憧れのクルマ、ホンダ・NSX(NA1型)が家族の一員となって教えてくれたこと
「このNSXは1991年式になります。手に入れてちょうど1年が経ちました」。
と、25歳の若き男性オーナーは話し始める。彼の愛車は、ホンダ・NSX (初代/NA1型、以下、NSX)。1992年生まれのオーナーとほぼ同じ車齢だ。純正色「カイザーシルバーメタリック」の滑らかな車体が、薄暗い駐車場の中で濡れたように光っていた。
以前、公開された記事(下記URL参照)、「始まりは1994年のル・マン24時間レース参戦のCMだった、ホンダ・ NSX(NA1型)」で取材したオーナーは、職場の先輩にあたる。今回は、その後輩が溺愛しているNSXにスポットを当てたいと思う。
http://gazoo.com/ilovecars/vehiclenavi/170407.html
NSXは2016年に新型(二代目/NC1型)が発売され、街で見掛ける機会も稀にある。しかし、新型が発売されても、初代NSXの人気は揺らぐことがないようだ。若きオーナーは、新型NSXについてはどのような印象を抱いているのだろうか。
「新型にはまったく興味が湧かないですね。私にとっては高級になり過ぎだと思いますし、電子制御やセミATなど、私が求めるNSXとは方向性が異なるように思います」。
決して「否定」するのではなく、あくまで率直な意見なのだろう。他にも同じような声を耳にしたことがある。自分のクルマを愛するがゆえに、新型を受け入れられないファンは必ず存在するのは仕方がないことだろう。NSXの場合、特にその割合が多いのかもしれない。たくさんのファンにとって、それだけ初代NSXの存在が大きいという証明だろうし、こういったエピソードがあることも、名車たる所以だと思う。
初代NSXは、1990年から2006年まで生産され、国産スポーツカーの頂点として君臨した。今も多くのファンを魅了し続ける、ホンダを代表するクルマだ。
ボディサイズは、全長×全幅×全高:4430x1810x1170mm、排気量2977cc。駆動方式はMR。初期型はNSX専用のV型6気筒エンジン「C30A」を搭載。量産車では世界初、オールアルミ製モノコックボディを実現させている。プロジェクトリーダーは、後にインテグラタイプRやS2000を手掛ける上原繁氏が務めた。
オーナーは、そんな時代を超えて愛されるNSXのどのあたりがお気に入りなのだろうか?
「真横からのアングルが大のお気に入りです。流線型のフォルムが大好きで、パーキングエリアでは時間を忘れて眺めていることもありますね」。
パーキングでコーヒーを片手にうっとりと眺めているオーナーの姿が目に浮かぶ。「まずは」愛車を手に入れた経緯を伺った。
「私が手に入れたとき、この個体はほぼノーマルでした。車体色にはこだわらなかったのですが、カイザーシルバーメタリックはあまり見掛けたことがない色だったので、このボディカラーにも惹かれました。NSXは、個人的に譲れない条件のリトラクタブルライト(ヘッドライト)を満たしていますし、走行距離はわずか4万2000キロ。あちこち探し回って、ようやく見つけた極上車だったんです」。
しかも、この個体には、オーナーのこだわりのモディファイが加えられているようだ。
「購入当初、ボディは経年劣化で相当に傷んでいたので、思い切って純正色(カイザーシルバーメタリック)に全塗装しました。サイドスカートとリアのカウルは『ガレージカイト』のもので、ダクトのデザインが気に入っています。フロントのリップスポイラーは『I's IMPACT』です。このスポイラーは角が丸いので、見た目よりもそれほど段差を気にしなくて大丈夫です。あえて、エアロを『ガレージカイト』で統一しなかったのは、アゴが出ているような形状のリップが好みだったからです。そしてラジオアンテナは“定番”のS2000用のものを流用しています」。
この取材で初めて知ったのだが、オートで長く伸びるアンテナが気になるオーナーは、S2000用に交換する。これはNSXに限らず他の車種でも見られる定番のモディファイだという。
