幼少期に父親が乗っていたクルマを人生初の愛車に。2000年式日産ステージア オーテックバージョン 260RS (WGNC34型)
愛車は時に“人生を決定づけた存在”になることもある。例えば、愛車の存在がきっかけとなり、結婚することもある。今回の取材であらためて感じた。「愛車」という存在は、人生や生活を豊かにしてくれる、かけがえのない相棒なのだと。
今回は、日産ステージア オーテックバージョン 260RS (WGNC34型)を所有するオーナーだ。以前取材した日産ステージア25RS/S、日産ローレル2000Eメダリスト、日産スカイライン25GT-X ターボ改のオーナーの奥様だ。つまり、ご夫婦でそれぞれ別のステージアを所有している(!)ことになる。
ご主人のローレルを取材後、奥様のステージアも取材することができた。
ご夫婦それぞれの愛車で取材先まで足を運んでいただいたことに、改めて感謝の気持ちでいっぱいだ(Kさんご夫妻、本当にありがとうございました)。
まずは、美しく磨き上げられたステージアのオーナーである奥様に、愛車のプロフィールを伺った。
「このクルマは、2000年式の日産ステージア オーテックバージョン 260RS (WGNC34型/以下、260RS)です。このクルマを所有してもうすぐ8年目です。現在の走行距離は約9.5万キロ。5.4万キロで購入しているので、8年間で4万キロほど走っています。ボディカラーはブラックパール。私で2オーナー目と聞いています」
日産ステージアは1996年にデビュー。シリーズ2代にわたって2007年まで生産されたステーションワゴンだ。1990年代は、メルセデス・ベンツEクラスワゴンやボルボエステートなど、輸入車のスタイリッシュなワゴンが次々と発表された。国内メーカーも続々と新型のステーションワゴンを発表。ワゴンブームが訪れていた。なかでもステージアは使い勝手の良さに加え、高級感と高い走行性能で人気モデルとなった。
オーナーが所有する「オーテックバージョン260RS」は、1997年に発売されたオーテックジャパン(現 日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社)が手掛けたステージアの特別仕様車だ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4885×1755×1510mm。駆動方式はFR。排気量2568cc、直列6気筒DOHCツインターボエンジン「RB26DETT型」の最高出力は280馬力を誇る。スカイラインGT-Rと同じエンジンを搭載していることで、ハイパワーを支える車体にも剛性の強化が施されている。なお、トランスミッションは5MTしか設定されていない。
生産終了した今も、スポーツモデルを好むユーザーから厚い支持を得ている。
この硬派なモデルに、朗らかで素敵な女性が乗っているギャップに驚いてしまうが、まずはオーナーの原体験を紐解いていこう。
「私の祖父や父がクルマ好きで、小さい頃からさまざまなクルマがそばにありました。R32型・R33型のスカイラインGT-Rや、ワゴンR、レガシィ、フォルクスワーゲン ポロなどに乗っていた記憶があります。バイクも大好きで、オフ会に連れて行ってもらったこともありました。ミニカーもたくさんあって、魔法少女などの女の子向けのおもちゃ感覚で遊んでいたことを覚えています。私自身も16歳から18歳くらいまでバイクに乗っていた時期があります」
やはりオーナーの人生において影響を受けたクルマといえば、この260RSになるのだろうか。
「そうですね。私が小学生の頃から高校生になった頃まで8年くらい乗っていました。もともと乗り替えが多かった父なので、1年以上乗ったクルマは数台でした。相当好きだったんでしょう。忘れられない思い出が数多く残っているので、大きな出会いであり、きっかけでしたね」
オーナーの父親が乗っていた260RSはどんな個体だったのだろうか。
「260RSの前期型です。ボディカラーは黒で、少し紺色が入ったような色ですが、色の分類としては黒です。富士スピードウェイに行ったり、アウトレットへ買い物に行ったりしました。両親の実家へ帰省するときも260RSだったこともよく覚えています」
家族の思い出とともに、オーナーの心に深く刻まれている260RSとの思い出。中でも印象的だったエピソードを尋ねてみた。
「父が260RSを売却することを知って、悲しくて大泣きしたことですね。今までそんなに泣いたことがなかったので、父も驚いたみたいです。でも今となっては、8年間所有してくれたことに感謝しています」
自身で愛車を購入する際は、260RS以外の候補は思い浮かばなかったのだろうか?
