脱セオリーなアイデア満載!異色の“ローバーミニ”にかけるオーナーの終わりなきカスタム

チューニングやドレスアップをするとき、最初に考えるのがクルマの方向性だ。それが決まったうえで、次にその目的に行きつくための手段に見合ったパーツをチョイスし、装着していくのがセオリーだろう。目的のない場当たり的なクルマいじりは、ドレスアップなら全体の統一がとれずちぐはぐになってしまう可能性が高いし、チューニングにしても時間のロスや無駄が出やすい。

しかし、そんな私たちが考える常識をあざ笑うかのように自由な発想でチューニング&カスタムを楽しんでいるのが、山梨県韮崎氏在住の㓛刀ナオトさん(55歳)と、その相棒の“ローバーミニ・メイフェア”だ。

パッと見ると、ローバーミニなのはすぐにわかる。でも、よ~く観察すると、「ん?何かいろいろと違うよね?なんかおもしろそう!」と、惹きつけられるものがあった。話を聞くと内装はほぼ自作、外装も缶スプレー塗装という手作り感満載の一台だったのだ。

「このクルマを買ったのは1998年、今から23年も前ですね。最初はフルノーマルで買ってシンプルに乗るつもりだったんです。でもね、購入してすぐミニのパーツ本を買ってしまって、ワタナベのホイールが履けることがわかって。最初はフェンダーレスでシンプルに仕上げようと思っていたのに、知ってしまったらやめられらないですよね(笑)。このホイールが履けるようにクルマをいじりはじめちゃったんです」

そう話すナオトさんは、ローバーミニの前に13年間ハチロクに乗っていたそうだ。ナンバープレートの“86”もその名残だ。
「見た目の可愛さが気に入って買ったので、まわりには『どうせすぐ壊れてすぐ降りるんだろ』みたいに言われていたんですけど、あんまり壊れないんですよ。しっかりメンテナンスして、対話すれば応えてくれるクルマなので、その点はハチロクと似ていますね!」と、共通する点も多いと感じているようだ。

「もともとクルマをいじるのが好きだったのと、オンリーワンのものをつけるのが好きで。人と同じものが嫌いなタイプなんです。コンセプトやこだわりもとくになく、自分の気分や思いつきに合わせて手を入れているので、方向性は日々変わっていきますね。純正にこだわっているミニオーナーさんもたくさんいますが、だからこそミニに乗っている人がこれをみると『うわぁ!』ってなりますね(笑)」

そう、ナオトさんはセオリーに反する“目的のない場当たり的なクルマいじり”をとことん楽しみ、その時々のアイデアをミニで表現しているわけだ。そして“こうしなきゃいけない”という縛りを取っ払った自由なカスタムを最優先している証拠といえるのが、この缶スプレー塗装。

「最初はシンプルに乗ろうと思っていたので、白いミニを選んだんですよ。白の缶スプレーで塗装したのは、フェンダーとかを装着するとき、ボディに穴をあけちゃったりするじゃないですか?そんなとき、いちいち塗装屋さんに頼むと時間もお金もかかるから。缶スプレーだったらそこだけマスキングすればすぐ塗れる。外装なんかも適当にいじったりすると塗り直すのが億劫になったりするけれど、缶スプレーなら手軽にできますから。艶がないのも塗りっぱなしで、磨きもかけていないからです。ちなみに塗り始めたのは10年以上前で、なんども重ね塗りしているので、ちょっと色が違うところもあります(笑)」

つまり缶スプレー塗装は、ナオトさんが思いつきでカスタムするときに効率よく仕上げるための有効な手段というわけだ。そうなると、そこまで突き詰めた現在のミニのカスタム内容がとても気になってくる。

「ボディはパッと見て気づかないようなシンプルさが狙いですね。じつはプレスラインを埋めたり、スムージングをしたりしています。ヘッドライトは、バイクのハーレー用を流用しています。誰もつけていないのと、こういうライトはミニに合わないんだろうなと思って、あえて買いました(笑)。リップスポイラーはアルミの板で作っています。ほかにもいろいろと遊び心を意識していますよ!」

