新車から28年、オーナーと一心同体の存在。日産・R32スカイラインGT-R(BNR32型)

生産が終了しても、年月を重ねるほどにファンを魅了し、その輝きを増していくことが名車の証なのかもしれない。と同時に、名車の“生息数”が少なくなるほど、オーナー同士の絆も深まっていくように思う。本来は工業製品であるはずのクルマが、いつの間にか、人と人とを結びつけるコミュニケーションツールとなっているのだ。

例えば、日産・スカイラインGT-Rはそんな1台ではないだろうか。

今回は、日産・スカイラインGT-R(BNR32型/以下、スカイラインGT-R)を新車で購入し、現在に至るまで28年間も乗り続けている男性オーナーを紹介したい。内外装ともに美しいコンディションが保たれたオーナーのスカイラインGT-Rは、まさに予防整備の賜物だろう。にわかには信じられないが、オドメーターは既に27万8000キロを刻んでいる。

今もなお多くのファンに愛されるスカイラインGT-Rは、1989年に復活を果たした。スカイラインとしては8代目にあたり、16年ぶりにGT-Rの名を冠したモデルだ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4545x1755x1340mm。名機で知られる「RB26DETT」は、スカイラインGT-R専用のエンジンだ。排気量2568cc、直列6気筒DOHCツインターボエンジンの最大出力は280馬力を誇る。当時、推進していた「901運動(日産が「1990年までに技術で世界一をめざす」を合言葉として1980年代に掲げられていた運動)」に沿って開発された最新のハンドリング技術「アテーサE-TS(電子制御アクティブトルクスプリット型フルタイム4WD)」や「スーパーHICAS(後輪操舵機構)」を備えていた。1990年には全日本ツーリングカー選手権「グループA」に参戦、このカテゴリーが終了する1993年までシリーズチャンピオンの座を守り続けた。

オーナーが所有するスカイラインGT-Rは1990年式だという。オーナーは現在53歳。この個体は、26歳の頃に新車で手に入れた。乗るのは休日限定だが、ロングドライブが好きなので700〜800kmほど走る機会が多いという。聞けば、北は青森県、西は島根県まで足を延ばすとのことで驚いた。そんなオーナーのクルマ愛は、どのように育まれてきたのだろうか。

「5、6歳の頃にフェアレディZ(S30型)とブルーバード(P510型)を同時に好きになったのがクルマ好きの原点です。それからしばらくして、日産というメーカーやクルマが本当に好きになったのは、中学生になった頃でしょうか。さまざまなディーラーへカタログをもらいに行っていましたが、日産の方が一番優しかったように思います(笑)。『免許を取ったらスカイラインを買うんだぞ』と言いながら、カタログやノベルティをくれたんです。その後、免許を取得して、きちんと日産車フリークになりました(笑)」。

オーナーの愛車遍歴は、ローレル(C31型)、スカイラインGTS(R31型)と、日産車オンリーだ。カーライフの大部分を現在の愛車、スカイラインGT-Rと歩んでいることになる。GT-Rとの馴れ初めは?

「当時、スカイラインGTS(R31型)に乗っていて、芦ノ湖へドライブに出かけた際に、実車を見る機会に恵まれました。このとき、偶然前を走っていたスカイラインGT-Rの後続についたんです。そこで、加速力やコーナリング性能に衝撃を受け、購入を決意しました。もともとR31型スカイラインは、3年乗ったら乗り換える予定だったことと、クルマにお金をかけられるのも30歳までだろうと思っていたこと、そしてスカイラインGT-Rにブレーキローターのクラック対策がなされた時期も重なり、購入にはベストタイミングでした。ボディカラーは長く乗っても飽きがこないガンメタを選びました」。

こうして念願のスカイラインGT-Rを手に入れて28年。所有した日々の中で変化していったことはあったのだろうか。

「プライベートでしか乗っていないので、基本的には変わっていません。ただ、年月が経つにしたがって、旧車系の自動車雑誌の取材を受ける回数が増えました。お陰で、クルマ仲間もずいぶん増えましたよ」。

時間が経つほど、こんなにもクルマ好きを惹きつける魅力はきっと、スカイラインGT-Rたる所以なのだ。続いて、愛車のもっとも気に入っている点を、オーナーに尋ねてみた。

「サイズ感でしょうか。自分の乗り方とサイズ感はマッチしていると思っています。もちろん、後継モデルであるスカイラインGT-R(BCNR33/BNR34型)、そしてGT-R(R35型)…。いずれも好きなクルマですよ。性能の高さは分かっていますが、私が所有するスカイラインGT-Rよりも優れているところがあるからといって、手放してまで乗り換えようという気はまったく起こらないです。たとえ増車しても、休日に乗るクルマは1台しか持つ気はないので、結局はこのスカイラインGT-R一択になるんです」。

