愛車は小学生のときに観た「太陽にほえろ!」の劇用車、トヨタ・スープラ2000GTツインターボE
スープラ2000GTと聞いて、このタイトルと「ボス」こと石原裕次郎を連想した人は、かつて刑事ドラマに熱中した世代ではないだろうか?
今回のオーナー氏もそんな1人だ。現在の愛車はトヨタ・スープラ2000GTツインターボE(GA70)。通称「70スープラ」。このEは「Electronics」の頭文字だ。この個体と同じ仕様のクルマが「太陽にほえろ!」の劇用車として使われていたことを記憶しているのは、いまやアラフォー世代以上かもしれない。
そういえば、この「70スープラ(以下「スープラ」)」は、フジテレビ系のトレンディドラマ「東京ラブストーリー」内でも登場していた。タイトルバックで江口洋介が運転する赤いスープラを連想できるのは…これもやはりアラフォー世代以上だろう。まったく月日が経つのは早いものだ。
それはさておき、西部警察における日産・スカイラインやガゼール、あぶない刑事の日産・レパード…等々。劇用車の話題だけでひと晩飲み明かせると豪語するマニアも少なくないだろう。派手なカーアクションは刑事ドラマにとって欠かすことのできない演出であったし、観る者に強烈なインパクトを残したことは事実だ。オーナー氏が「太陽にほえろ!」の劇用車として疾走するスープラに魅了されたのは小学校6年生のとき。まさしく原体験というべきだろう。
セリカXXの後継モデルとして1986年に誕生したのが今回のスープラだ。当初は2Lおよび3Lツインターボの2本立てだった。1988年にはグループAホモロゲーション取得用モデルである「ターボA」も500台限定で発売された。当時はついにメーカーが発売する日本車も270馬力に到達したかと驚いたものだ。その後、1990年のマイナーチェンジで、2Lおよび2.5Lツインターボエンジンへと変更。それまでの7M系から置き換えられた1JZ系2.5Lエンジン搭載車は、当時の日本車で最高出力の上限であった280馬力の仲間入りを果たした。
幼少期は日活映画を観ていた影響で初代クラウンに乗りたいと思っていたオーナー氏。実は幸運な幼少期および少年時代を過ごしている。というのも、両親から家のクルマの洗車を任され、運転免許を取得するまでは聖域ともいえる運転席に座ることも許されていた。ウインカーレバーを作動させたときにメーターパネルから聞こえてくる、あの「カッチン、カッチン」という音も鮮明に記憶しているという。さらに、運転免許を取得したときの家のクルマが、「あぶない刑事」の劇用車として使用されていた日産・レパードだったのだ!しかもこれは母親のチョイス。父親よりも母親に家のクルマの選択権があったというから、何とも羨ましい話だ。そのレパードは22年間所有していたそうで、いかに大切に乗られていたかが伺い知れる。
そんなオーナー氏の愛車遍歴は、アルバイト先の先輩から8万円で譲ってもらったマツダ・ルーチェ(4代目/HB型)からスタートする。次に手に入れたのは、日産・スカイラインGTS-4クーペ(R32型)。MT車、サンルーフ、純正フルエアロ仕様に加え、ボディカラーはわずかな期間にのみ設定されたダークグリーンメタリックだった。これがきっかけとなり希少車を所有する快感に目覚めてしまう。その後はスカイライン(R30型)、スカイライン ジャパンと乗り継ぎ、スカイラインGT-R(R33型)オーテックバージョン、いわゆる4ドア版GT-Rが発表されたことを知り、勢いで購入。その後、スプリンター シエロ(AE92型)も手に入れ、希少車2台体制となった。
その間もスープラの存在が頭になかったわけではないようだが、程度の良い個体にはなかなか巡り逢えなかった。そんなある日、インターネットオークションで今回の愛車となるスープラが出品されていることを知る。同時期に3L エアロトップモデルが出品されており、多くの関心はそちらに流れた。結果としてライバル不在のまま落札することに成功した。
