父子の愛車はともにスバル・BRZ。24歳の息子が手に入れたのは、スバル・BRZ Yellow Edition

東京の夜はいつの時代もきらびやかだ。地方から上京してきた人にとって、このまばゆいほどの明るさは、ある種のカルチャーショックだったのではないだろうか。

そんな東京の街も、目が慣れてくると、場所によって少しずつ趣きが異なることに気づくはずだ。渋谷の喧噪、華やかでありながら落ち着きを放つ銀座周辺、高層マンションが林立する豊洲エリア。そんな、華やかな夜の東京を愛車でドライブするのは至福のひとときだ。コースを選ぶ際、外せない場所がいくつか存在する。そのひとつが東京タワーだろう。

東京タワーが竣工して、街のシンボルとなってからどれくらいの時が流れたのか、すぐに答えられるだろうか? 1958年12月のことだという。来年には開業60年目を迎えるのだ。ちなみに、東京スカイツリーが竣工したのは2012年、こちらは今年で丸5年となった。時の移ろいは早いと言わざるを得ない。

東京の街に新たなタワーが天に向かってそびえ立ったとき、東京タワーの存在が霞んでしまうかと思った。しかし、それは杞憂だったようだ。東京タワーと東京スカイツリー、それぞれに良さがあり、魅力を放っている。暖色系の暖かな光を放つ東京タワーは、いつの時代も街のシンボルであり、その時代を生きる人々を照らし続けてくれる。

そんな東京タワーを近くから見つめていたとき、最近交際を始めたばかりだという恋人とドライブを楽しんでいる若者と出会うことができた。夜の東京の街に浮かび上がるイエローのボディカラーが眩しいこのクルマのオーナーに、話し掛けてみることにした。

「このクルマは2016年式のスバル・BRZ Yellow Editionです。このボディカラーは『チャールサイトイエロー』っていうんです。スポーツカーらしい色合いが気に入っています」。

スバル・BRZ Yellow Editionは、2016年に販売された限定車だ。2012年に発売されたBRZがマイナーチェンジされたタイミングで、最上級グレードとして新たに設定・販売される予定であったGTをベースに仕立てられている。このマイナーチェンジに伴い、エンジンの出力向上やサスペンションの改良、ボディの補剛材の追加や制振材の見直し、ライト類のLED化。最上級グレードのGTには、brembo製ブレーキやSACHS製ダンパーが採用されるなど、多岐に亘る仕様変更が行われた。

スバル・BRZ Yellow Edition(以下、BRZ)は1000台が生産され、日本に割り当てられたのは100台のみという希少車だ。そんなBRZに惹かれた理由を伺ってみた。

「このクルマを手に入れるまでは、父と共同所有という形で前期型にあたるBRZのSというグレードに乗っていたんです。父は富士スピードウェイをBRZで走っていて、HKS製スーパーチャージャーやサーキット用の足まわりを組んだり、あらゆる箇所がモディファイされた仕様になっていて、街乗りが厳しくなってきたんですね。現在、私は24歳なんですが、そろそろ自分の愛車を持ちたいと思い始め、探し始めたときにYellow Editionの存在を知ったんです。一目惚れでしたね」。

BRZの限定車というと、購入するにも苦労があったと推察するが、どのような経緯で幸運を手にしたのだろうか?

「このクルマは100台限定ということでエントリーしたものの、抽選に漏れてしまったんですね。そこで、インターネットを駆使して売り物がないか必死に探しました。そうしたら、山形県のスバルディーラーに登録済み未使用車として売りに出されているのを見つけたんです。迷わずこのディーラーに電話して仮押さえしてもらい、即決しました。後でお店の方に聞いたんですが、インターネットに掲載して数時間後、私が最初に連絡したそうです。タッチの差で後から連絡された方が何人もいらっしゃったと伺っています。私もそうでしたが、抽選に漏れた方が必死で探していたんだと思います」。

「こうして念願だったYellow Editionを手に入れることができたオーナー。そこで思わぬ収穫があったそうだ。

「登録済み未使用車ということで、ほぼ新車の状態でした。購入時にカーナビとフロアマットを追加したくらいでフルノーマルだったんです。その結果、BRZ本来の素性の良さを知ることができたのは思わぬ収穫でしたね。ほとんどサーキット仕様にモディファイされた前期型のBRZに乗っている父も、私のクルマを運転してみて、マイナーチェンジ後の仕上がり具合に驚いていました」。

父親の影響で息子がクルマ好きになるというケースは、愛車紹介の取材でこれまで何度もあった。しかし、父子で同一のクルマをそれぞれが所有しているケースはこれが初めてだ。そんなオーナーも自然と父親の背中を追い掛けるようになっていったようだ。

「まず、フルノーマルの状態でサーキットを走ってみました。そこから、『ノーマルプラスαでよりクイックに走れること』をテーマに、自分好みのBRZに仕上げるべく、少しずつモディファイしているところです。現在は、ホイールをADVAN Racing製RG-D2(ハイパーブラック)18インチに交換、タイヤは前後ともADVAN NEOVA(サイズは255 35/ZR18)を組み合わせました。サスペンションはHKS製HIPERMAX IV SPをチョイス、マフラーは4本出しにこだわり、TRUST製コンフォートスポーツGTS ver.3、それに伴い、TRD製マフラーガーニッシュを装着しました。ドアのカーテシーライトはインターネットで購入し、自分で苦労しながら取り付けました。現在のモディファイ度は、自分なりにイメージする完成形の30%くらいでしょうか」。

人生初の愛車を手に入れただけでなく、モディファイも順調に進行しているようだ。そんなオーナーは、元々バイクが好きだったという。

「バイクが好きで、現在も『Triumph Daytona 675』というモデルを所有しています。クルマに興味を持ったのは大学生の頃。映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』の劇中で日産・スカイラインGT-R(R34型)を見たのがきっかけです。学生時代に、クルマやバイクの話ができた友人は数えるほどだったと思います」。

大学を卒業して社会人となったオーナーに出会いが訪れる。ドライブ中に立ち寄った首都高のパーキングエリアで、現在の恋人となる彼女と知り合うこととなる。

「共通の友人を介して知り合ったんですが、彼女はバイク乗りだったんですね。しかも、私が所有している『Triumph Daytona 675』に憧れているというんです。マニアックですよね。同い年で住まいも近かったし、偶然が重なったこともあり、自然と付き合うようになりました」。

実は取材の翌日、彼女のバイクが納車されるという。手に入れたのはもちろん『Triumph Daytona 675』だ。父子で同じBRZに乗り、恋人と同じバイクを所有するオーナー。今後、このクルマとはどのように接していきたいのだろうか。

「エアロも組んでみたいですし、ターボ化にも憧れます。何だか、父親のモディファイを追い掛けているような気がしますね(笑)。親子で双方のBRZを乗り替えたり、一緒にサーキットへ行くこともありますよ。そんな親子を見て母親は呆れているようです。しかし、母親もかつてホンダ・シビックType-Rに乗っていたこともあるようなので、理解はしてくれているみたいです。『チャールサイトイエロー』のボディカラーや、ホイールのツライチ感も気に入っています。苦労してようやく手に入れた愛車ですし、これからも大切に乗り続けます!」。

父親と同じ愛車であるBRZも、彼女との出会いも、ほんのわずかでもタイミングがずれていたら実現しなかったはずだ。不思議な引力を持つオーナーは、これからも偶然の出会いを必然へと変えていくはずだ。そしていつの日にか、サーキットで父親の前を走る日が訪れるに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]