【世界の愛車紹介ドイツ編】アウトバーンでポルシェに対抗するためにチューニングされた450psオーバーの怪物トヨタ・MR-S
マリオ・ファーンバッハーは、7歳年上のレーシングドライバーであるドミニクの背中を追いかけて育った。ドイツの法律では、自動車運転免許をとれるのが18歳からなのだが、マリオは18歳になるや即座に取得。その記念に、兄からプレゼントしてもらったという大切な1台が、このZZW30型トヨタ・ MR-S(ドイツ名MR2)だ。現在25歳となるマリオは、7年経ったいまも大切にこのクルマを所有している。
実はこのクルマは、家業であるトヨタの自動車販売店に事故車両として入庫された前歴がある。それを兄のドミニク(前出の34GT-R Vspec2 Nurオーナー)が買い取り、後にしっかりと修復して乗っていたのだという。マリオは、そのMR-Sを「兄の愛車の洗車を手伝う条件」でプレゼントしてもらったと笑う。
「やっと自分の運転でどこでも移動できる自由、そして大好きな兄の愛車を譲り受けた喜びに、感慨もひとしおでした」と当時を振り返る。
ドライバーシートの背後にエンジンを搭載するミッドシップエンジンレイアウトで軽量ボディのMR-Sだけに、ドライビングフィールはまるでゴーカートのよう。幼少時代からカートやフォーミュラカーのレース活動をしてきたマリオにとってはまさにぴったりな、運転しやすいクルマだった。
しかし、アウトバーンで速度制限解除区間に入った途端に状況は一変する。真横を一気に駆け抜けていくポルシェ。そのパワー差は歴然であり、「ポルシェに対抗できる走りがしたい」と、チューンナップを思いついた。
その結果、ターボ化された1ZZエンジンは、ECUのチューニングとともに474psを発揮するまでに鍛え上げられた。ヘッドカバーにはファーンバッハーレーシングのロゴが光る。車重は920kgにまで軽量化。パワーウエイトレシオは1.94kg/psという怪物マシンに仕上がった。
ミッドシップエンジンのターボ化、特にMR-Sの場合においては、その車体のコンパクトさゆえにタービンや吸気を冷却するインタークーラーなど、後付けするパーツの装着スペース確保が困難である。マリオはインタークーラーをリアバンパー下に装着し、フロアー下からの空気の流れを確保する方法を選択。
さすがにオープンカーではリスクがあるということで、シート背後にロールバーを装着して安全面にも気を使っている。
Aピラーには3連の空燃比計、油温計、ブースト計が装着されている。
現在のタイヤはTOYO PROXES R888を選択。一般のスポーツラジアルタイヤよりもさらにスポーツ性能の高いセミスリックタイヤ、いわゆるSタイヤを装着して巨大なパワーを受け止める。マリオによれば、「まるでレーシングカーのようなドライブフィーリングが味わえる」とご満悦だ。
リアにはやはり、お約束のニュルブルクリンク・ステッカーを貼りつける。しかし、「(このクルマでは)ノルドシュライフェを走るにはパワーがあり過ぎて危ない」とマリオは笑う。実は兄と一緒に収集する日本車のコレクションの中には旧型であるAW11型MR2も所有するが、こちらは全てオリジナルの状態でチューンナップの予定はないそうだ。
実はマリオという名前は、任天堂のスーパーマリオブラザーズが大好きだった兄のドミニクが名付け親だという、ウソのようなホントの話。そのうえ、日本が大好きな兄の影響で、兄が日本から持ち帰ったドリキン土屋圭市氏の出演するベストモータリングのDVDを、幼少の頃から毎日のように観るという、『英才教育』を受けてきたそうだ。そうしたことから、兄と同様にドイツ車にはまったく興味がなく、休日には夢の日本車コレクションを駆り、兄や友人らと憧れのドリキン気分で峠を走るのが楽しみなのだという。
ライター:池ノ内みどり
ドイツ在住のモータースポーツジャーナリスト。DTMやFIAユーロF3、フォーミュラE、ニュルブルクリンクやスパ・フランコルシャンなど、ヨーロッパ各地の24時間レースといったメジャーレースはもちろん、VLN(ニュル耐久レース)や欧州内のGTシリーズも取材や撮影を行う。
撮影:ファビアン・キルヒバウアー
高校卒業後、ドイツ有名カメラマンのアシスタントを経て2006年より独立。現在ドイツ大手自動車メーカーをはじめ、自動車関連の撮影を中心に、ポートレートやドキュメンタリーの撮影も行う。
[ガズ―編集部]
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