オーナー曰く、NSXのオーナーたちは、それぞれのこだわりがはっきりしているそうだ。モディファイ派はワイドボディ化やチューニングが施され、徹底的に手が加えられていく。その反面、オリジナル派は純正部品にこだわるようだ。どのモデルでもそうかもしれないが、NSXの場合、オーナーたちの強いこだわりが、よりクルマに反映されやすいのかもしれない。
モディファイの箇所は、さらにマフラーと足まわりにも及ぶ。
「マフラーは『TAITEC GT-002』でリアピースのみの交換です。これは会社の先輩が保有するNSXも装着していて、以前から良いサウンドだと思っていましたし、音量が控えめで車検対応ということで選びました。ホイールはあえて『WORK EMOTION M8R』。前後異径で17インチと18インチになっています」。
すっきり、とさりげなくまとめられた中に、オーナーならではのこだわりを感じさせる。そして何より、決して安くはない費用を投じて全塗装を施した決断に「これから先、何があってもずっと維持をしていくんだ!」という強い想いを感じた。
NSXに惜しみない愛情を注ぐオーナーだが、クルマ好きになったきっかけは何だったのだろうか。
「原点はGT選手権(現SUPER GT)です。例えば日産・スカイラインGT-R(R34型)など、GTマシンとして活躍したクルマが好きですね。特に『TAKATA童夢NSX』が好きで、Play Stationの『グランツーリスモ』をプレイするときも使っていたマシンでした。就職してNSX乗りの先輩と出会い、初めて乗せてもらったときは人生が変わるほどの衝撃を受けたものです。何しろ今までゲームでしか知らなかった世界でしたから(笑)。このときは、シートポジションの低さからコーナーの進入に至るまで、すべてに感動しました。当時はホンダ・シビックタイプR(FD2型)に乗っていたので、シャープな挙動を示すクルマには多少慣れているつもりでした。しかし、MR特有のシャープなコーナリングは別格でしたね。私のような素人でも分かるほどでしたから…」。
NSXを手に入れてからは、カーライフはもちろん、仕事への意識までも変化したという。
「今までは漠然と仕事をしていましたが、NSXを手に入れてからは意識が変わりましたね。仕事で嫌なことがあっても、NSXがあるからと思うと乗り切れるんです。仕事が終わった後にふらりとドライブへ出かける機会も増えて、すごくいい気分転換になっています」。
オーナーは現在独り暮らしだが、NSXに乗って実家に帰省するようになってから、家族の反応が少しずつ変わりはじめたという。
「実は購入前に、母親の猛烈な反対に遭いました。なんとか説得しようと思っていたときに、父親がフォローしてくれたんです。父親はもともとクルマ好きで、前の愛車であるシビックタイプRは、現在、父親が乗っています。結局、母親には“事後報告”になってしまって、あきらめさせた形になってしまいましたが…」。
オーナーの母親は反対だったが、購入に踏み切ってしまった。それで家族の溝は深まってしまったと思いきや…?
「NSXが来てくれてから、家族との距離が以前よりも縮まりました。特に父親とは会話が増えましたし、一緒にドライブするようにもなりました。母親は、納車してからしばらくは様子を見ていたようですが、乗っている姿を見せているうちに理解してくれるようになりました。最近は、NSXを実家に置いておくと、両親が乗って出かけていることもあります(笑)。離れて生活している私たち家族を、NSXが繋いでくれている気がしますね。もしこの先、私が結婚したとしても、NSXは大切な「家族の一員」として乗り続けていきたいと思っています」。
最愛の1台を手に入れたとき、その存在は大きなものになる。「このクルマにふさわしいオーナーになろう」と、自分が変わるきっかけにもなったりもするのだ。そして、クルマに対してネガティブだった家族の気持ちも変えることができるほどの力を秘めている。
離れて暮らしていても繋がっている「家族の絆」に気づかせてくれるのも、家族から愛されているクルマだからこそだろう。これからも、オーナーの未来へと紡がれていくストーリーは、カイザーシルバーメタリックのNSXが一緒でありますように…。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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