希少車が好き!ロータス・ヨーロッパSと楽しむエンスージアストな日々

あえて希少車を選ぶオーナーは、いかなる気概でカーライフを送っているのだろうか。

ここに佇む1台のスポーツカーは、ロータス・ヨーロッパS(以下、ヨーロッパS)。コミック「サーキットの狼」で知られるあのヨーロッパの名を冠したクルマである。2006年から約4年間しか生産されなかったため、世界中でもきわめて個体数の少ないモデルだ。

全長×全幅×全高:3900x1714x1120mm。2リッターの水冷直列4気筒DOHCターボは200馬力を発生。車重は995kgの軽量ボディを与えられている。さらにエリーゼやエキシージとはキャラクターが異なり、フルレザーインテリアやエアーコンディショナーが標準装備されたヨーロッパSは「ビジネスクラスGT」と呼ばれ、上質なGTとして好評を博した。生産台数は、約450台といわれる。

「私は希少車が好きで、このヨーロッパSを選びました。しかし日本では、ヨーロッパといえば『サーキットの狼』に登場する先代モデルを連想されてしまうのが正直寂しかったりもします。悲運の名車ではないでしょうか」。

そう話す34歳の男性オーナーが、今回の主人公。所有する個体は2006年式だ。ボディカラーは、カタログカラーでオプション設定となる「ポーラ・ブルー」で、品のあるメタリックブルーだ。モディファイは、オーディオデッキの交換とポジションライト等をLED化されているのみで、ほぼオリジナルを保持しているという。彼はどんなきっかけでクルマを好きになり、このヨーロッパSを手に入れるに至ったのだろうか。まずは、クルマ好きになった経緯を伺うことにした。

「当時は中学3年生だったんですけど、兄の影響でTVアニメ版の『頭文字D』を観て影響を受けました。ハチロクを買うことはありませんでしたが、このアニメを観てからスポーツカーが好きになりました」。

オーナーは18歳で運転免許取得後、ホンダ車を乗り継いできた。現在も普段の足としてビートを同時所有している。初めての愛車はインテグラSiR 4ドアタイプ(DB2型)。その後はビートとCR-Xデルソルを同時所有したり、インテグラ タイプS(DC5型)を経てビートを乗り継ぎ、初の輸入車としてヨーロッパSが加わった。

「最初に乗ったクルマがホンダ車だったこともあり、NAエンジンが好きになりました。今もし買い換えるとしたら、現行シビックのハッチバックかシティ・カブリオレがいいですね。シティは一時期本気で考えたことがあったんですが、部品供給が厳しいので断念しました」。

ここまでなら紛れもなくホンダ党に映るが、エンスージアストとして開眼したのはいつだったのだろうか?

「大学生になった頃でした。ある日書店で、1冊の本に出会いました。清水草一さんの『VIVA!スーパーカー貧乏』というムック本に掲載されていたスーパーカーを観て衝撃を受けました。今まで知らなかったデザインのクルマに魅了されてしまったんです。ロータス・エスプリがこの本に載っていて、ここでロータスというクルマを認知しました」。

輸入車に魅せられ、ミーティングにも積極的に参加するようになったオーナー。さまざまな輸入車オーナーと交流していくうちに「希少車好き」という価値観も醸成されたのかもしれない。では、どのようなオーナーと交流があるのだろうか?

「スーパーカー世代の方が多いですね。乗っている車種もさまざまですが、皆さん熱量が高く心意気のある方ばかりです。彼らはどんなクルマに乗っていようが『人からどう見られるか』をあまり気にしません。見た目や改造度、ステイタスでオーナーを見定める傾向は今も根強いと思うのですが、そうした『日本人らしい価値観』とは別の感性かもしれません」。

懐の深いオーナーが多いのだろう。人柄のいい仲間に囲まれ、充実したカーライフを送っている様子が伺える。続いて、オーナーの好きな車種を尋ねてみた。

「ランボルギーニ・シルエットが好きです。世界で50台ほどしか生産されませんでした。それからフェラーリだと400iやディーノ308GT4です。最新のクルマでは、レクサスLC500hはかっこいいと思います。私は、他人が選ばないクルマが好きなんです。ヨーロッパSを選ぶ際の基準も『普通の人は選ばないクルマ』でした」。