今回手に入れることとなったスープラは、女性ワンオーナー車、フルノーマル、ガレージ保管、ノーマルルーフのナローボディ、ディーラーでメンテナンスされた膨大な量の記録簿がきちんと残っているという、まさに奇跡の個体といえるものだった。しかも、もはや絶滅危惧種といっていい前期モデルだ。このフロントマスクは前期でも最初期モデルだけに与えられたデザインである。若い世代のクルマ好きのなかには「このデザインの70スープラ、初めて現車を見ました」という声も少なくない。
探し求めていた仕様とは異なる点もあったそうだが、もう2度とこれほどの個体には出逢えないだろうと確信。妻子がいる立場ではあるが、その場で即決し、自宅まで乗って帰ってしまったほどの惚れ込みようだ。
一応、奧さんに「ちょっと見てくる」と言い残して出掛けたものの、さすがに亭主がスープラに乗って帰ってくるとは夢にも思っていなかったらしい(笑)。オーナー氏の熱心なプレゼンテーションもむなしく、(仕方ないというか当然というべきか)さすがに3台持ちの許可は下りなかった。泣く泣くスプリンター シエロを手放すまでの半年間、愛しのスープラはガレージで塩漬け…という事態になってしまった。
余談だが、件のスプリンター シエロを譲ったオーナー氏とは現在も連絡を取り合っており、イベントなどで会う機会があるという。現在のスプリンター シエロのオーナー氏は30才。クルマと同年齢だ。実際、運命を感じて手に入れたそうで、不思議な縁を感じた。もし万が一、スプリンター シエロを手放すときは真っ先に声を掛けてもらう約束をしているそうだ。
そんなさまざまな苦難を乗り越えてようやく愛車となったスープラ。初のAT車であり、走りの面で懸念もあったが、エンジンとトランスミッションのマッチングのおかげで、最高出力185馬力の1G-GTEエンジンは心地良い走りをもたらせてくれる。購入してから1年半が経過したが、いまだにノントラブル。デジタルメーター越しに夜景を見ながらこのスープラを走らせるのが至福のひとときのようだ。当時はこんなドライブを楽しんだオーナーが大勢いたに違いない。
筋肉質なクルマが増えた現代の道路でこのスープラが走っている姿を眺めていると、クーペらしく流麗かつ端正なフォルムであることに改めて気づかされた。このクルマは、トヨタ・2000GTの現代版(当時)というコンセプトで誕生した3ドアハッチバックモデルなのだ。その美しさは、誕生して30年の時を経てもまったく色褪せていない。
現在の主治医はディーラーだそうだが、純正部品が欠品となった時点で入庫は…というニュアンスのようだ。このスープラが現役だった当時のメカニックはすでに現場を離れているだろうからやむを得ないが、どこか寂しい感じも否めない。
オリジナルコンディションにこだわりつつも、「太陽にほえろ!」の劇用車のイメージに近づけるべく、近々リアスポイラーを外す予定であり、実はすでにスポイラーなしのリアゲートも入手済みだ。単にスポイラーを取り外すのではなく、リアゲートごと交換するあたり、奇跡のスープラを所有するに相応しいオーナーならではの配慮といえそうだ。
取材にあたり、オーナー氏が幼少期から集めてきたスープラの秘蔵コレクションを持参してもらった。現在では入手困難なものも多く、その充実したコレクションに正直驚かされた。こうなると、もはやこのスープラの方が安心して嫁げるオーナーを選んだとしか思えないほどの縁を感じる。
また、今回の撮影は、オーナー氏たっての希望で西新宿界隈をメインに行った。なぜなら、ここは「太陽にほえろ!」のロケ地だからだ。子どもの頃にテレビ画面越しに眺めていたスープラが愛車となり、当時のロケ地で撮影されている様子を嬉しそうに眺めているオーナー氏の姿が印象的だった。急速に数が減りつつある70スープラだが、1台でも多くの延命を望みたい。それには、今回のオーナー氏のような、並々ならぬ愛情の持ち主であることが必須条件なのだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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