71歳のオーナーが孫娘の誕生日に偶然手に入れた運命の愛車、2009年式マツダ・ロードスター 2.0 S RHT(NCEC型)
勤め人として立派に勤めあげ、定年退職を迎えてから「第二の人生」がはじまる。
読書をしたり、旅行に出掛けたり、新たな仕事を求めて働いたり…。一念発起して起業してもよいだろう。
しかし、いざ「第二の人生」がスタートすると、仕事に没頭してきた人ほど自分が何をしたらよいか分からず、漫然とした日々を送るケースもあるという。「第二の人生」とは、これまでがむしゃらに働いてきた自分へのご褒美ではないだろうか?せっかく手に入れた自分だけの時間なのだ。どうせなら思う存分に謳歌したいと誰もが思うだろう。
今回は、長年胸に秘めていた夢と憧れを実現するべく行動に移し、充実した第二の人生を送っているオーナーを紹介したい。
「このクルマは、2009年式マツダ・ロードスター 2.0 S RHT(NCEC型/以下、ロードスター)です。手に入れたのは6年半前です。現在、この個体の走行距離は12万6千キロほど。私が手に入れてからは8万4千キロ走りました」
ロードスターとしては3代目、クルマ好きのあいだでは「NCロードスター」などと呼ばれるこのモデルがデビューしたのは2005年のことだ。実は、約10年間も生産され、歴代ロードスター史上、もっともロングセラーモデルでもある。RX-8とプラットフォームを共有化したことで、先代モデルにあたるNA型およびNB型よりもボディは大柄になったが、制約が伴ったなかでも開発陣の意地と執念ともいえる軽量化に取り組んだ結果、重量増は最小限に抑えられた。ちなみに、オーナーが所有する「RHT(パワー・リトラクタブル・ハードトップ)」は、デビューから1年後の2006年に追加されたモデルだ。当時、電動ハードトップ仕様のクルマとしては、世界最速(12秒)で開閉できたことでも知られている。
ロードスターは、2005年には「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」として累計生産台数70万台、2007年には累計生産台数80万台を達成し、いずれもギネス世界記録に認定された。その後、2011年には累計生産台数90万台、2015年には現行モデルとなるND型へとフルモデルチェンジを遂げた。2016年に累計生産台数100万台を達成。現在もその記録は更新され続けている。
ロードスターのボディサイズは、全長×全幅×全高:4020×1720×1260mm。「LF-VE型」と呼ばれる、排気量1998cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は6速MTが170馬力、6速ATは162馬力を誇る。なお、オーナーの個体は後者の6速AT仕様だ。
世界中のクルマ好きから愛されているロードスター、では、なぜNCを手に入れようと思ったのだろうか?
「所有していたセダンがエンジンブローしてしまい、2年ほどクルマを所有しない生活をしていました。その後、一人娘に子どもが生まれることが分かり、嫁ぎ先が私の住まいから離れていることもあって、初孫に会いに行くためのクルマが必要になったんです。車種を何にしようかと思案していたときに、職場でユーノスロードスター(NA型)に乗っている人がいることを知ったんですね。私は今年で71歳になるんですが、若い頃に2シーターのオープンカーに憧れを抱いていたことが不意にフラッシュバックしたんです。『これはもう、買うしかないぞ!』と決意した瞬間でしたね」
ついに、オーナーが長年憧れてきた夢を現実にするときが訪れたのだ!
では、現在の愛車とはどのようにして出会ったのだろうか?
「中古車検索サイトで、自宅から最寄りの販売店にあるロードスターを探してみたとき、唯一ヒットしたのが現在の愛車です。あとで分かったことなんですが、在庫リストにアップしてから早い段階で私が見初めたようです。もう、一目惚れでしたね。とはいえ、即決するわけにはいきません。購入するには妻の了承を得なくてはなりませんから、いったん帰宅して、クルマの画像と動画を見せたところ『いいんじゃない?』と言ってくれたので…。生命保険を解約したお金で購入しました。いま思えば、本当に運と縁に恵まれましたね」
奧さんに内緒でクルマの購入計画を進めたことが発覚したり、事後報告したのち「モメにモメた」という事例は枚挙にいとまがない。オーナーのように「筋を通す」ことで、(一発勝負でもあるのでリスクは伴うが)結果として幸せなカーライフが送れるのかもしれない。
こうして、若い頃からの夢だった「2シーターのオープンカーに乗る」ことを実現させたオーナー。実際にロードスターを所有してみて日常生活に変化はあったのだろうか?