オーナーの個体は、現在ガレージ保管だという。しかし、購入して10数年間は屋外駐車だったそうだ。そして、内装は落ち着いた雰囲気のキャメルレザーに張り替えられている。スカイラインGT-Rのインテリアとしては異色かもしれない。

「運転席のシートが擦れて劣化していたので、純正シートの買い替えか社外品かで迷いました。結果として、純正シートを修繕するほうがいいだろうという結論に至り、GT-R専門誌にも掲載されていたロブソンレザーに依頼しました。ステアリングの革は巻き直しましたが、運転席・助手席・後部座席の部分は型紙があるので、価格は比較的リーズナブルでした。カラーはやはりブラックが人気だったと思います。しかし私は天邪鬼なので、キャメルか赤にするかで悩んでいたのですが、思いきってキャメルにしました。周囲からは賛否両論ありましたが、今でも満足していますね」。

一見すると、内装とホイール以外は限りなくオリジナルを保っているように見えるが、足回りからエンジンに至るまでオーナーのこだわりがちりばめられていた。

「まず、ブレーキローターを大型化しています。前後ともにGLOBAL製のキットを選びました。ブレーキの利きも良く安定しています。ヘッドライトは後期型のものに交換してHID化しました。後期型のほうが“目玉の部分”がわずかに大きく、照射範囲が広がるんです。よく見ると、前期型のプロジェクターは円形なのですが、後期型になると、円の部分の径が大きくなり、上下が欠けている形状になっているのがわかります。ボディ補強はストラットタワーバー、ブレスバーの他、サイドシルにも補強を入れています。足回りはTEIN製で乗り心地重視の車高調を選び、しなやかな乗り心地になるようバランスをとっていますね。車高も程良く落ちて、オリジナルに近い雰囲気にまとまっていると思います。ホイールは、ディーラーの営業マンの薦めもあり、訳あってスカイラインGT-R(BNR34型)用の18インチを履いています」。

さらに、この個体のパワーユニットはN1エンジンに換装されているのだ!N1耐久レース(スーパー耐久の前身)での使用を前提とした強化品である。

「実は、エンジンは2基目なんです。26万キロまではノントラブルで、そろそろオーバーホールをしようと考えていたのですが、前回のタイミングベルト交換(18万キロ)時に作業に不具合があり、主治医の薦めで新品のエンジンに交換することにしました。その頃はN1エンジンが流通しはじめた時期だったこともあって、載せ換えることにしたんです。N1エンジンはブロック(リブ強化)やウォーターポンプが強化されており、カムプロフィールが少しハイカムになっています。修理といえば、他にもタービンが壊れてスカイラインGT-R(BNR34型)用に交換していますし、購入して2年目にパワートランジスタが壊れたときは、メーカーが原因追及するまで2週間も預けることになってしまいました。そんなトラブルを経験したので、予防整備を常に心がけていますね。少しでも危ないかなと思ったら、部品を交換してしまいます」。

オーナーの話を伺いながら、予防整備はすべての絶版車において重要なことだと再確認した。さらに話は2017年末にスタートした、NISMOによる純正部品再供給の話題へと及んだ。スカイラインGT-Rのオーナーとして、部品再供給に対してのホンネを伺った。

「今までは、もし部品がなくなってしまったらこのクルマに乗ることを諦めようと思っていました。しかし、部品が再生産されはじめたことで前向きになりました。仲間たちの反応も良いですね。以前、GT-R専門誌で部品再生産を検討しているという記事を読んだことがありました。スカイラインGT-R(BCNR33型)の開発も手がけたNISMOの松村さん(松村基宏氏)なら、いずれやってくれるだろうと思っていましたから。確かに、部品代は高価ですが、それでも供給されている部品でなんとか維持ができます。フロントフェンダーは、これまでインターネットオークションで見かけても、かなり高額で取引されていました。しかし、再生産されることで入手しやすくなるかもしれません。今後、各部品が充実していくことを期待したいですね」。

最後に、28年間ともに歩んでいる愛車との「これから」を伺った。

「これからも手放す予定はありませんが、実は、このスカイラインGT-Rへの思い入れはフラットなんです。言ってみれば“空気みたいなもの”かもしれませんね。一緒にいるのが自然、あたりまえの存在だけど、いないと大騒ぎなんです(笑)。エンジンを載せ換えたときは長期間手元になかったのに、忘れてつい車庫に行ってしまうこともありましたよ」。

まるで長く連れ添っているパートナーを謙遜するかのようで、言葉の端々に滲み出るオーナーとGT-Rとの一体感。最愛なのに飾らない気持ちでいられる関係に憧れを抱いてしまった。1台のクルマを長く乗り続けながらふと振り返ったとき、愛車とこんなふうに付き合えているのも、理想のカーライフの在り方といえるかもしれない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]