人生初の愛車が「アガリのクルマ」。1995年式三菱 ランサーエボリューションIII(E-CE9A型)
「アガリのクルマ」といえば、愛車遍歴における終着点。いわば最後に乗るクルマを意味する。
じっくりと年齢と経験を重ねてこの境地に到達する人がいる一方で、人生初の愛車が「アガリのクルマ」となるケースも当然ながら存在する。今回、ご紹介するオーナーがまさにそうだ。
オーナーの年齢は29歳。現在の愛車を手に入れてから3年と2ヶ月の付き合いになるそうだ。「人生初の愛車がアガリ」という、クルマ好きであれば誰もがいちどは夢想するであろう、オーナーの一途な想いがあればこそ現実のものとなったカーライフをご紹介したい。
「このクルマは1995年式三菱ランサーエボリューションIII(E-CE9A型/以下、ランエボIII)です。手に入れてから3年と2ヶ月、現在の走行距離は約7万5千キロ、手に入れてから1万5千キロくらい乗りました」
オーナーが所有する「ランエボIII」は、1995年に限定生産されたモデルであり、4代目ランサーをベースにした最後のモデルにあたる。市販車としてはGSRがメインだが、競技用ベース車として装備が簡略化されたRSも存在した(オーナーが所有するのはGSRだ)。
ランエボIIIのキャッチコピーは「進化は、とまらない」であった。事実、ランエボことランサーエボリューションシリーズは、1992年に初代モデルが誕生してから俗にいう「エボX」まで、長きにわたり進化を遂げてきた。そして、2015年に特別仕様車「ランサーエボリューションファイナルエディション」が1000台限定発売され、惜しまれつつその歴史に幕を下ろした。そのため、いまだに復活を祈る根強いファンが存在する。
ランサーエボリューションIII GSRのボディサイズは全長×全幅×全高:4310×1695×1420mm。排気量1997cc、「4G63型」と呼ばれる直列4気筒DOHCターボエンジンをフロントに搭載し、最高出力は270馬力をたたき出した。
このランエボIIIをベースにしたラリーカーが1995年および1996年のWRC(世界ラリー選手権)シリーズに参戦。各ラリーにおいて総合優勝を果たすなど、実戦においても華々しい活躍を見せた。
ところで、ランエボIIIのデビューは1995年。オーナーの年齢は29歳。どう考えても、ランエボIIIのデビュー当時は幼少期だったはずだ。このクルマを愛車に選び、なおかつ「アガリのクルマ」に挙げる理由を伺ってみることにした。
「母親がクルマ好きで、当時は三菱ミニカ エコノに乗っていました。私が幼少期の頃はF1中継やクルマ関連のテレビ番組がいくつも放映されていたので、親に見せられていたそうです(笑)。クルマ好きになった原体験は、モーターランド2(テレビ東京系)というテレビ番組で紹介されていたカルソニックスカイラインGT-R(グループAカー)だと思います。そこからどうランエボIIIへ結びついたかというと、中学生のとき“チョロQ HG(ハイグレード)2”というゲームに夢中になり、そのなかでランエボIIIのモデリングがカッコ良くてゲーム内で愛車にしていたんです」
…と、ここまではよくある話かもしれない。しかし、オーナーは違った。中学〜高校生と年齢を重ねるに連れて興味が移り変わっても不思議はないのだが、まったくといってよいほど「ブレなかった」のだ。
「その後、ランエボはモデルチェンジを繰り返していくわけですが、私はというと相変わらずランエボIII推しでした(笑)。チョロQを自作してコンテストに出品してみたり、“ランエボIII推し”は大人になっても変わらなかったんです」
事実、ランエボIIIに対する想いは成人後も変わらなかったという。
「運転免許を取得したのは25歳のときでした。その時点でもランエボIIIに対する想いは変わらなかったんです。しかし、気がつけばランエボIIIが発売されてから20年もの月日が流れており、すでに市場から程度の良い個体がなくなりつつあったんです。とはいえ“運転免許を取得して初の愛車がパワフルなランエボIIIで大丈夫なのか…”と、正直迷いました。最初は軽自動車で慣らす必要があるかな…と思い、スズキ アルトワークスSSリミテッド(HA11S型)を狙ったり、パワフルかつ流通価格も当時は比較的安かったスバル レガシィツーリングワゴン(BH型)やトヨタ セリカSSⅢ、はたまた超変化球でダイハツ シャレード デ・ト・マソなどを探していました。しかし、日に日に販売価格が上昇していき、購入することを躊躇してしまいました」
そこでオーナーは一大決心をした。何しろ物心がついてから成人になるまで、人生の大半をランエボIIIに「魅せられてきた人」でもある。その想いたるやハンパではないのだ。
「“それならば、もういっそのことランエボⅢを手に入れた方がいいのかも…”と葛藤していたある日、知人がTwitterに現在の愛車となるランエボIIIの情報を流していたんですね。私自身、知人のツィートを見た瞬間に“これはいいぞ!”と思ったんです。とはいえ、売り物のがあるお店は自宅から遠く離れたクルマ屋さんでしたが、いてもたってもいられず、その場で店舗に問い合わせ、夜行バスで現地に急行しました。翌日、現車を確認してその場で即決です。“とりあえずハンコを押して(契約して)”から後のことを考えようと(笑)。勢いがありましたね」
欲しいと思っているクルマの売り物を見つけたとき、直観的に「これは!」と感じたら…状況が許されるのであれば、即、現車確認をすることを強くお勧めしたい。その直感が正しいかもしれないし、ひょっとしたら無駄足になるかもしれない。しかし、どちらに転んだとしても自分自身の行動に納得がいくはずだ。悶々として迷っているうちに他の誰かに買われてしまい、機会を逃すよりもよほど有意義な時間の使い方だと思える。
こうして、素晴らしい決断力と行動力で憧れのランエボIIIを手に入れたオーナー。これまではゲームというバーチャルの世界で運転していたランエボIII、現実世界ではどうだったのだろうか?