「ひと言でいえば『人生が変わりました』と思います。大げさでなく、本当にそうなんですね。ディーラーで偶然出会った、私よりずっと年下の同型のロードスターオーナーさんと意気投合し、2人でミーティングやツーリングに行ったこともありました。そのうち、仲間が開催してくれている、日曜日早朝にロードスターで都内を走る集まりに参加するようになったり、RCOJ(ロードスタークラブオブジャパン)に入会して大小さまざまなイベントに参加してみたり…。このロードスターのおかげで、世代や立場を超えてたくさんの友だちができました。それから、このクルマの前オーナーさんを知る人にも出会えたりしました。本当に不思議なことですが『ロードスター』という共通言語さえあれば、初対面でも長年の友だちのように楽しく会話ができるんです。私にとって、これは本当に大きな財産となりましたね」
ロードスターオーナーには、歴代を問わず、お互いのクルマを認め合い、尊重し合う文化があるように思う。それだけに「みんなでロードスターというクルマを大切に育てていこう」という想いをひしひしと感じる場面に遭遇することが少なくない。これは、マツダというメーカーがロードスターオーナーを尊重し、積極的に交流を図っていることも要因のひとつかもしれない。
ところで、オーナーのロードスターは、ガレージに厳重に保管されているのではないかと思えるほど美しく磨き上げられている。しかも、ボディパネルの表面だけではない。パネルの裏側や、エンジンルーム、ドアの内側など、日頃から気を遣っていなければすぐに汚れてしまうような箇所も、およそ10年前に造られたクルマとは思えないほどの汚れが見当たらない。これほどのコンディションを維持するために、相当な労力を掛けているように見受けられるが…。
「このクルマは青空駐車ですよ(笑)。私も古希を過ぎましたし、いつかはロードスターに乗れなくなるときが訪れるかもしれません。そのときは愛娘に託したいと思っています。実は、ナンバーも娘の名前にちなんだものを選んであるんです(笑)。我が子に引き継ぐときのことを考えて、クルマはベストコンディションを維持してあります。一昨年には、ゴムパッキン類・樹脂パーツ・ATF交換等経年劣化するパーツはすべて交換しました。購入以来、修理やメンテナンス、購入したパーツの帳票や取説を時系列にファイリングしています」
オーナーが持参してくれたファイルを見て驚いた。ここまできっちりとオーナー自ら愛車の記録簿を残しているケースはなかなかない。ファイルに記載されてある内容をすべて羅列したらかなりの文字数になるだろう。…というより、掲載不可能なほどのボリュームかもしれない。このファイルをクルマ好きが見たら、誰もが「大切に乗られていますね」と絶賛するだろうと、同時に「とても真似できない…」と思うはずだ。オーナーの、ロードスターに対する深い愛情がひしひしと伝わってくる。
肝心なことを伺っていなかった。クルマを購入するきっかけにもなった「初孫」は無事に誕生したのだろうか?
「ええ、無事に生まれましたよ。ロードスターを納車した日にその足で娘が入院している病院へ向かっているとき、『生まれました!』と娘婿から連絡をもらいまして。まったくの偶然ですが、納車日と孫の誕生日が同じ日になったんです。実際に対面してみて、何と可愛いことか!!そんな孫娘も、早いもので6歳になりました。いまでも2ヶ月に1度くらいの頻度で会いに行きますが、娘に続いて世界一の美女ですよ(笑)」
奇しくも、ロードスターの納車日と孫娘の誕生日が同じ日になったオーナー。家族を養い、仕事を頑張ってきたご褒美に、第二の人生を謳歌するうえで、これ以上ないほど最高のプレゼントになったはずだ。そんな充実した第二の人生を謳歌しているオーナーだが、最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。
「いつまでもこのロードスターに乗りたいので、自分自身の健康を保つことにも意識を向けたいですね。これは私の持論なんですが、『クルマ好きの愛車にはオーナーの人柄が表れる』と思っています。自分がロードスターに乗れなくなるときが訪れたとしても、愛車には恥ずかしい思いだけはさせたくないと思う今日この頃です。そのために、常にベストコンディションを保っていたいのです。本音では、いつか自分の娘にこのロードスターを託したいのですが…。現時点ではその返答が芳しくないので、ちょっと参っています…。孫娘が運転免許を取得するようになるまであと12年、それならばいっそ、彼女に託してもいいのかなあと思いはじめているところです。でも、その前に娘にも乗って欲しいのが本音かな・・・」
若い頃の夢を現実にしたオーナーのところに嫁いで来たロードスターが、孫娘の誕生日と同じ日に納車されたのは、単なる偶然かもしれないし、本当に運命なのかもしれない。
クルマは機械だ。感情は持ち合わせていない。しかし、オーナーの想いに応えてくれる瞬間があるように思えてならない。少なくとも、オーナーの深い愛情は伝わっているはずだ。
これほど大切にされているロードスターが、最愛の娘から孫へと託されていくことを願ってやまない。その様子をぜひとも取材してみたいと思う。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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