時代を超えて若き25歳のオーナーとめぐり逢った2003年式ホンダ S2000(AP1型)
今、1980年代から2000年代初頭の国産車が「ネオ・クラシック」と呼ばれて人気を集めている。中古車市場では高値で取引され「旧車ブーム」として注目されているようだ。
さらに、スポーツモデルの人気を支えているのは、20代から30代の若い世代だといわれる。スープラやGT-Rなど1990年代に現役だったスポーツカーや、現行モデルのGR86やGRヤリス、ロードスター、スイフトスポーツなどが人気だ。
2021年に発売されたGR86の購入層は、20代が3割を占める。TOYOTA Gazoo Racing広報によると、2022年10月現在で1万3449台が販売されているという。
数年前までは「若者のクルマ離れ」といわれていたが、時代は変わりつつあるのかもしれない。クルマ好きの若い女性も増え、今は男女比も差がないように見受けられる。
そして若い世代のクルマ好きは、ドライブ以外でもクルマを楽しむ術を知っている。SNSを併用することで、クルマをコミュニケーションや自己表現のツールとして活用している。
今回の主人公は、25歳の男性オーナー。愛車はホンダ S2000(AP1型)だ。
愛車のS2000は、手に入れてから2ヶ月が経過したところだという。走行距離は約500キロ。デジタルメーターパネルのオドメーターは、約13万キロを表示していた。
オーナーの生まれた1997年といえば、2000年を目前に世紀末ムードが高まっていた。
この年は「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーとともに、世界初のハイブリッド車としてトヨタ プリウス(NHW10型)がデビュー。
このほかにも「ネオ・クラシック」として高い人気を誇るホンダ シビックタイプR(EK9型)がデビューした年であり、中古車市場において高値で取引されている多くの国産スポーツモデルが新車で手に入れることができた時代でもあった。
また、世代を超えてクルマ好きに愛され続けるレースゲームの名作「グランツーリスモ」が発売された年でもあった。この第2作目にホンダ S2000も登場している。
ホンダ S2000(AP1型/以下、S2000)は、同社の創立50周年記念モデルとして1999年にデビュー。本田宗一郎によって世に送り出された「Sシリーズ」の系譜を継ぐS2000は、先代のS800からは29年ぶりとなるFRスポーツの復活となった。
当時の排出ガス規制値をクリアしながら高性能を実現。新世代のスポーツカーであることから、コンセプトは「リアルオープンスポーツ」と銘打たれた。開発リーダーはNSXやインテグラタイプRなどを手がけた上原繁氏が務めた。
車名の「S」は「SPORTS」の頭文字。「2000」は2リッターの排気量を示しながら、新世紀の到来もイメージさせた。デビュー後は内外装の変更や排気量アップなどのマイナーチェンジを繰り返しながら、2009年まで生産された。
S2000のボディサイズは全長×全幅×全高:4135×1750×1285mm。排気量は1997cc。「AP1型(2リッターモデル)」に搭載される直列4気筒DOHCエンジン「F20C型」は、VTECを搭載したNAエンジンで、最高出力250馬力を誇る。さらにレッドゾーンは9000回転を許容するという超高回転型エンジンである。
運動性能も高く評価され、国産のコーナリングマシンとして、その名が今も挙がる。新開発の骨格構造「ハイエックスボーンフレーム」によって、クローズドボディと同等以上のボディ剛性を得た。そして、フロントミッドシップレイアウト(FRビハインドアクスル・レイアウト)にすることで、FRスポーツとして理想的な前後重量配分50:50を実現している。
オーナーのS2000は2003年式だ。マイナーチェンジされた2003年から2005年まで販売され、2リッターモデルの「AP1型」として最終のモデルにあたる。通称「04モデル」と呼ばれるこのモデルでは、タイヤ・ホイールがサイズアップされ、前後ライトやバンパー・デジタルメーターのデザインなどが刷新された。
この「04モデル」の後に「AP1型」から「AP2型」へのマイナーチェンジが行われている。排気量は2156ccにアップされ、エンジン型式は「F22C型」となった。
エンジンの最高出力やレッドゾーン・圧縮比などはAP1型よりも落とされたが、トルクアップを重視した仕様になった。また、スロットルシステムもアクセルワイヤー式スロットルから電子制御スロットル(ドライブ・バイ・ワイヤ)に変更されている。
1モデルでありながら、2つの型式にそれぞれの魅力があふれるS2000。
なお、2020年には生産20周年を記念した純正アクセサリーパーツが発売されて話題となった。生産から20年以上経過しても熱烈なファンに支えられ、幅広い世代のクルマ好きを魅了してやまない。
そんなS2000を相棒として迎えたばかりのオーナーは、自動車販売会社に勤務している。仕事でさまざまなクルマと接し、ときには誰もが驚くような名車を運転する機会もあるという。仕事もプライベートもクルマに囲まれる日々。そんなオーナーのクルマ好きを育んだ背景にまずは迫ってみたい。
「クルマ好きになったきっかけは戦車でした。高校時代に好きだったアニメ『ガールズ&パンツァー』で、キャラクターが実在の戦車を操る場面を通じて、機械としての戦車の魅力を知りました。
無骨さや無駄を削ぎ落とした『戦うための機能美』や、エンジン音や主砲の音に個性がある点に魅力を感じました。そこから模型に夢中になり、塗装にまでこだわって作り込むようになりました」
入口は戦車の「機能美」だったというオーナー。運転免許取得後は、おのずと走るための機能美を備えたスポーツモデルを選んだようだ。最初の愛車は日産 180SX。このクルマにどんな魅力を感じたのだろうか?
