26年間、一人のオーナーに愛され続けているユーノス・ロードスター

日本国内で、軽自動車を除く普通乗用車が新規登録されてから抹消されるまでの平均年数をご存知だろうか。一般財団法人自動車検査登録情報協会によると、2015年の時点で12.38年だという(一時抹消の車両も含む)。少なくとも、統計上では多くのクルマが10数年で街中から姿を消していることになる。

今回、紹介するユーノス・ロードスター Vスペシャルの初年度登録は1990年。この取材を行った2016年の時点で、26年前に新規登録されたクルマというわけだ。前述の平均年数をはるかに超えたいまも、現役のクルマとして走り続けている。しかも「ワンオーナー車として」だ。

オーナーのO氏はなぜ、ユーノス・ロードスターを選んだのだろうか。O氏曰く、マツダ・RX-7(FC3S)や日産・シルビア(S13)も候補に挙がっていたそうだ。しかし、ユーノス・ロードスターを運転したときの手応えや、オープンカー特有の気持ちよさに魅了され、購入を決意したという。

当時を知る者であれば記憶しているかもしれないが、ユーノス・ロードスターの人気は凄まじいものがあった。事実、O氏も納車まで半年待ちだったという。その間にVスペシャルが追加されたことを担当セールスから伝えられ、その佇まいに惚れ込んでこのクルマを選んだ。

取材当日は、歴代ロードスター乗りの仲間たちと、早朝の東京をツーリングする集まりに同行させてもらった。比較的ノーマルか、それに近い仕様の個体が多い中、O氏のユーノス・ロードスターは異彩を放っている。いまでこそ、ノーマル志向の印象が強いユーノス・ロードスターだが、現役当時はモディファイされた個体も多かった。O氏のユーノス・ロードスターは、その中でも数少ない「生き残り」なのだ。

交通量の少ない休日早朝の東京の道を、歴代ロードスターたちが隊列を組んでゆったりと流していく。季節ごとに移り変わる東京の街の空気を肌で感じられることも、オープンカーを所有する者の特権だ。信号待ちでは、外国人観光客が目を丸くしてロードスターの群を眺めている。日本にもこんな文化があるんだ…。海外の人がそう感じてくれたら、嬉しくもあり、誇らしい。

今回のツーリングに集結した歴代ロードスターは総勢20台を超えた。どの個体もオーナーの愛情が惜しみなく注ぎ込まれている。そして何より、初代から最新モデルまで、歴代すべてのロードスターが隊列を組んで走る光景は圧巻だ。めったに見ることのできないM2 1001や1002の姿もある。途中、交通の妨げにならない場所にクルマを停めて休憩を取ると、たちまちオーナー同士の談笑が始まる。この日が初対面という人もいるはずだが、傍目にはそうだとは思えないほど、和気あいあいとした雰囲気が感じられる。

上の画像はM2 1001と呼ばれる1991年に、M2(マツダの東京ソフト開発実験工房)から300台限定で販売されたスペシャルモデル。ハイコンプピストンやハイカム、専用ダンパーおよびスプリングの採用など、走りを楽しむために仕立てられたモデルである。当時、購入希望者が殺到し、抽選で販売された。

そして、こちらは走りに重点を置いた1001に対して、1992年に発売された1002。女性の脚がきれいに見えるということで採用されたアイボリーを基調とした内装や、本木目センターパネル、あえて手動式としたウィンドウなど、クラシカルな仕立てとなっていて、100台が販売された。

このとき初めて気づいたことがある。ロードスターは人と人を繋ぐ力を持つクルマなのだ。「ロードスター」という共通言語の下に集まったオーナーたちの表情が笑顔にあふれ、満ち足りているのが印象的だ。

およそ3時間のツーリングを終えて、解散の予定時刻を過ぎても、参加者たちは一向にその場を離れようとしない。この時間が終わりを迎えないよう、暗黙のうちに先延ばしにしているかのようだ。

談笑の合間に、改めてO氏のユーノス・ロードスターをじっくりと眺めてみる。

モディファイされた箇所をすべて列挙するにはスペースが足りないほど、クルマのあらゆる箇所に手が加えられている。一部を抜粋すると、前後タワーバー、M2 1028用ロールバー、オーリンズ製別タンク式ダンパー、NB(2代目)ロードスター用の6速MT、トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ(AE101用)4連スロットル、マキシムワークス製エキゾーストマニホールド、レカロシート、ユーノス・ロードスターの現役時代を知る世代には懐かしい、Tハウス製フロントバンパー…等々。いまでは入手困難なパーツも少なくない。

26年もの歳月のあいだに、様々なモディファイが加えられたこのユーノス・ロードスター。不思議なことに、別のオーナーの手に渡ったその瞬間から二度とこの雰囲気は取り戻せない。絶妙なバランスで成立しているこの佇まいが、良い意味では新たなテイストが加えられ、別の意味では保たれていた「何か」が崩れてしまうのだろう。

例えばメルセデス・ベンツは、走行距離や保有年数に応じて表彰制度を実施している。最高で100万キロ到達、または30年以上保有したユーザーに贈られる「栄誉」だ。1台のクルマと長く連れ添った(もはやこの表現が適切であろう)オーナーに対して、より多くの自動車メーカーから同様の栄誉を与える制度が良いのではないかと思う。ちなみにO氏も、クルマ好きの父を介して、若くしてメルセデス・ベンツに触れる機会があり、その仕立てに感動したという。

言うまでもなく、そのクルマのファーストオーナーとなれるのは世界でたった一人だ。クルマとの付き合い方、接し方は人それぞれであろうが、1台のクルマと、長きに渡りじっくり向き合うことは簡単そうでとても難しい。一人のオーナーに愛され続けているこのユーノス・ロードスターを見ていると、1台のクルマとじっくり向き合うことで、初めて得られる体験があるように思えてならないのだ。

世界的にも評価されている「ロードスター」というクルマの真髄に、このツーリングを通して触れることができたのではないかと考えている。確実に進化を遂げながらもコンセプトがぶれることなく、初代が誕生した1989年から4代目となる現在に至るまで、長きに渡り「2シーターのオープンカー」がメーカーのラインナップに存在し続けていること自体が希なのかもしれない。しかも、そのコンセプトを新旧問わず共有し合うことが可能なのだ。このツーリングのように、歴代すべてのロードスターが一堂に会し、同じ道を走っているという事実。なんと素敵なことだろうかと感じずにはいられないのだ。そしていつの間にか、ロードスターというクルマが持つ懐の深さに、筆者もすっかり虜となってしまったのだ。

ロードスターは人を笑顔にする。ハッピーにしてくれる。O氏や他のオーナー氏たちが、時が経つのを忘れて談笑している光景を見ていると、こんな素敵なクルマが日本から誕生したという事実を、いま改めて世界に誇りたい。そんな想いを強く感じる取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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