このミニのなんとも言えない可愛らしい独特の表情は、ハーレー用のヘッドライトがじつはポイントだった。そして、ほぼ自作の内装は、よりオリジナリティが溢れている。

「こんな風になったらいいかなっていう自分の中の流れを重視しています。ステッチのあるダッシュボードやステアリングのシャフトカバーなどは、ミシンを使って作ったものですね。ペダルは新しいミニの純正流用で、トグルスイッチも新型ミニ用ですね。こういうクラブミニに乗っていると、新型のトグルスイッチは大きくて嫌がる人も多いけど、私は好きですね。いいところは流用する、活用するというのが自分の考え方です。

運転席のシートはレカロ製のRCSという新型。もともとシートカバーも自分で縫って作っていたので、仲間からは『なんで交換しちゃうの?』って言われたけど、このクルマに合いそうだと“ビビッ”とくるものがあって。そんな直感を基準にクルマいじりを楽しんでいます」

見どころ満載の内装のなかでも異彩を放っていたのが、リヤシートに鎮座した燃料タンクだ。「通常は見えないようにする燃料タンクをあえて隠さず、エア抜きとかそういうところをあえて見せるように作ったんです。ちなみに2名乗車にする際、燃料タンクなども含めて構造変更の申請をしているので、レーシングカーみたいな燃料タンクですけど車検対応なんですよ!」と、作り込みはもちろん、しっかりと合法仕様で仕上げているのも普段乗りに使っている証だ。

このほかにも紹介しきれないほどのアイデアカスタム満載だが、ナオトさんがとくにこだわったのがシートポジションだという。「純正の上向きのステアリングポジションが嫌だったので、軽自動車用のシャフトを使って寝かせるように改造してあるんです。大規模なミニミーティングに参加しても、これをやっている人は誰もいません。自慢箇所といえば“これ”ですね!」

ナオトさんは、このミニを毎日通勤で乗っているため、当時1年落ち8000kmだったのが、現在は24万5000kmまで達している。

「セカンドカーも考えたんですけど、全然壊れないのでずっと乗っています。それに毎日乗っているから思いつくことがいっぱいありますね。ウインカーのレバーも使いやすくなるように短く加工して、水滴が落ちる窓の中には傘入れを作ってみよう、とか。ちなみに今苦労していることは、立体駐車場の料金が入れづらいこと。ペアガラスにすると空気がこもらないだろうと思って変えたんですけど、これくらいしか開かないので手が出ない(苦笑)」

そんな有意義なミニライフを送っているナオトさんにとって、このミニはどんな存在なのだろうか?

「このミニを“じいちゃん”と呼んでるんです。尊敬する存在だから。僕にとってじいちゃんは仲間というか、友達というか……ヤバイっすね。こんな話をすると“嘘だろ”って言われちゃうんですが、じいちゃんが調子悪いと僕も風邪ひいたりするんですよ。

よく、『ここまでやったらこれで終わりでしょ?』と言われるけど、まだまだ終われません。付けては外しの繰り返しで、今はこれがいいなと思っているけど、明日には変わっているかもしれない。僕にとっては、生きるうえでの楽しみなんです。

今、仕事もめちゃくちゃ忙しくていじる時間もあまりないけど、その時間を割いてやるのが醍醐味かな。よくパッと見ただけで『お金かかってるね』という人もいるけど、それはわかってないなぁと思いますよね。ほとんど手作りなので、手間はかかっているけど、お金じゃないですよね」

「見本と逆のことを、やりたいようにやる」というナオトさんの思いつきや気分によって、日々変化していく唯一無二のローバーミニ。この形や常識にとらわれない自由さこそが、ナオトさんのミニいじりのコンセプトであり、真骨頂ではないだろうか。

そして冒頭で“目的のない場当たり的なクルマいじり”は、セオリーでないと表現したが、必ずしもセオリーである必要がないのだと思い知らされた。もしこの先、このミニに何度かお目にかかる機会があるとすれば、その時々でまったく違う雰囲気になっているだろう。

そして、ナオトさんと“じいちゃん”によって起こされる化学反応に触れた人たちは、“クルマいじりは自由だよ”というメッセージを受け取り、きっと多かれ少なかれその影響を受けることだろう。

[ガズー編集部]

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