【世界の愛車紹介ドイツ編】バイエルンに輝くR34GT-Rの最終進化型(Nissan Skyline GT-R R34 V SpecⅡ Nür)
少年時代、毎日のように熱中して遊んだグランツーリスモ。そこに登場する見たこともない日本車は夢のようなエキゾチックカーとして心に刻まれ、日本から遥か遠く離れたドイツの地方都市に住む少年を瞬く間に魅了した。
「いつか大人になってお金を稼げるようになったら、絶対に実車を手に入れるんだ」と、そのとき少年は強く心に誓ったのだった。
今回登場する日産・スカイラインR34 GT-R VスペックⅡニュル(右ハンドル)のオーナーは、ドイツ南部バイエルン州のアンスバッハに住むドミニク・ファーンバッハさん、32歳。トヨタ、セアト、そしてヒュンダイの正規ディーラーの役員としての肩書とともに、ファーンバッハレーシングの代表としてレースにも参戦している現役レーシングドライバーだ。そして、ドイツ人ながらこれまで一台もドイツ車を所有したことがないという根っからの日本車マニアなのである。
この「R34 GT-R VスペックII ニュル」とは、1999年1月に発売されたR34型GT-Rがいよいよ生産終了されるにあたり、テスト走行で使用してきたドイツ・ニュルブルクリンクサーキットから「ニュル」の名を施され、1,000台限定で発売された最終特別限定モデルである。そのスペックはもちろんだが、発表と同時に完売したという逸話を持つ。
特長としては、ヘッドカバーにゴールド塗装されたN1仕様のRB26DETTエンジンが搭載されていること。エンジンパーツには強化シリンダブロックやバランス取りされた強化ピストン/コンロッド、N1タービン(メタル製)などが採用され、高回転域で爆発的なパワーを発揮する。まさにN1耐久レース用エンジンと同等のポテンシャルを発揮するモンスターエンジンなのである。
そんなエンジンポテンシャルの極みを表現するのがスピードメーター。専用の300km/hフルスケールが装備された。
ファーンバッハさんは、他にもR32 GT-R V SpecⅡやスバル・インプレッサ 22B STi Version、三菱・ランサーエボリューションVIトミー・マキネンエディション、ホンダ・NSX(NA2)など、まさに垂涎ものの名車の数々11台を、同じくレーシングドライバーである実弟マリオと一緒にコレクションしている。そのうち、1台を除いては今なおフルノーマルのままで乗っているというから驚きだ。一か所たりともモディファイされていないのである。
「日本から届いたその状態のものが良い」のだと力説するファーンバッハさん。それ程にも日本車には強い思い入れがあるがゆえに、自国ドイツメーカーのクルマには全く食指が動かないという。
ニュルブルクリンク24時間レースやノルドシュライフェで開発された『伝説のモデル』とあって、オファーがあった際には購入を即決した。実際に所有してからは、レースのない週末に恋人や仲間らと近郊をドライブすることがなによりの楽しみだという。急なカーブの連続する峠道でそのシャーシの強さを、そして地面に吸い付くようなシャープなハンドリングを堪能するのである。しかし、驚くことに、この愛車ではニュルブルクリンクを走ったことはない。というのも、プロドライバーとしてニュルブルクリンクの過酷さを熟知しているからだ。大切な愛車はあえて公道だけでそのポテンシャルを楽しむに留めているそうだ。
一番の悩みは保険などの高額な維持費だというが、大切な宝物とあって、絶対に手放すつもりはない。そして、正規自動車販売代理店を経営しているものの、トヨタ車以外はそれぞれのメーカーの正規代理店に持ち込み、そのメーカーのプロに定期的に整備・点検に出すというこだわりようだ。
ところで「ドミニク・ファーンバッハ」という名前を読んでピンときた方もいるだろう。彼はスーパーGTシリーズへの参戦経験がある。2007年に谷口信輝選手のペアドライバーとして第5戦より参戦(ユンケルパワータイサンポルシェ)。第7戦もてぎと第9戦富士スピードウェイでは優勝もしている。
そのときに得た報酬で、当時トヨタ・スープラ(JZA80)を購入したのが最初の日本車だ。このときの震えるような喜びは、いまもしっかりと心に刻まれているそうだ。そんな彼の日本デビューを支え、ペアを組んでいた谷口選手は、今もなお最も尊敬するカリスマであり、憧れの先輩ドライバーなのだという。
(テキスト: 池ノ内みどり / 撮影: ファビアン・キルヒバウアー)
[ガズー編集部]
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