愛車は祖父との思い出とともに。22歳のオーナーが手に入れたトヨタ・クラウン セダン ロイヤルサルーン(S151型)

初めてクルマに触れたときの「原体験」を覚えているだろうか?

車窓から見える景色、車内のBGMとして聴こえてくる音楽、シートに座ったときの感触、滑らかな加速…などなど。「原体験」は人それぞれだろう。この何気ない「原体験」が、その後の人生やクルマの嗜好性に多大な影響を及ぼすことがある。今回の若きオーナーが現在の愛車を選んだ理由も、この「原体験」が影響を及ぼしているのかもしれない。詳しく話を伺ってみることにした。

「このクラウン セダン(以下、クラウン)は、2001年式です。『S151型』としては最終モデルにあたります。私は現在、22歳になりますが、愛車遍歴はこれが2台目。1台目のクルマもクラウン(S151型)でした。このときのボディカラーはブラックでしたが、故障が多くなって手放したんです。実は、日産・セドリック(Y31型)も気になっていたのですが、性能と信頼性を考慮して再びクラウン セダンを探すことにしました。そうしたら、シルバーメタリックのボディカラーで、なおかつドアミラーという珍しい個体が売られているのを発見。15万キロオーバーとは思えないほどコンディションが良かったので、購入を決めました」。

22歳という若さで、敢えてこの年代のクラウン、しかもセダンを選んだ理由はなぜだろうか?

「私の祖父が2台のクラウン ハードトップ(S13型およびS15型)を乗り継ぎまして、幼少期の私もこのクルマに乗せてもらったんです。このとき、クラウンの乗り心地と高級感に感動したことをよく覚えています。既に祖父は他界してしまったんですが、幼少期の記憶が忘れられずにいました。そこで、大人になって自分でもクラウンを所有してみたいと思うようになり、個人的にハードトップよりも高級感があると思ったセダンを手に入れました」。

クラウンという名を冠したクルマは1955年から現在に至るまで販売されているが、ピラードハードトップタイプと窓枠があるセダンタイプが存在していたのはS15系までとなる。オーナーの個体は、1995年から2001年まで生産された「S151型」の最終モデルということになる。ボディサイズは全長×全幅×全高:4840x1710x1450mm。「1JZ-GE」と呼ばれる、2491cc 直列6気筒DOHCエンジンの最大出力は200馬力を誇る。

ところで、若きオーナーのクラウンはどこかで見覚えのある…、まるで「覆面車」のような仕様になっているのだが、これは購入時からモディファイされていたのだろうか?

「購入時はフルノーマルでした。『ちょっと怪しいクルマ』をコンセプトに、トランクリッドアンテナや、ダイバーシティアンテナを取り付け、覆面車のようなモディファイを施しました。フロントバンパーのガイド棒は、取材当日に取り付けたばかりなんです。あとは、1台目のクラウンからホイールを移植しました」。

シルバーのクラウン(しかもセダン)。高速道路などを走っていたときに背後からこのクルマが現れたとしたら…、一瞬でもどきっとする人は少なくないはずだ。

「私はクラウンのセダンが好きなので、警察車輌マニアというわけではありません。何しろこの仕立てですから、高速道路ではとにかくじろじろ見られますね。実は、ディーラーのメカニックの仕事をしていまして、通勤にもこのクルマを使っています。先輩たちからは『何だか怪しいクルマが来たぞ!』と思われていたようですが、特に何も言われませんでした」。

この型のクラウンを2台乗り継いだことで、同世代の似た趣向を持つクルマ好きたちと知り合えたという。

「SNSを通じて、センチュリーやクラウンコンフォートなどを所有する同世代の仲間たちとも出会えました。お互いの予定を合わせてオフ会をすることもあります。そのため、仕事が休みの日には洗車とタイヤワックスが欠かせません!」。

撮影の合間に車内も拝見させてもらったのだが、17年前に生産されたとは思えないほど清潔に保たれている。ゴミひとつ落ちていないのだ。もちろん、洗車の際に車内も清掃しているのだろうと推察できるが、オーナーはクルマの扱い方そのものが丁寧なタイプなのかもしれない。そして、現在はもちろん、歴代オーナーが大切にしてきた個体であることは間違いない。そんなクラウンと、今度どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「経年劣化から傷んでいることが多いフロントグリルの王冠の状態も良好ですし、快適に乗れるクルマとしてこのままの状態を維持しながら、壊れるまで乗り続けたいですね。残念ながら、クラウンの良さを教えてくれた祖父は天国に行ってしまいました。しかし、このクルマを運転していると、亡くなった祖父の意思も一緒に乗せているような心境なんです」。

オーナー曰く「ちょっと怪しいクルマ」がコンセプトのようだが、本人は至って真面目な好青年だ。幼少期からミニカーに触れていて、将来、クルマに携われる仕事がしたいと思っていたと語るオーナー。中学生のときに自動車のメカニックという職種があることを知り、ついにその思いを実現させた。もし、今は亡き祖父が、クラウンではなく別のモデルに乗っていたら…。オーナーの人生もまた違ったものになっていたかもしれない。夕日に照らされたクラウンを眺めていると、もしかしたら、孫が取材を受ける様子を、祖父は天国から笑顔でそっと見守っていたのではないか?そう感じたのは、おそらく気のせいではないように思えるのだ。

【撮影地:品川埠頭周辺(東京都品川区)】

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]