「もともと、一度決めたことは譲らない性格なんです。もう大好きな260RSは帰ってこない。だったら“将来私が乗らなきゃ”と思ったのが高校生の頃でした。本当は、父と同じ260RSの前期型が好きなのですが、中古市場に良い個体がなかったので後期型に乗ろうと。運転免許も、クルマが維持できる経済状況になったらと考えていたので、実際に取得したのは25歳だったんですよ」
愛車探しは、教習所と同時進行だったそうだ。愛車との出会いはどんな状況だったのだろうか。
「中古車サイトでこの260RSを見つけたんです。後期型のフルノーマルで、こんなに状態が良い個体は滅多に出てこないと思いました。そこで、クルマに詳しい父に同行してもらい、現車確認に行ったんです」
愛娘が、かつての愛車と同じクルマに乗ろうとしている。オーナーの父親は当時どんな心境だったのだろうか。
「当時は、私がそこまで260RSが欲しいと思っているとは知らなかったようです。呆れている感じでしたね。『本当に買うの?』みたいな様子でした(笑)。最初のうちは他のグレードをすすめてきたり、リアルな維持費を算出して『もう一度考え直したほうがいい』と説得されたりもしました」
こうして、買う気満々で店を訪れたオーナーだったが…その日は雨。260RSは屋内展示となっていた。
「必ず試乗したほうがいいと父がいうのですが、その店には『商談中』のシステムがなく、手付金を支払わないと優先順位が1位にならなかったんです。そこで、最終的に買わなくても手付金は支払うということにしました。翌日が教習所の最終試験だったので『明日絶対に合格してきます!』と、お店のスタッフさんに伝えて帰りました」
そして無事に合格し、納車日を迎えたオーナー。記念すべき納車日を振り返ってもらった。
「免許はまだ手元になくて、試験の合格証を持って行ったのを覚えています。さすがに運転はまだ怖かったので、父に運転してもらいました。『あのとき(自分のステージアを売却したとき)はごめんね。(260RSを手に入れることができて)良かったね』みたいな言葉を掛けてくれました。かつて、私が悲しんだことを引きずっていたのかもしれません(笑)」
初心者で280馬力のパワー、しかも5速MTの260RSの運転は一見ハードルが高そうだが、実際は?
「教習車からすぐ260RSに乗ったので、MTが普通の感覚です。でも、車重や剛性感の違いを感じましたね。逆にパワーのあるほうが乗りやすいと思いました」
こうして、念願の260RSとのカーライフがスタートした。自身の愛車となり、所有して感じたことを伺ってみた。
「260RSを運転するときに音楽は聴きません。…というより、RBのエンジン音のほうが心地良くて(笑)。それに、他の音が入ることで気が散って、クラッチのリズムも崩れてしまうのです。その代わりエンジンの音がよく聞こえるので、アクセル開度によって『今、良い感じだったな』と思うことはよくありますね」
と、クルマとの対話を楽しむ様子を語るオーナー。
2000年というクルマの年式上、多少のトラブルも経験せざるを得ないだろう。オーナーはどのように対処してきたのだろうか。
「納車されてから3年は、ドライブシャフトブーツからのグリス漏れや、ブッシュからのオイル漏れをひたすら修理するなどメンテナンスしてきました。つい1年前にエアフロメーターが走行中に故障したときは焦りました。幸い夫と一緒だったので、運転を交代してもらってなんとか帰宅できました」
オーナーの260RSは、2000年初頭の個体とは思えないほど美しいコンディションを維持している。これもオーナーによるケアの賜物だろう。一見、オリジナルをキープしているように見えるが、モディファイした部分はあるのだろうか?
