サーキット走行を日産・シルビア(S15)で楽しむ22歳のオーナー
一口に改造車と言っても、そのジャンルは多岐にわたっている。エアロパーツを纏いドレスアップをしたり、エンジンを強化してパワーアップするケースもあるだろう。どのように手を入れるかも十人十色だ。最近では、極端に車高を落とした「スタンス」と呼ばれる新たなスタイルが浸透しつつある。SNSが発達したインターネットの空間では、何よりも視覚的な新鮮さこそが、コンテンツの拡散において最も重要なポイントとなっている。スタンスもそういった流れの中で、世界へと拡散しているのだ。
日本の街道レーサーにヒントを得て、オーバーフェンダーを装着したモディファイを得意とするショップ「リバティーウォーク」がインターネットを通じて世界を席巻している。フェラーリやランボルギーニといった、ハイパフォーマンスかつ超高級車のフェンダーにメスを入れるという行為は、世間一般を相手にしたとき、少なからず反発を生むように感じる。しかし、インターネットという空間を通して、リバティーウォークが造り出した斬新なビジュアルは、世界の隅々まで行き渡り、確実にファンを増やしてきたといえるだろう。
このように、現代の改造車は、視覚に訴え掛ける過激なビジュアルが優先されがちだ。しかし、インターネットを通じて拡散される画像や映像から改造車から発せられるオーラを、果たしてユーザーが感じることはできているのだろうか?見た目重視の改造車が増える中、すり減ったハイグリップタイヤ、フロントバンパーやフロントウィンドウについた飛び石による無数の傷跡・・・。これらの走りの痕跡が放つオーラのようなものが、よりいっそう魅力的に感じられるように思えてならないのだ。
このS15型日産・シルビア(以下、シルビア)も、改造車特有の魅力を発する1台だ。センスよくエアロパーツやライト類がチョイスされているが、適度に下げられた車高や、RAYS製VOLK TE37SLホイールから覗く、オレンジに塗られたブレンボの巨大なブレーキキャリパーが目を引く。単なるドレスアップではなく、走りを重視したこのクルマの素性を物語っているといえるだろう。
このシルビアのオーナーは22歳なのだが、すでに日産・スカイライン GT-R(R32型およびR34型)に加え、ホンダ・シビック タイプR(EK9型)、ホンダ・S2000を乗り継いでいる。これらのラインナップから、かなりの走り好きということが感じられる。現在はこのシルビアを駆り、筑波サーキットなどでスポーツ走行を楽しんでいる。これまで多くのスポーツカーを乗り継いできた中で特に印象に残っているのは、過去に所有した2台のGT-Rだという。いずれのクルマも、ハイパワーによる加速やサウンドが忘れられないそうだ。
当初シルビアは、ドリフトするためのクルマという程度の認識だったそうだ。シビックではパワー不足を感じ、2.0L程度の排気量で楽しめるターボ車はないかと探した結果、現在の愛車であるシルビアを選択したのだという。FRならではのクルマの挙動がはっきり感じ取れる点に魅力を感じている。最近ではリアをスライドさせる走り方にも楽しさにも目覚めたようだ。
オーナーは、以前所有していたシビックを手に入れたときにサーキットデビューを果たした。それまで、ゲーム上では走ったことがあるコースでも、実際にはライン取りがまったく分からない状態だった。オーナー曰く、ゲームと現実では、コース幅などの感覚が異なることが起因しているという。それでも、サーキット走行に慣れている人の後ろについて走ることで、少しずつコースの雰囲気に慣れていったそうだ。サーキット走行を行うことでクルマの限界を知ることができ、自分の目標としていたタイムを達成することに魅力を感じているようだ。
オーナーがクルマ好きになり、速く走ることに夢中になったのは、同じようにサーキット走行を楽しんでいた父の姿を見て育ったからだという。中学生のころには、クルマはカッコイイ存在として認識していたようだ。オーナーが育った環境は、クルマ好きとなるための英才教育そのものといっても良いのかもしれない。
現在の愛車であるシルビアは1999年式のスペックRをベースとしていて、ほぼすべての部分に手が加えられている。そして、その目的は速く走るためのものだ。初めはほぼノーマルの状態から現在の仕様にまで仕上げたというから驚く。
エアロパーツは、前後バンパーおよびフェンダーはVERTEX製をチョイスし、リアウィングはVORTEX製を装着。決して見かけではなく、ダウンフォースを得るために装着している。ワンオフでリアディフューザー、フロントアンダースポイラーを作製し装着。手を加え始めたころより、他のシルビアと被らない見た目や、安価なパーツで仕上げないことを意識していたそうなのだが、RAYS製のVOLK TE37SLホイールを履き、GTウィングを装着したVERTEXのデモカーの画像を見つけたときに、自分の想像していたイメージと一致したことから、その仕様を意識したものとなっている。
エンジンはこれまで2度のブローを経験しているという。現在は東名パワードによって組まれたエンジンを搭載。カムシャフトなどは交換しているが、ピストンなどの腰下パーツやタービンは純正のままとしている。
駆動系はミッションブローをしたためにNISMO製の6速ミッションに交換し、KTS製カッパークラッチを組み合わせている。足回りはARMS製のサスペンション、ブレーキにはフロントにブレンボ製のフェラーリF50用キャリパー、リアにはHCR32型スカイラインのキャリパーを装着している。
クルマを改造していくにあたり、ある一定のラインで自ら制約を作らないと、見た目が過激なものになっていってしまう。サーキット走行専用のマシンであればそれでも構わないかもしれない。しかし、オーナーはこのシルビアに対して自分なりのレギュレーションを課している。車検をパスし、公道を走行することができること、そして純正のタービンのままで、どこまで速く走ることができるのか?という2点である。
現在、筑波サーキットなどで行われるタイムアタックが加熱しつつある。マシンの前後には巨大なウィングが装着され、これが強いダウンフォースを生み出す効果を与えている。パワーを上げるだけではなく、空力にも目を向けることで、ラップタイムを縮めることができる。
やはり、インターネットではこうした過激なマシンが目立ってしまいがちだ。しかし、このシルビアのオーナーのように、クルマの特性を理解し、自らのテクニックに磨きを掛けることで「速く走れること」を追求している若者の存在もあることを忘れてはならない。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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