「パワー以外に楽しめる点が多かったです。軽量なボディと回頭性の良さが魅力で、クルマを操る楽しさを教えてもらいました。メンテナンスもしやすく、整備の基本は180SXで覚えました。まさに『人生観を変えたクルマ』だと思っています。
それと 180SXは、リトラクタブルヘッドライトを好きになったきっかけのクルマでもあります。この先もし機会があれば、またリトラクタブルヘッドライトのクルマを手にいれたいですね。AE86(トレノ)に乗ってみたいですし、フェラーリ F355にも憧れています」
クルマ好きが高じて現在の仕事に就いたオーナーは日々、国内外のさまざまなクルマに接している。そこで、これまでもっとも印象に残った1台を尋ねてみた。
「ポルシェ 911GT3(997型)です。エンジンってこんなに回るんだと感動した1台ですね。私はフィーリングを感じられるクルマに惹かれるようです。自分の運転にクルマが応えてくれるようなクルマが好きかもしれません」
たしかに、高回転型エンジンや剛性感のある6速MTのシフトフィール、ダイレクトな操作感などフィーリングにこだわってつくられたS2000は、オーナーにぴったりかもしれない。実際に購入の決め手となったポイントは何だったのだろうか?
「最初はオープンカーを所有してみたいと考えていたんですが、車種がたくさんありすぎて、自分の好みがわからなくなってしまいました(笑)。あらためて調べているとS2000が目に留まったんです。オープンでありながらボディ剛性もしっかりしていて、走りに特化している点に興味を持ちました」
S2000には2リッターモデルのAP1型と2.2リッターモデルのAP2型があり、2モデルそれぞれに異なった走りの質感を持っている。オーナーがAP1型を選んだ理由は?
「年式の新しいAP2は魅力的でしたが、やはり一度は9000回転まで回るF20C型エンジンを味わってみたかったからですね。それから、電子制御の少ないクルマが好みという理由もあってAP1にしました」
この個体にめぐり逢うまでの経緯を伺ってみた。
「1ヶ月ほど探しまわりました。納得のいく個体がなかなか見つからず、ようやく見つけたのがこの個体です。走行距離が13万キロの割に高いな…という気持ちもありましたが、整備記録簿もしっかりと残った個体だったので、良い買い物だったのかもしれません」
現在、S2000の中古車相場はどの年式も高騰している。しかも生産から20年以上が経過しているので、10万キロを超えている個体がほとんどだろう。
コンディションもさまざまで、例えば走行距離が3万キロの個体でも、長期間エンジンを回していなかったために高回転まで回らなくなるなど、コンディションが悪化していることも少なくないようだ。
その点で整備記録簿が残り、13万キロという距離を乗られていたオーナーの愛車は、エンジンを定期的に回し、丁寧なメンテナンスがされていた個体の可能性は高い。
良い個体とめぐり逢えたオーナー。S2000を所有してみて気づいたことや変化はあったのだろうか。
「やはりエンジンがもっとも好きです。仕事で多様なクルマに接していますが、あんなに軽く回るエンジンがあるんだなと驚きました。それと最近は、オープンにしてドライブする機会も増えました。仕事終わりに1〜2時間程度のドライブであれば疲れることもないですし、良い気分転換になっています」
オープンエアを感じると同時に、エンジンサウンドもダイレクトに堪能できるのもS2000の魅力のひとつかもしれない。仕事の疲れや嫌なできごとも、風が吹き飛ばしてくれそうだ。
S2000といえば、アフターパーツが豊富な車種でもある。この個体は、ホイール以外は純正だそうだが、今後自分好みにする予定は?
「しばらくは素の良さを楽しんでいたいです。そのうちシートはRECARO製に交換の予定です。メーカーが『完成』としている状態には多くの気づきがあるので、じっくりと向き合っていけたらと思います」
オーナーとS2000との暮らしはまだ始まったばかりだ。最後に、今後愛車にどのように接していきたいかを伺った。
「このクルマの力を引き出せていないので、運転技術を磨きつつ9000回転回る名機・F20C型エンジンを維持していきたいと思います。しかし、S2000は専用部品が多いうえに廃盤部品も多いクルマです。特にAP1は……。いつまで乗れるかわからないですが、できるだけ長く乗りたいですね」
2020年にアクセサリーパーツがリリースされたいっぽうで、クルマの生命を左右するような重要な部品は、次々と廃盤になっている現状がある。オーナーによるとS2000はパワーステアリングの故障が多く、AP1型の部品はすでに入手困難とのこと。メーカーには全モデルの部品供給を望みたい。
S2000のような色褪せることのないスポーツモデルには、手が届くならばできるだけ若いうちに乗っておいたほうがいいかもしれない。クルマを楽しめる時間は意外と短い。特に時間・体力・気力ともに充実する20代から30代にかけては、もっともエネルギッシュにカーライフを楽しめる時期ではないだろうか。
そしてスポーツカーを所有した経験は、価値観や思考までも豊かにしてくれる。オーナーがS2000とともに過ごした時間も、今後の人生のどこかにつながっているにちがいない。
この先の自動車を取り巻く環境がどう変化するのか、内燃機関のクルマに乗り続けられるのかもわからないが、S2000を愛おしげに眺めるオーナーの姿に「最愛の1台と末長く暮らせる社会であるように」と、願わずにはいられなかった。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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