「ようやく憧れが現実となったわけですが、運転していてもフワフワした感覚というか“これ、本当にオレのクルマなのかな?”と疑ってしまいました。夢のなかにいるような感覚がしばらく続きましたね」
しかし、憧れのクルマを手に入れたことで、自分なりの「色」を出してみたいという欲求が生まれたようだ。
「この個体は私で4オーナー目らしいのですが、過去のオーナーさんがフォグランプをCIBIE製に、マフラーをHKS製に交換しているくらいで、オリジナル度の高いクルマだったんです。そこから自分なりの色を出すには…と考えたとき、自分は天邪鬼なので他人と同じようなものには絶対したくない。でも、あまり目立つのも好きではない…。“通”な人だけが分かるちょっと変わった味付けができないか…。そこで閃いたのが"AMG仕様にしてみよう"というアイデアでした。かつて“ギャランAMG”というクルマがありましたし、ギャラン=ランサーの先祖だと思いたち、実行してみたんです」
確かに6代目ギャランをベースに当時のAMG社がチューンした“ギャランAMG”というクルマが存在したことは事実だ。搭載されるエンジンも(ターボとNAの違いはあるにせよ)同じ4G63型。ボディと同色にペイントされたアルミホイール、各所にあしらわれたAMGのロゴ。そしてAMG社がチューンしたエンジン…。こんなマニアックなクルマがカタログモデルとして、日本全国の三菱ディーラーで購入できた時代があったのだ。
「リアのエンブレム・ホイールセンターキャップ・シートベルトカバーをAMG仕様に変更しました。それも、当時のAMG社のロゴで統一したのが自分なりのこだわりです。あと、エンジンのヘッドカバーもギャランAMGのものに交換しています。よく『なんでAMGなの?』と聞かれるんですが、私としては分かる人だけに響けばいいので、リアクションがあった時点で“勝った!”という気分になりますね(笑)。あと、マフラーを柿本改製に交換しました。ランエボIIIはオリジナルの状態で完成したフォルムだと思っているので、ドアバイザーとマッドフラップ(入手済み)を装着したらモディファイは完成です」
少年時代からの憧れを現実のものとしたオーナー。べた惚れ状態のランエボIIIで気に入っているポイントを挙げてもらった。
「この見た目、パッケージングですね。私の印象では、ランエボIV以降になると”ランエボ”として独立したモデルという気がするんです。その点、ランエボIIIまではあくまでもベース車のランサーを“魔改造した”イメージがあります」
では、オーナーなりにこだわっているポイントは?
「メンテナンスはディーラーに託しています。整備に関する知識や技術が足りていない分、自分が愛車に対してできることとして、せめて外装だけはピカピカに仕上げて綺麗に乗ってあげるように心がけています。いわゆる青空駐車ですが、ボディーカバーは傷がつくのであえて被せていません」
いつの間にかランエボIIIもネオクラシックカーの領域にあるクルマだが、トラブルは?
「車検の前日にクラッチが戻ってこなくなったことがありました。大きなトラブルはそれくらいですが、何しろ1回の出費が大きすぎて…(笑)。あと、純正パーツの入手が困難になりつつあります。現在はネットオークション頼みです。トラブルや修理のとき、部品がないので直せないということは避けたいですね…」
オーナーにとって人生初の愛車が「アガリのクルマ」となったわけだが、他に気になるクルマは?
「将来乗りたいと思っているクルマと、単に憧れているクルマは別だと思っています。憧れというとフェラーリF40やランチア ストラトスです。そうなると話が飛躍しすぎて現実味がないですし(苦笑)」
1台のクルマと長く付き合っているオーナーに話を伺うと、異口同音に「現在の愛車より魅力的なクルマに出会えなかったから」という回答が返ってくる。オーナーもそのタイプかもしれない…。
最後に、今後愛車とどう接していきたいと思うか尋ねてみた。
「手放すつもりがない時点で結婚相手みたいな存在ですよね。これからもずっと一緒にいられればそれでいいかなと…」
最近ではすっかり見かける機会が減った感のあるランエボIII。中古車市場では希少価値が高まり、値上がりも著しい。幸運なことに、オーナーはその直前に極上車を手に入れ、理想の愛車へと仕上げている最中だ。
取材後、突如快音とともにランサーターボ、通称「ランタボ」が現れた。思わずランタボの元に駆け寄るオーナー。てっきり友人かと思いきや、まったくの初対面だという。しかも、オーナーと同じ20代。挨拶もそこそこにクルマ談義がはじまったようだ。つい先ほどまでまったく面識がなかった者同士とは思えないほど、楽しそうな雰囲気がこちらにも伝わってくる。
気づけば取材チームもクルマ談義に加わり、お互いの愛車を見ながら他愛ない会話をしつつ夜が更けていく…。そう、これこそ愛車を所有しているからこそ味わえる体験であり、得がたい時間に思えてならない。憧れのクルマを手に入れ、愛車にする。しかもそれが「アガリのクルマ」だ。今回の偶然の出会いも、オーナーがランエボIIIを手に入れたからこそ実現したものなのだ。
こんな素晴らしい体験や時間を知らずに年齢を重ねていくなんて、あまりにももったいない…。そう思えるのは筆者のエゴなのだろうか。お互いの愛車を熱心に、楽しそうに見比べている彼らを眺めていて、ふと、そんなことを感じた次第だ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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