「今年の6月頃に足回りを交換しました。気になっていた修理がひととおり終わったので、サーキットに行く準備をしたいと思い、アラゴスタの車高調に交換しました。また、ニスモのパフォーマンスダンパーも装着しました。ニスモのパフォーマンスダンパーは、夫からのプレゼントです。気がついたら取り付けられていて、しかもサプライズでした。乗り心地も良くてしなやかです。あとは外からは見えないちょっとした部分をリフレッシュしています。ブッシュやドアモールなど、汎用品や他車種のものを加工して交換しています」
何と!!ご主人からの誕生日プレゼントがニスモのパフォーマンスダンパーという経験を持つ奥様もめったにいないだろう(笑)。さらに、愛車のもっとも気に入っている点を伺ってみた。
「仕事の試験の合格祝いに夫が作ってくれた『Autech Version』のエンブレムですね。後期型になると、フロントグリルに装着されていたエンブレムがなくなってしまうんです。もともと前期型が欲しかったので、エンブレムだけでも付けたかったんですよね。すると夫がプラ板を台座にして自作した『Autech Version』のエンブレムを作ってくれました。少しでも前期の雰囲気が出せるように…と、後期のグリルの台座に、本物の前期用オーテックバージョンのエンブレムを貼ってくれたんです」
この取材ではオーナーに「所有して変化したこと」を毎回お聞きしているが、オーナーの場合はずばり、理解ある優しいご主人との出会いではないだろうか(しかも、わざわざエンブレムまで制作してくれるような素敵な方なのだ!)。気になる馴れ初めについてもお聞きすることができた。
「クルマ好きな友達が近くに全然いなかったんです。父を毎回付き合わせるわけにもいかないので、ある日SNSを始めてみたんです。片っ端からステージアのオーナーをフォローして様子を見ていたところ『フルノーマルなんですか?稀少ですね』とコメントが来たんです。ステージアのオーナーさんは、ゴリゴリにモディファイしている方が多かったので、素の260RSが逆に目立っていたのかもしれません」
そのコメントをしてきたのが今のご主人だった。
「そうなんです。『ちょっとクルマを見せてもらえませんか』といわれまして。その前に、オフ会に2度ほど誘ってもらっていましたが、当時はオフ会というものがよくわからなくて“機会があれば”と流していたんですよね。そうしたら1対1で会おうといわれたんです(笑)。
私も知らない人と突然2人きりで会うなど想定していなかったので、とにかく人が多いところにしなければと、カー用品店で待ち合わせすることにしました。父にもお願いして一緒に来てもらうことにしました」
こうしてオーナー、オーナーの父親、未来のご主人との初対面というなんとも奇妙(?)なメンバーでの“プチオフ会”となったわけだが…。
「夫と父が意気投合してしまって、4時間もひたすら2人の話を聞いているという状況になってしまいました(笑)。私の知らないショップやレーサーの名前、パーツの話や、もはや何語なのかよく分からない用語が飛び交いながらずっと盛り上がっていて、それをずっと横で見ているという(苦笑)」
ちなみにご主人によると、オーナーのSNSは「クルマの写真と食べ物の写真しかアップしていなかったので性別も分からず、得体の知れないアカウントだった」とのこと。
まさに260RSが引き寄せた縁であり、運命に導かれて出逢ったとしか思えないような馴れ初めだ。
「260RSに乗っていなかったら、夫に出会えていなかったかもしれません。教習所で習ったことしか分からない私に、クルマへの負荷を軽減する運転技術を教えてくれることもあります。大切な愛車が壊れないために、いつも考えてくれていることに感謝しています」
そうご主人への感謝を語るオーナー。最後に、この260RSと今後どう接していきたいかを伺った。
「もう目の前から消える場面は見たくないので、どうにか一緒にいる環境をつくりたいと思っています。今後、内燃機関のクルマがなくなってしまったら、EVに改造してくれる会社を探そうと思っていますし、最悪でも車体だけでも飾っておきたいです。生涯一緒にいられたらと思っています。それと…もしできることなら父と同じ仕様の前期型の260RSも増車したいです(笑)」
実は取材当日、たまたまお父様がお近くにいらっしゃることが分かり、途中で顔を出していただいた。バイクに乗り、颯爽とライダーズスーツ姿で現れたお父様。オーナー、そしてご主人の3人でクルマ談義をしている様子は何とも微笑ましい光景だった。
ご主人、そして奥様、それぞれが「幼少期に父親が乗っていた愛車」を大人になって手に入れるといった共通の原体験を持つ。
SNSを通じて知り合い、お互いの原体験・生活圏・世代など…。偶然とは思えないほど共通するキーワードが多いことに改めて驚いた。運命の出逢いだとしても、あまりにもできすぎではないだろうか。
ご夫婦それぞれのカーライフへの理解や距離感、サポート、そして何よりリスペクト。ご主人のローレル(他にステージアやR34型スカイラインなどもお持ちだ)、そして奥様の260RS。今回の取材を通じて、クルマ好き同士のご夫婦としてうらやましいと思えるほど「究極の理想形」を垣間見たように思う。どうか、末永くお幸せに!!
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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