「三世代で愛し続けたい」。母の形見、日産・シルビア(S15型)を愛する若きオーナー
ある日の深夜。高速道路のパーキングに立ち寄ると、1台のクルマに目が留まった。街灯に照らされて闇に浮かびあがる真紅のボディがひときわ目を惹く。今となっては貴重な2ケタナンバーの日産・シルビア(S15型)だ。しかも、赤いボディカラーはレアな存在だろう。純正エアロパーツをまとったエクステリア、そしてSSR製と思しきホイールはボディと同色に塗られており、オーナーのこだわりを感じさせる佇まいなのだ。しかも、車内にいたオーナーは20代と思しき若者。この組み合わせに興味を惹かれ、つい声を掛けてしまった。オーナーは現在28歳、温厚な雰囲気の好青年という印象だ。開けて見せてくれたボンネットの中には、「SR20DET」と呼ばれる直列4気筒エンジンが鎮座していた。
「この日産・S15型シルビアは、1999年式のspec-R。大学3年の頃に父から譲り受けたクルマです。僕が所有しはじめてからは7年目で、9万キロほど走行しています。……実は、もともとはクルマ好きだった母のものでしたが、他界してしまいまして。それだけに『形見』という存在でもあるんです」。
日産・シルビア(S15型/以下、シルビア)は、1999年に発売、シリーズ7代目にあたる。先代モデルにあたるS14型で3ナンバー扱いとなったボディサイズは、このモデルで5ナンバーに戻された。これに加えてグレードの名称変更も行われた。S13型・S14型で用いられていたNAレースベースモデルの「J’s」、NAモデルの「Q’s」、ターボモデルの「K’s」は、S15型ではNAモデルの「spec-S」とターボモデルの「spec-R」に変更された。生産終了から10年以上過ぎているものの、いまだに人気が高く、ストリートではもちろんサーキットマシンとして走行会でもよく見かける。GT選手権(現SUPER GT)やD1(全日本プロドリフト選手権)など、モータースポーツシーンでの活躍ぶりは、ご存じのとおりだ。
クルマ好きな両親のもとに生まれたオーナーは、幼い頃からクルマに親しんできた。父親は、1987年式および1989年式の930型、そしてフルチューンされた2001年式の996型という、3台のポルシェ・911ターボを所有している。「80歳になっても乗る!」と宣言しているほどポルシェへの愛は深い。そんな父親が自身のルーツだとオーナーは語る。
「父が所有している1989年式ポルシェ・911ターボ(930型)は、僕が生まれた年に納車されました。幼い頃からその助手席に乗せられていたので、このクルマとともに育ったようなものです。クルマに対する価値観は、完全に父の影響を受けていますね。以来、Hパターン・3ペダルのクルマが大好きです」。
オーナーは現在1人暮らしとのことだが、実家に戻ると親子でのクルマ談義が止まらない。オススメの部品をプッシュされることもしばしばだという。しかし、助手席に父親が同乗しない限り、大切なポルシェは決して運転させてくれないそうだ。このシルビアは、先に語ったとおり、他界した母親が乗っていた個体だ。それまでスバル・レガシィに乗っていたオーナーは、思い出の1台を受け継ぐことになったのだ。
“人に愛されてきたクルマ”と出会うたびに、車体から“幸せオーラ”を感じてしまう。このクルマは家族に愛されてきた空気もまとっているように思えてならない。このS15型シルビアを迎えるまでの経緯をオーナーに尋ねてみた。
「1992年から我が家にあったトヨタ・セリカ コンバーチブル(ST185型)が、洗車中にソフトトップが割れてしまって買い換えることになり、日産ディーラーで対面したのがシルビアとの出会いになります。僕の『かっこいい』というひとことで父がこのクルマに決めました。フロントからのアングルに惹かれましたね。この『睨み顔』がとてもかっこよくて…。納車の日のことを覚えているのですが、当時は正直、旅立っていくセリカコンバーチブルとの別れのほうが寂しかったですね…」。
この個体はもともとATで、オーナーに譲渡される際、6速MTに換装されている。エクステリアはシンプルだが、こだわりのモディファイがオーナーの手で施されていた。クルマ好きな家族だからこそ、自分の1台に納得するまで手を入れていくのが、この家族の流儀ではないだろうか。もし母親が現状のシルビアを見ることができたら、きっと息子のセンスを褒めるに違いない。
「いわゆる『ツライチ』で車高短にしていますが、愛車はどこでも一緒『(段差を気にせず)・どんな場所にでも行ける仕様』にしています。僕が乗りはじめてから、あちこちにモディファイを加えました。クラッチはNISMOのカッパーミックスを。サスペンションはこれで2本目になるのですが、ハイマックススポーツGTです。ブレーキはパッド・ディスクともProject μ。マフラー・ブースト計・サージタンクはGReddy。シートはRECAROで、Sabeltのハーネスを付けています」。
数あるモディファイの中でもこだわりは、ボディカラーと同じレッドに塗られたホイールだ。
「実は父のポルシェ・911ターボ(930型)と同じ色に塗っています。SSR Professor SP1R の17インチを履いていますが、仕様まで父とお揃いです。かっこいいので真似したくなりまして…(笑)」。
このシルビアに乗りはじめて、オーナーのカーライフはかなり変化したようだ。とくに「クルマが好きというきっかけでつながった体験」を、一度は実感したことがある人も多いだろう。
「SNSのコミュニティ『赤いスポーツカー』のオフ会に参加しはじめて、さまざまな業種の方と知り合いました。つながりから得たものが生活の中で役立ち、助けてもらったりもしていますね。あとはコンビニに立ち寄ると、知らない人から声を掛けられる機会が増えました」。
最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「50歳になっても、このクルマに乗っていたいと思います。他にも欲しいクルマはあるし、もしかしたら増車するかもしれないけれど、S15型シルビアは大切にし続けたいのです。そしてもし、僕に子どもが生まれたら譲りたい。親子三世代で乗るのが、今の夢です」。
“人に愛されているクルマたち”にはストーリーがある。こうした話を拝聴するたびに、クルマとは想いを乗せて走る乗り物なのだとつくづく思う。家族の絆をつなぐリレーがあるとすれば、このシルビアこそがそのバトンにあたるのだと感じずにはいられなかったのだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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