21歳のオーナー初の愛車は人生を豊かにする存在! 2019年式ホンダ S660α(JW5型)

現行車・旧車を問わず、自分の好みとライフスタイルにマッチしたクルマと出会えることは、カーライフにおいて至上の喜びではないだろうか。

今回、理想的な愛車を手に入れてカーライフを満喫中のオーナーと出会った。

初の愛車がホンダ S660という21歳のオーナーが今回の主人公だ。ちなみに21歳という年齢は、史上最年少で同車の開発責任者に抜擢された椋本陵氏の年齢(当時22歳)とほぼ同年齢でもある。若きオーナーがどんなきっかけでクルマ好きになり、S660とどんなカーライフを楽しんでいるのかを詳しく伺った。

2015年にデビューしたホンダ S660(JW5型/以下、S660)は、2022年の3月をもって生産終了が決まっている。このクルマは1996年に生産を終えたホンダ ビートの後継モデルであり、軽規格・オープン2シーター・MRレイアウトというビートの特徴を受け継ぎ、同時にホンダ伝統のスポーツモデル「S」の血統も受け継いでいる。

車名の「S」は「スポーツ」の頭文字だ。歴代のSシリーズにはレーシングエンジン並みの高回転型エンジンを搭載。その時代の最新技術が投入され、オープンモデルが設定されてきた。高性能スポーツカーでありながら普段使いができ、オープンドライブも楽しめる“余白”のような部分には、日本の美意識さえ感じられるようだ。

S660のボディサイズは、全長×全幅×全高:3395x1475x1180mm。「S07A型」と呼ばれる排気量658cc、直列3気筒DOHCターボエンジンが搭載され、最高出力は64馬力。最高回転数は軽自動車ながら7700rpm(CVT車は7000rpm)を許容する。ソフトトップには着脱式の「ロールトップ」を採用。外した幌は筒状に巻いてフロントフードに設けたユーティリティボックスに収納できる。

オーナーの個体は、S660の生産終了が告知される前に運良く手に入れたという。街角のパーキングに佇む姿が美しい。さっそくオーナーに購入の経緯を伺った。

「私のS660は2019年式です。グレードは『α』で6MTモデルとなります。運転免許を取得してすぐ新車から乗りはじめて、現在の走行距離は約1万7000kmになりました。年間の走行距離は8500kmくらいでしょうか。オフ会やサーキット走行でしょっちゅう遠出をしているぶん、走行距離は伸び気味です(笑)」

楽しくてつい走行距離が伸びてしまうのもうなずける。続いてオーナーに、このS660を選んだ理由と購入の経緯を伺った。

「使用用途が自分と合っていたからです。長く乗れて街乗りとサーキット走行も楽しめるという条件を満たしつつ、維持費の面からS660に絞られました。カプチーノやコペン、ロードスターも候補でしたが、S660の方が好みもいろいろとマッチする部分が多かったです。気がつくとS660に“ベタ惚れ”でしたね。

購入当初はディーラーへ行って見積もりだけもらってこようとしていましたが、納期が掛かると聞いて即決してしまいました。後で知ったのですが、私が契約した直後にマイナーチェンジが行われたそうです。中期モデルのデザインが好きだった私にとってはラッキーでした」

「好みもいろいろとマッチする」と話すオーナー。このS660で気に入っている点は?

「まず、このボディカラーです。『フレンチブルーパール』という色なんですが、カタログに載っていた写真でいちばん綺麗だと感じたので選びました。そして、オープンにしたときの窓枠のない形状が好きですね。

中期モデルならではのデザインも気に入っています。例えば、フロントピラーが黒に塗り分けられている点や、クリアタイプのテールレンズなどです。オプションだったフューエルリッドカバーと、S660のロゴが発光するサイドステップガーニッシュも装着して良かったと思っています」

S660が生産終了になるにあたり、オーナーとしての現在の心境を伺ってみた。

「決して便利なクルマではないですし、2シーターで乗る人も制限されるため、長期間の生産はされないだろうとは思っていました。そして、中古車市場の高騰に驚いています。国産スポーツカー全般が高騰していますが、S660の中古車はとにかく高すぎますよね……。中古車サイトをチェックすることもありますが、未使用や低走行の個体が目立ちます。購入してまもなく売却されたと思うと、オーナーとして切なくなります」

複雑な心境を漏らすオーナーだが、同時にS660への想いはやはり熱い。そんなオーナー、幼い頃からクルマ好きだったのだろうか。

「私の父親がクルマ好きで、若い頃にスカイラインジャパンやカローラレビン(AE86型)などいろいろと乗り継いでいたらしいのですが、実際に影響を受けたのは、高校時代のアルバイト先でした。そこの先輩スタッフがRX-7(FD3S型)とマーチを所有していたことで、実際に乗せてもらったりクルマの話をしているうちにスポーツカーが好きになっていきました」

先輩の影響でクルマの魅力に目覚めていったわけだが、S660の前に好きなクルマはあったのだろうか?