オーナーはいわゆる「個性派」なのかもしれないが、希少車を愛することは、世間のものさしでは測れない魅力に気づけることでもあるのではと、彼の言葉から感じる。単に「珍しいものが好き」とは違うのだ。

続いてヨーロッパSとの出会いを伺った。

「当初はフェラーリ・モンディアルTカブリオレか、このヨーロッパSを買うか悩んでいました。しかし、スーパーカーはやはり厳しいなと思い、発売が予定されていたホンダ・S660を購入しようと貯金を始めていました。発売時期が伸びる中、輸入車雑誌の特集ページに希望していた色のこの個体が掲載されており、価格もギリギリ範囲内だったので、さっそくショールームに行き即決してしまいました。このヨーロッパS自体、今後出会うことはないだろうと思ったからです。実は、私が購入したわずか1時間後に、別の方の購入希望があったと聞かされました。もしあと1時間遅ければ、このヨーロッパSは他人のものになっていたかもしれないですね(笑)」。

毎回感じるのだが、愛車の方から選んで嫁いでくるオーナーにはこうした逸話が多い。彼もそんなオーナーの1人なのだろう。さて、ヨーロッパSを所有してみて感じた変化はあったのだろうか?

「とにかく修理が多くなりました。買った時点で、ヘッドライトの付け根のプラスチック部分が折れましたからね。他にも送風のコンピューターの故障、屋根の内張の剥がれ、左ドアの窓ガラスが上がらなくなったりして、自分で直したり周囲の助けでなんとか凌ぎました。幸いなことに、ラジエーターは前のオーナーさんが交換してくれていたので、大修理は免れています」。

相次ぐ修理に嫌気がさすことはなかったのだろうか?

「壊れても走れるという耐性があったため嫌気がさすことはありません。以前、ビートのエアコンが壊れていたときは2シーズン耐えたので…。これも慣れなんでしょう(笑)」。

ヨーロッパSの、最も気に入っているポイントはどこか伺ってみた。

「やはりデザインです。エリーゼでもエキシージでもない、どことなく日本車っぽい流線型のデザイン。DC5型インテグラの涙目形状を思わせるヘッドライトは、どこか日本っぽさを感じます」。

今までに、同じヨーロッパSに遭遇したことはあるのだろうか?

「実は、イベント以外でも結構な頻度で遭遇してしまいます。この3年間に何度も見かけていますね。インポーターであるLCIさんに確認したところ、日本には当時100台弱を輸入したらしいです。その中で何台生き残っているかは不明ですが、中古車のデータや『みんカラ』のユーザー人数から推測すると、確認できているだけで、約20台のヨーロッパSが元気に日本の道を走っているのではないでしょうか」。

現役の1台として、今後維持していくうえでも部品供給が鍵となってくるだろう。そこで、ヨーロッパSの部品供給の現状も伺ってみた。

「エンジン以外の基本的な部品はエリーゼと共通なので入手可能ですが、外装の部品が入手困難です。ヨーロッパSの外装はリアが一体成形になっているんですよね。リアがパカッとプラモのように外れる形状なんです。それから、フロントタイヤのサイズがなかなか見つからないです。唯一、マレーシアのタイヤメーカーにサイズがあるんですよ。ロータスの親会社がかつてマレーシアにあった縁かもしれないですね」。

最後に、今後このヨーロッパSにどう接していきたいかを伺った。

「今はできる限り大切に乗っていきたいと思っています。修理が一段落ついたら、このクルマで遠くまで旅をしたいですね。もちろんクルマ関連のイベントにも参加したいです。イベントに出たときって、さまざまなオーナーと会話を交わしますが、結構クルマと関係ない話もしてしまいます(笑)。結局は相手がどんなクルマに乗っているかではなく、クルマ好き同士だからこそ会話が楽しいんです。そうでないと『いくらしますか?』『壊れますか?』と、クルマ好きとして悲しくなるような言葉を投げかけてしまう。ヨーロッパSは大切な愛車ですが、このクルマを通じてさまざまなオーナーとの出会いも大切にしていけたらと思います」。

ミーティングに行くのはクルマ好きだからこそだが、実は「クルマを好きな人が好き」だから行くのかもしれない。オーナーには、貴重なヨーロッパSとこれからも充実したカーライフを過ごしてほしいと、願わずにはいられない。そして思いがけず、クルマを通じた人との関わり方を考えさせられる取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]