ドリドリメッシュ」が装着されていた。現在では、土屋圭市氏が現在所有するトレノと同様のWORK製「MEISTER CR01」を装着している。サイズは15インチ8.5jを選択。組み合わされるタイヤは、トーヨータイヤのプロクセスT1Rだ。ブレーキは、フロントにMZ12型のトヨタ・ソアラのキャリパー※とローター※を流用し、リアは、キャリパーがノーマルで、ローターのみS13型の日産・シルビアのものを流用している。

※ キャリパー
ブレーキキャリパー。ディスクブレーキを構成する部品の一つであり、ブレーキローターをブレーキパッドで押さえつける役割を果たす。
※ ローター
ブレーキローター。ディスクブレーキを構成する部品の一つで円盤状の部品。ブレーキキャリパーがブレーキパッドを回転するブレーキローターに押し付け、その摩擦によって減速する。

フェンダーは、純正のラインを損なわず叩きだされた美しい仕上がりとなっている。給油口およびサイドミラーは、シツアモデル製のドライカーボンをチョイスしている。前述のとおり、まるで過去からタイムスリップしたような個体だが、控えめながらも、あくまで現代のチューニングカーであることを主張している。

シートはTRD製のスポーツシートへ変更されている。このシートは既に生産中止となっていて、レアなアイテムだ。また、ステアリングもTRD製となっている。注目すべきは、メーターが輸出仕様車のものを流用している点である。スピードメーターは、km/h表示の内側にマイルの表示がされているデザインとなっており、240km/hまで目盛りがふられている。

このトレノは、オーナー氏が専門学校に通っていたときに初めてのクルマとして購入したクルマだという。土屋圭市氏の所有するトレノと同じカラーリングで、5バルブのエンジンが搭載されていただけでなく、外観も綺麗な個体であったことから購入に踏み切ったそうだ。

エンジンは、購入した当初から搭載されていた5バルブヘッド※を搭載した4A-GE※。AE86/AE92型では4バルブであった4A-GEだが、AE101/111 型で5バルブへ進化したエンジンへのスワップは、AE86のチューニングとしてはメジャーなものだ。このエンジンはAE111型のもので、エンジン内部のピストンやコンロッド※といったパーツはノーマルのままだという。カムシャフト※は戸田レーシング製で、288度というカムプロフィール※を選択。排気音は、ハイカムを組み込んだレーシーなサウンドをアイドリング時から轟かせる。

※ 5バルブヘッド
一般的なDOHCのエンジンは、シリンダーヘッドのバルブ数が1気筒あたり4バルブであることが多いが、効率を上げるためにバルブを1つ増やしたのが5バルブヘッド。部品点数が多くなってしまうといったデメリットがある。
※ 4A-GE
トヨタ カローラレビン/スプリンタートレノを筆頭に、様々なトヨタの車に搭載された1.6Lの排気量を持つ直列4気筒エンジン。
※ コンロッド
コネクティングロッド。クランクシャフトとピストンを繋ぐ部品。ピストンの往復直線運動をクランクシャフトの回転運動へ変換する。
※ カムシャフト
バルブの開閉を行う部品。タイムングベルトなどによってクランクシャフトと同期して回転している。
※ 288度というカムプロフィール
カムシャフトの作用角。AE86型のカローラレビン/スプリンタートレノでは240度となっている。作用角を上げることで、より多くの空気を取り込むことが可能となり出力を向上させることができる。

エキゾーストマニホールド※はパワークラフト製をチョイスしている。熱害を避けるためにサーモバンテージが巻かれている状態なので見た目では分かりにくいが、各気筒から集合部までの距離を大きく取ろうとしているためか、その形状は目を見張るものがある。

※ エキゾーストマニホールド
各気筒の排気ポートに接続されるパイプ。排気が通るいくつかのパイプを1つに集合させる役割を持ち、形状によって出力特性が変化する。

このエンジンルームを見たときに目に飛び込んでくるのは、やはり4連スロットルから伸びるエアファンネル※だろう。スロットル本体は、AE111型のトレノ/レビンに搭載されたエンジンに最初から備わっているトヨタ純正品だ。エアファンネルはテックアート製。点火はディストリビューターでは行わず、同時点火システムをAE92型のトレノ/レビンなどに搭載されたエンジンから流用している。プラグカバーの上部に置かれているものがその点火システムだ。エンジンの制御もそれに伴い、フリーダムというECU※で行っている。これらのシステムにより、的確に燃料を噴射し爆発させることができるため、パワーアップやレスポンスの向上に大きく貢献する。出力は推定で180〜190馬力だそうだ。

※ エアファンネル
エンジンへの吸入効率を上げるための部品。筒状で空気の入口側が外側に反り返る形状となっている。
※ ECU
エンジンコントロールユニット。主にエンジンの点火のタイミングと燃料の噴射量などを司っているコンピューター。

幼少の頃からの夢を叶えたオーナー氏だが、「夢の途中」であるように感じられた。オーナー氏は現在、自動車関連業に就いている。AE86の未来を創る当事者として、その夢のつづきを追い求めているのではないだろうか。ドライビングを学ぶため、楽しむためには最高のパッケージングであったAE86の存在は唯一無二であり、時間をかけてエンドユーザーによって育まれ、文化が醸成されてきた。発売して30年以上という時を経てもなお、ショップを含めたエンドユーザーが育てつづけていることを重く捉えたい。今回紹介したオーナー氏が描く未来、そしてAE86はこれからどんな驚きと感動を我々に与えてくれるのだろうか。

・ベース車両: トヨタ・スプリンタートレノ
・オーナー年齢:24才
・所有年数:6年

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]