「リトラクタブルヘッドライトが好みでドリフトにも興味があり、180SXが大好きなんです。正直、S660の前に購入を真剣に考えた1台でしたが、メンテナンスの問題から断念しました」

ドリフトに興味があるというオーナー。聞けば仲間とS660でサーキットも走行しているという。

「S660に乗る前からSNSで知り合ったクルマ仲間が多く、納車後は一緒にサーキットへ通うようになりました。友人たちはクレスタ・86・AE86・ロードスター・RX-7・アコード・インプレッサなどさまざまな車種に乗っています。いつもはS660でグリップ走行をしていますが、ジムカーナをするような練習用の広場へ行くと、友人のクレスタを借りて定常円旋回の練習をさせてもらうこともありますね。いつかテールスライドさせるような走りにも挑戦してみたいです」

初の愛車が「ピュアスポーツ」であるわけだが、S660を実際に所有してみて感じたことや心境の変化などを伺ってみた。

「運転免許取得後すぐに乗りはじめたので、他のクルマと比較したことはないんです。日常的にMTに乗っているため、ATとMTの違いを意識したこともありません。なにより自由にドライブできるようになった喜びを感じていますね。以前はオフ会へ行くときは友人のクルマに乗せてもらっていたので、自分も運転して一緒にS660のミーティングへ参加できることが本当にうれしいです!」

同じ車のオーナーとの交流は、カーライフにおいて大きな楽しみのひとつ。S660のミーティングには、どんなオーナーたちが参加しているのだろうか?

「私が知っているオーナーさんには、男性だけでなく、普段は大型ドライバーとして働く女性の方や、子育てが落ち着いてS660に乗りはじめた方がいらっしゃいますが、年代や職業は本当にさまざまです。ドレスアップにこだわって愛車を綺麗に仕上げているオーナーさんもたくさんいらっしゃいますよ」

オーナーのモディファイは現在、シフトノブをフィーリングに合ったものと交換しているのみだという。今後のモディファイの予定について尋ねてみた。

「純正のスタイルが好きなので、大きく外観を変えることはありません。今後はスポーツ走行に適したシートに交換、あるいはホイールを含めた足回りに手を入れるかもしれませんが、普段使いとサーキットを両立できるようにコンディション維持を重視したモディファイを心がけたいです。ちなみに父親はホイール交換に積極的で『渋い色にすると足元が引き締まった印象で良いよ』とアドバイスをくれますね(笑)。もしホイールを交換するなら、爽やかなホワイトも好きなのですが、ブロンズか黒に近い深い色のホイールを選ぼうかと思案中です」

S660の場合、現段階では部品供給の不安はないだろう。しかしこの先長く乗るにあたり、「部品供給への不安は他車種のオーナーと変わらない」とオーナーは話す。

「S660の部品は豊富ですが、今のうちにストックしておきたいと思っています。S660よりも年式の古いホンダ車に乗る友人からは『部品がない』という話を頻繁に聞くからです。S660もそうですが、ホンダには流用できるパーツが少ない印象です。特にゴム部品は劣化するため、保管や購入の頃合いは難しい面があります。このS660は長く乗りたいので、クルマの生産は終わっても、部品だけはリリースしてほしいと願っています」

特に90年代に生産された“ネオクラシック”と呼ばれつつあるクルマたちは、電子制御が多くなっているぶん、維持が困難となる可能性をはらんでいる。一方で古いクルマを大切に長く乗りたいと思っているオーナーは多い。この先、部品の再生産を含めた古いクルマのサポート体制が整うことを強く希望したい。

最後に、このS660と今後どのように接していきたいのかを伺ってみた。

「初めての愛車ということもあり、将来自分が乗りたいと思うクルマが存在していない可能性もあるので、S660を降りるつもりはありません。別のクルマにも乗りたいと思ったら“増車”したいと思います。そしていつの日か、父親を横に乗せて一緒にサーキットを走れたらいいですね」

“増車”というワードにオーナーの決意を感じる。“このS660を手放すつもりはない”ということと同義だからだ。そして、これから訪れるカーライフのさまざまな楽しみにワクワクしている様子も伝わってきた。

今、自動車業界全体が重大な転機を迎えていると思われる。正直、不安要素も少なからずあることも事実だ。

しかし、若きオーナーの話を伺っていると「未来のことも大事だけれど、それ以上に今をどう楽しむか」を忘れてはならないと痛感した。

オーナーよりも先に生まれ、これまでクルマの楽しさを存分に享受してきた者としては、自分と同じか、それ以上に充実したカーライフを送ってほしいと願わずにはいられない取材となった。

(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

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